恒常的に起きるスケベはラッキースケベと呼べるのだろうか5
毛を見たいと言うまりんの意見を跳ね除け、二人の女の子からの洗浄が続く。
まりんは俺に抱きつき両手で弄ぶかのように洗い始めた。背中にクッションを押し付けて動揺を誘っているみたいだ。俺に同じ技は二度は効かない。もうすでに反応してるから。
詩にゃんはお腹を丁寧に洗う。おへそに親指を入れ、俺がしたときのように熱心だった。
「メェー君、お腹に毛が生えてるんですね」
「奏って意外と毛深いのかしら、胸毛もジャリジャリとした手触りよ」
毛の話から、また毛の話。
普段、人に見せない分、処理なんてしない。
小鳥遊たちとプールに行った際は、上着を着ていたから気にしもしなかった。
腹と胸元を晒す二人を前にして、臆病なスタイルで臨むことは彼女たちの覚悟を軽視するようで、上半身裸にした。
女の子に毛の触り心地の感想をもらうというのは、どうにも居心地が悪い。
「奏、今日は我慢するけど、いつかアンダージャングルも見せてね」
「わ、私も……」
「詩にゃん、まりんと競わなくていいから、見ても楽しものではないよ」
まりんの手つきが挑発的だ。
男は女の子よりも鈍感だから、くすぐったいだけだ。悪いな未開発なんだ。
「詩子の方が柔らかかったけど、毛の触り心地は絶妙ね」
「レビューをやめろ、誰も得しないぞ」
「奏だって私の感触を楽しんだじゃない。これで公平よ」
「俺は真剣にまりんを洗っただけだよ」
詩にゃんはお腹の洗浄を終え、次は足へと視線が向かう。
俺の水着で隠されたアームストロング砲が僕はここにいるよって主張してる。無視してくれと願うばかりだ。
「メェー君、その、大きくなってますけど、これって痛くならないんですか?」
詩にゃんはアームストロング砲の性質についての知識はあるみたい。
純粋な質問なんだろう。子どもが赤ちゃんってどうしたらできるのって質問と同じ類だ。
日本の教育、保健体育とかで学んだところで、それがどういう状態かなんて、その性別でなければわからない。
つまり、この質問は日本教育の怠惰が生んだものであり、詩にゃんは悪くない。
「血が集まって血管が太くなってるなら、多少は痛いんじゃないかしら?」
まりんは俺の胸から手を離し、背中を洗い出す。
君たち、俺の体を使って保健体育の自習を始めるの止めよう。
「どうしたら、戻るんですか?」
それはね、冷水ぶっかけて、君たちが服を着たら戻ると思うよ。
なんて、言えるわけもない。
そもそも、詩にゃんはこの現象がなぜ起こっているのか理解しているのか、些か疑問だ。
「詩子、それは興奮した男性に見られる現象よ。犬だって、餌とか遊んでもらったりして興奮すればなるんだから、同じ哺乳類の人間でもそう変わらないわよ」
「つまり、私達と一緒に洗いっこしてメェー君も楽しいんだね」
これは拷問かな。
秘密を吐かなければ、純粋な乙女の幻想を汚すぞと言われているようだった。
「ふしぎですね、メェー君」
アットホームな雰囲気を出す詩にゃん。
「不思議ね、奏?」
まりんは挑発的に耳元で囁いた。
「本当に不思議だね」
もう同意するしかない。
まぁ、たしかに考えたら不思議だな。
誰かに教えてもらったわけでもない。遺伝子に組み込まれた仕組み、ある意味呼吸と同じだ。
生きるために必要なプロセス。人類の歴史ともいえる。
あれ、ならなんでこんなに動揺してるんだ俺。
やっぱり社会が悪いんじゃない?
人の欲は止まらない。
なら、当事者たちの誠実さが問われる領域だ。
それが守られないから、社会が厳しく制限をかけるのだろう。
誰か一人を殺していい権利を与えられ、一人目でも殺れば二人目への精神的防壁は瓦解する。やってはダメでも自制が利かなくなる。
「メェー君、メェー君」
思考の世界に浸っていると、詩にゃんの声で呼び戻される。
「その、洗ってもいいですか?」
バツの悪そうな口調で詩にゃんが言う。
洗いっこをしてるのだから、わざわざ許可などいらないと思うんだけど。それが詩にゃんの誠実さだとするなら嬉しいことだ。
「もちろんだ」
「は、はい!」
びっくりしたように詩にゃんは返事をした。
「奏、髪を洗うから目を閉じて」
俺は目を閉じる。泡が目に入ったら大変だもんね。
足に詩にゃんの手が触れる。
何事もなく終わると思った矢先、水着の中に詩にゃんの手が侵入する感触がある。
太ももを洗ってるのかな?
冷静を装っていると、突然の不意打ちに白い石鹸の泡が飛び散った。
★☆
あまりの醜態に涙が出てしまった。
なんて情けないんだろう。
詩にゃんは何が起こったのか理解できていなかった。
「詩にゃん、ごめん」
俺は謝ることしかできない。
破裂寸前だった風船に針が刺さった。その結果だ。
それでも、きっと俺が悪いのだろう。
「どうして、メェー君が謝るんですか?」
「取り敢えず、手を洗おうか。そこは自分でするから、もういいよ」
まりんは何事かと横から様子を見てきた。
「やるわね詩子、完敗だわ」
まりんが感慨深くそう言った。
これをラッキースケベというほど、俺は不真面目ではない。
単なる不幸な事故だ。
詩にゃんは小首を傾げたまま自分の手――ぬるりと光る指の隙間を、感触を確かめるように見つめていた。
きっと、石鹸の泡を見ているのだろう。




