人生とゲームを掛け合わせたら、それは闇のゲームだよね?1
不幸な事故はあったが、俺の洗浄ターンも終わった。
まりんも変なことを言わず行うこともなかった。
詩にゃんはちゃんと手を洗い洗浄へと戻った。
軽い雑談をする程度で、誰も事故について触れようとしなかったは救いだ。
そして、長い回想も終わり、今に至る。
「なかなか、楽しかったわね。また暇な時にしましょうよ」
「俺はもうごめんだ」
「メェー君嫌だった?」
「嫌じゃないけど……心臓に悪い」
「今度はもっと刺激的にしたいわ」
「結構刺激的だったよ、リンちゃん」
両手に花。
右にまりん、左に詩にゃん。
なぜか、寄り添う感じで俺に身を寄せている。
不思議なことに、もう慣れた。
刺激的だが嫌ではない。
不幸な事故のせいか、賢者になったのかもしれない。
「ふふ、でもまぁ、ゆっくりお湯に浸かるのも悪くないわね」
「そうだね、メェー君の肩に頭乗せるの落ち着くな」
もうすでに湯を楽しむ感じらしい。
もう二人が隣にいることに違和感を覚えなくなっている。
誰かに心を開くとはこんな感じなんだろう。
まりんは共犯者であり、ビジネスパートナー的な意味合いで信頼している。手元からなくなっても方向性の違いと納得できたはずだ。
もし、手元から離れたら少しは寂しさを感じるんだろうか。
詩にゃんは、可愛くて愛おしい推しの子だ。
好きになる努力をして、好きであることが普通になるようにしてきた。今では、好きだと自覚できる。
思い込みでも勘違いでも、それを嘘だと言いたくない。
幼馴染に『気持ち悪い』と言われたあの日から、もう誰かに期待することは止めたはずだ。
それでも、期待したくなる。
いつまでも二人が傍にいてくれることに。
でも、それは叶わないだろう。
俺はまりんを好きなってはならないから。
詩にゃんを選ぶことは決定事項だ。
本当に手放すには惜しいほどの可愛い女の子だね。
「どうしたのよ、まじまじ私の顔を見て、惚れちゃった?」
「詩にゃんは可愛いなって改めて思ったんだよ」
「詩子と比較するなんて……私が詩子に勝てるわけないでしょ」
「詩にゃんは可愛いしな」
「ええ、私達の共有財産よ」
「ちょっと、私はものじゃないですよ」
目の前の等身大の女の子に夢中で、幼馴染も面影は俺の中にはもうなかった。
かつての俺は幼馴染という幻想に縋っていて、あの子のことを見ているようで見ていなかったのかもしれない。
たしかに、あの頃の俺は『気持ち悪い』と言われるだけはある。
まりんの嫌った『中身を見ない気持ち悪い奴』だったんだ。
★☆
風呂場から俺の部屋へ舞台は代わり、それぞれ、普段着へと身を包む。
なぜだろう、服を着ていることに名残惜しさを感じてしまう。それだけに魅力的な光景だったのかもしれない。
きっと、他の女の子ならここまで思うことはなかっただろうね。
「さて、じゃあどうしようかしら?」
「宿題でもしますか?」
「悪い、俺は終わらせた」
「私も終わらせたわ」
「……もしかして、私だけ終わってない」
詩にゃんのぽかーんとしたお顔は、いつ見ても眼福なり。
「じゃあ、私と奏が手伝おうかしら?」
「ううん、大丈夫。せっかく集まったんだし、何か他のことしようよ」
と言われても、俺の部屋には漫画とゲームしかない。
「詩子のマッサージ――」
「そういうのはもういいよ」
詩にゃんは咄嗟に両手で可愛い象徴を隠す。
「詩子、可愛い!」
まりんのダイレクトハグが詩にゃんを襲う。
もう、挨拶みたいな感じになってるね。
何か遊べるものないか探すか。
ゲームはカードゲームに、トランプ、ボードゲーム、家庭用ゲーム機。
複数にで遊ぶとするなら、ボードゲームか家庭用ゲーム機。
「人生を模したボードゲームでもする?」
「悪くないわね。でも私はお互いに一つのシートの上で手足を指定した色に置いていくゲームをしたいわ」
「ないわ」
「私はボードゲームがいいな。楽しそう」
「詩子、体を動かさないと、健康に悪いわよ」
「頭が悪いまりんには運で人生を決めるゲームが適任だろ」
「失礼ね、勉強はできるほうよ」
「頭の柔軟性の話だよ」
「奏よりあるわ」
「じゃあ勝負だ」
「望むところよ」
「二人とも仲がいいね」
俺は押し入れからボードゲームを取り出す。
昔はよく遊んていた。大失恋からは一度も触ってなかったな。
「箱ボロボロね」
「まぁ、小学校に上る前から家にあるからな」
「大切にしてたんですね」
「まぁね」
箱を開け、プレイマップと台をセット。
ゲーム内通貨と役職カード、駒を振り分けた。
「ルールは分かれるよな?」
「ルーレットを回してスタート地点からその数字だけ動かし、止まったマスの指示に従うんでしょ。最終的に持ってる資産を比べて順位を決める。簡単よ」
「駒小さく手可愛いですね」
車型のコマにピンを挿すタイプだ。
最大六本させる。
まずは自分を一本として挿してスタート地点へと置く。
「メェー君、この車にペンで書いてる『ソプラ』ってなんですか?」
「……昔、仲良かった子が書いた名前だよ。自分専用だってね」
「そうなんですね。なら他の駒使いますね」
ソプラ、そんな名前だった気がする。
もうフルネームも思い出せない。
「奏にも仲のいい人がいたのね」
「俺が一匹キツネになる前の話だよ」
「キツネ?」
「それ、私が前に言った掛け言葉ですね。一匹狼と一匹キツネ」
「詩子、掛け言葉になってないわよ。せめて、『どっちも孤独でしょう』くらい言わないと」
「本当だ!」
もう孤独なキツネはどこにもいない。
ゲームの駒ですら対戦相手がいるだから、もともと一人な奴なんて案外いないのかもしれないね。




