赤月詩子は友達が欲しい3
放課後。
やっと学校からの束縛から解放され、すぐさま教室の外に出て詩にゃんを観察していた。
教室にいると、ぼっち撲滅運動の餌食になる。
今の俺は張り込みの刑事のように教室に背中を傾け、中の様子を伺っていた。
詩にゃんは放課後になると、クラスメイトたちに声をかけるため、動き回っていた。
一人一人挨拶をしている姿は、人との繋がりの第一歩は挨拶だという、詩にゃんの姿勢を感じられた。
彼女は誰よりも繋がりの脆さを知っているのかもしれない。
人との繋がりの主導権はお互いにある。どちらかが手を離せば簡単に崩れ去る砂上の楼閣だ。恋人関係だって同じだろう。
恋人も友達も、意識の問題で根底にあるものは同じなのかもしれない。
挨拶周りと言う名の布教活動も終えたのか、教室で詩にゃんは一人になった。
皆の聖女様にしては異様な光景。
常に誰かと行動を共にしているイメージがある分、それが際立っていた。
周囲の人影を探すように周りをキョロキョロすると、俺と視線が合う。
「八木君、どうしたのそんなところに立って、もしかして、椿さんを待ってるの? 本当に仲良しなんだね」
詩ちゃんの笑顔は演じているようには見えない。どこか嬉しそうに笑っていた。
「そう言われると否定はできないね。そういう、詩にゃんは、最後まで教室に残って何してるの?」
「私、学級委員長だから教室の戸締まり担当なんだ。それで最後まで残ってるんだ」
最もらしい理由だ。しかし、それは本来日直の仕事だ。義務ではない。このクラスでは学級委員長がすることになっている。
初めてのホームルームで、誰よりも早く手を上げていた女の子がいた。先生が委員を決めると宣言した瞬間、自ら名乗りを上げたのだ。
本来なら、クラス委員長なんて役職は、押し付けじゃんけん大会の罰ゲームだ。
彼女の献身的な行動と発言に、日曜日夕方アニメの丸メガネ君を連想したことを覚えている。
「スバリ、学級委員は寂しがり屋ってことでしょう」
静寂が流れた。
道化を演じ滑り倒した俺が滑稽に見える。現実に『ズバリ何々でしょう』なんて言う奴いるわけないもんね。知ってる知ってる。
「そう……なのかな」
不安や焦りを含んだような自信のなさに、誰にも見せたくない心のうちに触れたような気がした。
「君は、誰かと一緒にいるのが大好きだからね。きっとそうだと思うよ」
「なんか、八木君。いつもより親身ですね。もしかして、そこで待ってたのって私だったりしますか?」
まさかのミラーコート、俺が特殊アタッカーだと見破っただと。
詩にゃんが図星をついてきたことに、動揺したが、気を取り直そう。
「どうして、そう思うの?」
「だって、詩にゃんって言わなかったから、私に話があるのかなって、思っちゃいました」
うそーん、オーマイガー! 俺の気の利いた言葉回しが仇になっちゃうなんて、どうやって挽回する。
早く来てくれ、シーザー!
心の中で真鈴に救難信号を送るが、そんな物をキャッチする能力は絶対的美少女にも無理だろう。
「もしかして、土曜日の件ですか? 詳しいお話まだでしたね」
……そういや、時間と集合場所を聞いてなかったわ。
「ねぇ、なにを話してるのかしら?」
ひょっこり、俺の後ろから、両腕を掴んで、横から顔を出す感じで、俺の相棒が現れた。
「よく来てくれたシーザー、一緒に戦ってくれ」
「シーザーって誰?」
椿はサブカルには詳しくないようだ。これじゃ俺がお茶目なだけになってしまうな。
「君は『そのあだ名はちょっと嫌かしら、まだ、名前で呼ばれてないのにそんな変な愛称つけられるくらいなら、マリーンとかの方がマシよ?』と言う」
もう開き直って、行くとところまで行こう。
「変な照れ隠しだね。でもマーリンって読んでくれるんだ。やった」
くるりと、俺の前に出てそう言うと、小さくガッツポーズを決めていた。
「マーリン、いや、マリンでお願いします」
今日の俺は駄目だな。墓穴しか掘りそうにない。
「ふふ、やっと名前で呼んでくれたわね、奏君」
マリンは曇りない笑顔で微笑む。
俺に名前を呼ばれたくらいで喜ぶ女子なんているわけない。美少女の皮の面は相当暑いみたいだ。
「その、本当に仲良しなんですね。ちょっと羨ましく思えてきますね」
おっと、これ以上マリンと話してたら目の前の聖女に逃げられる。
「……その、私はお邪魔になっちゃいそうなので、また、改めてクラスの集まりについて話しましょうか?」
当たり障りもない言葉。それは能動的に見せた、受動的なセリフに見える。
「詩にゃんさん、だったかしら、全然邪魔じゃないわよ。ウェルカム・カモンよ。グイグイ、人の敷地を踏み荒らす勢いで、邪魔しちゃってちょうだい」
予想外の変動に詩にゃんはフリーズした。もしかしたら、身体が重くて動けないかもしれない。 誘い込むどころか、マリン自ら射程圏内に捉えたようだ。
「さすがマリン、俺たちにできない事を平然とやってのける。そこにシビれる! あこがれるゥ!」
「当たり前じゃない。美少女である私にできないことなんてないのよ!」
俺たちの茶番劇によって、正直自分でも何をやってるか分からない。
情報の大洪水で詩にゃんはパニックになっている。こんな会話普段からするやつはいない。俺も始めてだ。
回答を見つけられない。そんな焦りと動揺を抱えながら、目を泳がせる。詩にゃんにとって、未知の光景だから。
正直、新たな自分を垣間見て、俺も自分がこんな風に流暢に喋れるんだって、驚いてる真っ最中だ。
ただ一人、純粋に会話を楽しんでいる美少女は、何を思っているのだろうか。
「詩にゃんさん、逆に聞くけど、私たちがお邪魔だったり、しないかしら、今日の奏君はちょっと、ドーパミンが多いみたいだから。賑やかよ。きっと、私に会えたのが嬉しかったのね。、そうと思うでしょ、ね、ね、ね」
詩にゃんが、無理やり身体を撫で回された猫みたいに、身を引いていた。
「え、え………え?」




