人生とゲームを掛け合わせたら、それは闇のゲームだよね?5
ボードゲームも終え、詩にゃんの好きなところ十個も言えた。
指名者により「可愛い、優しい、柔らかい」を使用禁止になってなお、言葉を展開した俺を褒めてほしい。
詩にゃんに抱擁しても嫌われない。
それがとてもうれしいと感じた。
「奏! 私が詩子にハグできないなら、奏が私をハグしてよ。ほら、席は空いてるわよ」
照れたように、顔を赤らめていた。
「人の部屋で水着になって、そのまま風呂場で洗いっこを提案した奴が何を照れてるんだよ」
そう、照れられるとこっちまで恥ずかしくなる。
「嫌なの? そうよね、詩子一筋だものね」
いつも自信に溢れてるまりんが弱々しいと調子が狂う。
「はぁ、私を抱きしめてくれる人がいないわ、シクシク」
「メェー君、リンちゃんを抱きしめてあげて」
仲間外れは可哀想だよ、と言わんばかりの眼差しを向けられた。
俺と詩にゃんは恋人同士ではない。
友達だ。ハグも友達同士なら自然だ。
俺とまりんは明確な関係性を言葉にするならビジネスパートナー、相棒ということだろうか。
相棒なら抱き合っても支え合うという定義が成り立つ。不自然じゃない。
「詩にゃんの頼みなら断れないね」
愛おしい詩にゃんの温もりから手を離すのは、幸せを手放すと同義だな。
ヒーローがなぜマントを羽織っているか知っているか、泣いている女の子を包み込んであげるためさ。
嘘泣きだろうと泣いてるんだから包み込もう。マントなんてしてないけど。
「奏?」
まさか抱きつくなんて思っていなかったのか、まりんが間抜けた声を漏らす。
「……奏、随分と積極的ね。何か吹っ切れたみたいな感じね。お風呂場での詩子の献身が奏を大人にしたのね。もう、魔法使いの道は絶たれたもの同然ね」
照れ隠しのつもりなのだろうか。
馬鹿にされてるようで、応援されてるようで、反応に困る。
「手だからノーカンだ……」
あれは不幸な事故だ。
俺の魔法使いの道はまだ続いている。
「今度、お願いしてみたら?」
「そういうのは最低でも恋人同士でするものだ」
「そうでない人たちも一定数してると思うけど」
「よそはよそ、うちはうちだ」
俺の動揺を誘って、マウントを取るつもりか。
今日のまりんは過激だ。
必死に勘違いさせるようなことを連続パンチしてくる。
俺が好きにならないと確信してるから、必死に恋に溺れるのだろうか。
実らない想いと、お互いに知っている。
悲劇と言うには生ぬるく、喜劇といえば理解に苦しい。
ハッピーエンドに幻想を抱いていた、もう一人の俺と違って、まりんの場合は結末を知っている。
それが唯一の救いだと言いたくはない。
けれど、皆がハッピーエンドになる方法なんて俺にはわからない。
ただ、吐き出すその時まで、毒を啜り合う関係なのだろう。
「詩にゃんの特等席はまりんも座っていいからな」
それを決めるのは詩にゃんだ。
俺に決める権利なんてない。
それでも、俺が独占欲を主張した。
なら折れるアピールも必要だということだ。
そう、メンツの問題的な?
ヤクザだって舐められたら終わりみたいなこと言ってるよね、知らないけど。
男には見栄を張らないといけない時があるということだ。
「メェー君、魔法使いってどういう意味ですか? 私とメェー君が何をしたら魔法使いの道が絶たれるんか!」
会話に必死に混ざろうとする詩にゃんを思わず抱きしめたくなる。
でも、今はまりんを抱きしめている。
「いい質問ね、奏が詩子とエッチなことを――」
「言わなくていいよ。詩にゃん、大人になってからね」
詩にゃんがエッチに興味を持ったらどうするつもりだ。
知らない男が詩にゃんの肩を抱き寄せている写真とか見せられた日には、殴り込みにいってその男の覚悟を試すぞ。
「大人になる前に、知らない男が詩子を大人にしたらどうするつもりよ。そんなことになったら、私、奏を殺す自信があるわ。詩子と奏がベストカップルよ」
まりんは耳打ちする。
「エッチ、大人になってから、魔法使い……?」
三つの単語を口にして、答えを探ろうとする詩にゃん。
真実に到達した詩にゃんの顔が真っ赤になった。
「そ、そのときはリンちゃんも一緒だよ!」
「え……」
何を勘違いしたのか、詩にゃんにとってのエッチはまりんも一緒にするらしい。
え、まじ知らないの?
この情報社会において、絶滅危惧種といって過言ない稀有な存在。
あまりの尊さに俺は言葉を失っていた。
まりんは顔を赤くしている。
「そうね、詩子がいいのなら、私は別に……」
また、今日みたいに詩にゃんの純粋さを逆手に取って、俺を誘惑するつもりか?
もう俺は詩にゃんに誘惑されてるから無駄だ。
操作系同士の戦いは早いものがちだからな。
詩にゃんの勝利だ。




