人生とゲームを掛け合わせたら、それは闇のゲームだよね?4
このボードゲームは言うなれば資産レースである。
人生を潤すものは仕事であり、家であり、お宝であり、家族である。
その価値をお金に変換して数値として目に見える形で競い合う。
人生の終わりにその価値が評価される。
まるで人生というのはお金を集めるために存在していると言われている気分だ。
俺達はそれぞれルールブックに従って、ゲームで手に入れたアイテムを換金していく。
「見て見て大金持ちよ。これがもし現実なら、詩子と奏を一生鳥籠の中で幸せにできるわよ」
まりんは玩具の紙幣の束を自慢気に見せびらかす。
「リンちゃん、私もリンちゃんとメェー君を幸せにするくらいありますよ」
詩にゃんも玩具の札束を手に取った。
「俺の手元には五千ドルしか残ってない……」
スタート地点と変動してない。あれ、俺もゲームに参加してたよね、どんな奇跡だよ。
「つまり、奏が最下位ってことになるわね。何をお願いしようかしら!」
玩具を買ってもらって興奮してる子供のように体を揺らしている。子供っぽいところがあるよな、まりんって。
「そういえばメェー君、ギャンブルカードの貧乏神って、どんな役割なんですか?」
貧乏神カード。
本来このゲームにそんな物は存在しない。
かつて、共にこのゲームを遊んだ女の子が作ったカードだ。
銀髪の鎌を持った女の子がデザインされている。
当時五歳ということもあり、デザインは子供ぽい。
負けが続いて、自分のことを貧乏神だとか言い出したんだっけ?
それで、作られたカードがこれだ。ルールは母さんが考えたんだっけ?
俺は手書きのルールブックに手を伸ばす。
「えーと、……ゲームの結果に影響はなさそうだからスルーでいいよ」
「そうなんですか?」
「俺が逆転する内容じゃない」
子供を宥めるような可愛いらしい内容だ。
気にすることはない。
「ふーん、それって負けを認めるってことね」
「負けは認める。罰ゲームだろ、良識の範囲で頼むな」
まりんは楽しそうに微笑む。
「そうね、なににしようかしら?」
ちらりと詩にゃんを見て、悪巧みを考える狐みたいに目を細めた。
「じゃあ、詩子の好きなところを十個言うこと、これならできるでしょ?」
「ふん、なんだそんなこと楽勝だな」
「ただし、可愛い、柔らかい、優しいの単語は禁止」
おーと、いきなり難易度が上がったぞ。
「はいスタート」
詩にゃんが期待を込めた眼差しを向ける。
詩にゃんを褒める常套句がほぼ封殺された。指名者の選択は的確に急所をえぐる。
「そうだな、良い香りがする」
「まずは一つ目ね」
「次に、目に入れても痛くないくらい庇護欲をそそられる」
「二つ目」
まりんがカウントをする。
詩にゃんは少し恥ずかしそうにしていた。
「餌付けしたくなるところ」
「メェー君、からかってますよね」
「三つ目」
これは愛だよ、詩にゃん。心の中で呟いた。
「触れると気持ちいい」
「四つ目、それは風呂場のことを思い出してるのかしら?」
なんのことを言ってるか僕にはわからないな。
詩にゃんの手はひんやりしてて気持ちいいじゃない?
「その笑顔は太陽のようで荒んだ俺の心を照らしてくれる」
「五つ目よ、乗ってきたわね」
人を褒めるって案外難しいな。
でも、好きな人を、推しを褒められなくて愛を語るなどにわかのすることだ。
「メェー君と呼んてくれるたびに、幸福感に包まれるところ」
「六つ目、甘美な響きは蜜の味ってことかしら」
「女の子として、その全体美が仕草が、芸術品のように心を掴んで離してくれない魅力に溢れている」
「七つ目、愛されてるわよ詩子」
詩にゃんが目を逸らす。恥ずかしくて直視できないのか。
「その瞳は宝石の様で、いつまでも俺だけを写してほしいと願いたくなる美しさがある」
「八つ目、どうしてかしら、私まで恥ずかしくなってきたわ」
チラチラと俺の顔を覗き込む詩にゃんが愛おしい。
「詩にゃんがそばにいるだけで安らぎを覚える安心感がある」
「九つ目、わかるわ、リラックス効果が詩子にはあるもの、人生の伴侶にしたくなるものね」
「そして、俺が触れても嫌がらないところ」
「ラスト、もうハグしちゃいなさいよ。奏も詩子もお互いにメロメロね」
詩にゃんがまりんの言葉に反応して、小さく両手を広げた。
期待を込めた勇気がそこにはあった。
薄っぺらな嘘なんて俺には要らない。
俺は思いっきり詩にゃんを抱きしめた。
「――私も、触られても嫌じゃないですよ?」
耳元で詩にゃんが囁く。
俺の鼓動と詩にゃんの鼓動が重なるのを感じる。
抱擁にはリラックス効果がある。
二十秒から三十秒行うことにより、ストレスの三分の一軽減される。
それが好きな人相手なら尚のことストレス軽減に繋がるだろう。
「ねぇ、奏、私も詩子を抱きしめたくなったんだけど、代わらない?」
まりんが羨ましそうに俺の服の袖を掴む。
「悪いな、まりん、詩にゃんの特等席は一人乗りなんだ。背中なら開いてるからしがみついたらどうだ?」
「私は詩子の大親友よ、特等席は私のものよ」
「私は、乗り物じゃないですよ……」
詩にゃんの声は満更でもないように聞こえた。




