閑話・思いやりは日本の心だと八木奏は思う
まりんと詩にゃんが家に遊びに来たのは午前中。
部屋に案内してドキドキ水着回が始まり、闇のゲームを終えて俺達は昼食の準備をしていた。
天ネェから帰りは遅くなると連絡がきていたから、三人分作ることになる。
「メェー君ってよく料理とか作るんですか?」
お手製親子丼を作ってあげたら、詩にゃんが俺の料理スキルについて尋ねてきた。
「作るけど簡単なものばかりだよ。麻婆豆腐、カレー、炒飯、親子丼、肉じゃが、アジの煮付け、ハンバーグ、ペペロンチーノとか、最近はプリンと茶碗蒸しも作るようになったな」
これくらいなら、誰でも作れる。
腹をすかした天ネェにご飯を与えるのは俺の役目であり、親不在の時にいつも作っていたら、いつの間に献立当番にさせられてしまった。
「メェー君はコックさんを目指してる!」
――今明かされた衝撃の事実!
みたいに詩にゃんが驚いている。
「詩子、このラインナップなら食堂の店主が関の山よ」
「でも、料理ができる男の子ってかっこいいよね」
思いもよらない言葉に、照れくささを覚えた。
小学生は足の速さ、中学生は頭の出来、高校生は将来性がモテの秘訣だと天ネェが言っていたな。
料理なんて生きていれば誰でも身につく技術だ。
つまり、呼吸をするだけでモテると同義。
「詩にゃんのご飯を毎日作らせてくれ」
かっこいいって沢山言われるにはそれしかない。
「最近、ラノベっていうのかしら、ラブコメを読むようになってね。その作中に、ヒロインに向かって『毎朝、みそ汁を作ってほしい』って言う場面があるのよ。それって現代の『今宵は月が綺麗ですね』と同じ意味らしわよ」
「いつの時代の話を知ってるんだ。もう令和だぞ、今は『一緒に投資しない?』がトレンドだ」
そんなトレンドはない。仮にそんな誘いに乗る奴ならお断り案件だ。
だが、情報社会において、株などの変動をリアルタイムで追える今、資産を共有する関係性にならないかという言い回しになると俺は思う。
「詩子、結婚したら必ず貴女がお金の管理をするのよ、次のお小遣いはしっかりと管理するのよ」
「リンちゃん、何を言ってるの?」
微妙に話が噛み合わない。
たぶん、俺達が何を話してるのか分からないんだね。
詩にゃんに思いの丈を伝えるときがもし来たら、ダイレクトアタックしないと伝わらないみたいだ。
俺は詩にゃんが好きだと思う。
異性としても、人としても、推しとしても。
「詩子、可愛い!」
まりんは身悶えながら、スプーンを詩にゃんのお口に運ぶ。
「無知なのをここまで可愛いと思わせるのは詩子しか私は知らない。はい、あーん」
「リンちゃん、私を小馬鹿にしてるんですね。でも残念、知ってるんだよ、一緒にいて楽しい人なら、何をしても楽しいってことですよね……はむ」
自慢気に反論して、あーんを受け入れる。
その姿にキュン死しそうになる。
何が今宵は月が綺麗ですねだ。
ダイレクトに「このお団子美味しですね。一口どうですか」って食べさせてもらって、「お返しにこちらからもどーぞ」ってあーんしてやるほうが絶対胸にくるものがあるぞ。
「奏、そんなに羨ましそうに見て、随分と柔らかくなったものね。オスティナート奏は卒業かしら?」
詩にゃんのお口に、あーんしたスプーンをそのまま使い、親子丼の卵と米を乗せて俺の口元へと運ぶ。
「はい、奏も特別に食べさせてあげる」
今更、女の子からのあーんに動揺する俺ではない。
それよりも恥ずかしいことを何度もしてきた。
女の子にアイスを食べさせてあげたり、
女の子にハグをして耳たぶに甘噛したり、
女の子の脱衣シーンを別の女の子に押し倒されながら見たり、
風呂場で水着姿のまま素手で洗いっこしたり、
過激な事故が起きたりと試練を乗り越えてきた。
住めば都というように、人間には適応能力がある。
俺は自信に溢れていた。
まりんから差し出されたスプーンを受け入れる。
お残し厳禁、食べさせてもらっているのだから、唇を挟み、唇を擦り付けるように食材を口の中へと確保する。
「どう、お味の方は?」
「もう少し砂糖を入れれば良かったと反省してる」
「それだけかしら? 詩子の顔を見ても同じことが言えるの?」
詩にゃんはお口に手を当て、恥ずかしそうに俺の口を見ていた。
砂糖を欲求した舌先がほんのり甘さを錯覚させる。
間接的に、想像力がフル回転した結果、幻味したということだろうか。
「甘いわね、奏」
「……そうだね」
まりんの攻めは終わらない。
俺の動揺を誘う手を次から次へと打てるのは、才能と呼ぶに相応しい。
これが『奏を詩子に惚れさせるために真鈴がからかう恋愛心理戦』だとしたら俺は連敗中だ。
俺が口をつけたスプーンで同じことをしたところで、まりんが動揺するとは思えない。
「ほら、お返しだ。まさか、嫌だとは言わないよな」
目には目を、歯に歯を、同じことをされたら同じことをして仕返しするのが原初の法典に記されている。
まりんは虚を突かれたような顔をした。
勝った、と思った矢先、目を閉じて口を大きく開く。
綺麗な歯並びが羨ましい。
そんな感想でお茶を濁さないと、大切なものを盗まれてしまいそうな魅力があった。
「――んっ」
まりんは味わいながら咀嚼し、最後はぺろりと舌で口を洗う。
「人に食べさせてもらうのも悪くなわね」
「メェー君、私もお願いしていいですか?」
「詩子にもしてあげないと、その前に、奏が一口食べてからでしょ?」
まりんは楽しそうに、詩にゃんに問いかける。
「わ、私は、その……」
俺は空気の読める男だ。
詩にゃんは俺がお腹を空かせないか心配しているいい子だから、俺に優先権を譲渡しているだけ。
カードゲームを嗜んでいる俺は順番に詳しいんだよ。
俺は一口食べて、そのままスプーンですくい、詩にゃんの口へ運んであげる。
ふむ、これが思いやり、日本の心か。
詩にゃんも満足気に口にしてくれた。
俺の精神統一によって導いた答えは間違っていないみたいだ。
3章、閉幕です。水着回でした。過激でした。
不快に思われた方がいましたらごめんなさい。
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