元幼馴染の名前は草凪ソプラである3
俺の知っている草凪ソプラは、ひとことに言えば、未完成のツンデレだ。
幼少期、一緒に遊んだ時のデレ期。
たった一度の暴言が酷かった中学時代のツン期。
ため息が自然と出る。
それも深いやつだ。
「カナデ……?」
相当態度が悪かったのか、ソプラの顔が冷え切っていた。
別に今更、悪感情なんて抱いていない。
俺自身、自分が『気持ち悪い』という事実は認めている。
幻想に恋して、勝手に悲劇の主人公を演じる痛い奴、それが俺だ。
そこで終わり。俺はこの子と関わるつもりはない。
俺が先に『気持ち悪い』ことを言ったんだから、
ソプラが酷いことを言った時点で、
俺の罪は清算されている。
これで晴れて他人同士になっている。
「茶番はおしまい。本題に入ろう」
前半はガチで、ソプラちゃんを過去の亡霊、もしくは、他人の空似が過ぎる珍しいお子様だと思っていた。
だって、草凪ソプラが俺に会いに来ることはない。そう思うのが自然だからだ。
「茶番……本題?」
ソプラは俺の言葉の真意を読み取れず困惑する。
気丈に振る舞っているだけだ。
警戒は当然だ。
昔の思い出を語り、想いを告げたら、罵倒されたんだから。
喧嘩両成敗で不問にしたとしても、今更、接し方なんてわからない。
「茶番だったのね。さすがお姉さんのかなでよ」
ここには場をかき乱す天才がいる。
お姉さんに場を無茶苦茶にしてもらおう。
「君は俺のことが嫌いなんだよね、何の用事があるわけ?」
「嫌い……言ってないよ」
ソプラは俺から距離をとる。
快晴な青空とは対照的に、ソプラの顔から明るさが消えていく。
「あの時の言葉は、思い出せるだけノートに書き記したから、確認すればわかる」
あの日のことを、戒めにするため、書き記したノート、最近見かけてないけど、どこにしまったっけ?
「かなで、ごめんなさい。それ、お姉さんが捨てちゃった」
そっか、捨てちゃったかー。
「ちなみに何で?」
「詩子ちゃんと真鈴ちゃんが傍にいるから、もういらないかなって」
お姉さんの心遣いが身に沁みる。
嬉しくて涙出ちゃいそうだ。
「言った、言ってないはこの際、どうでもいい。でも、俺のことを『気持ち悪い』と思ってるんだろ? 今更、何が目的で近づいたんだ?」
別に小学生みたいに低レベルの、揚げ足取り合戦をしたい訳ではない。
俺はクールであり無感情だ。
これは単なる事実確認である。
気持ち悪い奴に近づくなんて、普通はしない。
だからこそ、特別な理由があるはずだ。
「カ、カナデに……謝りたくて……きた」
絞り出すように、ソプラは言葉を口にする。
一度は酷い言葉で、傷つけた相手に懺悔する。
ただ、形だけの謝罪なら、さっさと口にして、この場を去ればいい。
許しを請いたいからこそ、否定されるのは怖いはずだ。
その恐怖を抱え行動した。それを勇気と言わず何というのか。
アニメによってチューニングされた脳みそが、そう結論づけた。
「酷いこと言って、ごめんなさい」
頭を深く下げる。その肩は震えていた。
まるで、どんな罵倒も受け入れる覚悟ができているみたいだ。
誠意を見せるソプラを相手に、天ネェは居心地が悪そうだ。怒りたいけど、ここで怒るのは大人げない。そんな誇りを感じる。
天ネェは俺の為に怒ってるだけで、基本、人懐っこい犬みたいな人だからね。
「……もう、いいよ。ちゃんと謝れたんなら、それは褒められるべきことだ」
別に憎んでるわけではない。
たしかに傷つきはした。
けど同時に、幻想に恋をしていた自分を捨てる、きっかけにもなったのだ。
八年間、何の拘束力のない約束に縋っていた、俺も悪かったんだろう。
「それに、今はそんなに気にしていない」
そう思えるほどに、大切なものが出来たから。
今度は、ちゃんと目の前の人間を見ようと思う。
たぶん、失恋しなかったら、そう思わずに夢の中に囚われたまま、外面しか見ない奴だったはずだ。
「Я тебя люблю(大好き)……」
銀髪少女ソプラちゃんは、アイドル顔負けのルックスで、トロけるように笑みを浮かべている。
相変わらず、何言ってんのか分からない。
たぶん、心が軽くなって安心したんだろう。
「かなで、いいの?」
天ネェは心配そうに俺を見る。
「まぁ、いいんじゃない? もう他人だし、関わることもないだろうから……」
ソプラは俺の服の袖を掴む。
まるで捨てられる子犬のように、つぶらな瞳で俺を見る。
「カナデ、ソプラのこと嫌い?」
まるで、愛してよ、と言われてると錯覚するほど、草凪ソプラは可愛かった。
だが、安心してくれ、俺はもう騙されない。
「安心していいよ。もう何とも思っていないから、これで胸のつかえも取れて夜もぐっすりだね」
昔、傷つけた相手からの報復。これが何よりも怖いはずだ。
だが、俺はそんなことにリソースは割かない。
未来は明るいほうがいいからだ。
「Дурак(バカ)……」
何故かソプラは、不貞腐れたように頬を膨らませていた。
パンパン、と手を叩く音が鳴る。
天ネェが慎重な顔になっていた。
「いつまでも、こんなところに立ってると他の人の迷惑になるわ。お話はお家でしましょう」
場を乱してほしいと天ネェには期待した。
まさか、家に招く選択を取るとは予想できなかった。
今日は暑いからな。
さっさと涼みたいところだ。




