八木奏はドレスコードが大事だと常々思う6
まりんはバスチェアに腰掛ける。
俺はマリンの正面から、詩にゃんは後ろから挟むように膝をつく。
視界にまりんしか映らない。
目の保養にはなるけど少々刺激が強い。
ボディソープの泡を手につけ、容器を詩にゃんに渡す。
「じゃあ、お望み通り、手で洗うぞ」
「どうぞ、やってちょうだい」
いざ、やるぞ。と構えたのはいいが、どこから手を付ければいいのか困る。
まりんの右腕を詩にゃんが洗い始めたので、俺は左腕から洗うことにした。
肩から肌を撫でるように手を動かす。
「奏、脇も忘れないでね」
「俺だけかよ」
「詩子はちゃんとやってくれてるもの」
詩にゃんは女の子だから俺と違って心理的ハードルが少ないんだよ。
覚悟を決めて手を脇下へと伸ばそうとした時、詩にゃんが「リンちゃんの肌、すべすべですね。メェー君もそう思いませんか?」とピュアすぎる爆弾を投下した。
脇下から二の腕、肘へと手を滑らせる。たしかに肌はすべすべだった。しかも柔らかい。
「人に、洗ってもらうなんて、こそばゆいもの、ね」
まりんは少し声が震えていた。
「にしても本当に綺麗な肌してるよな。毛の処理とかも抜かりが無いみたいだし」
脇にも毛が生えてなかった。俺なんて擦ればジャリジャリ音鳴らすよ?
「メェー君、私も毛を処理してるからすべすべだと思うよ」
「きっちりしてるな」
まぁ、わざわざ水着を見せるって意思で着てるんだから、よりよく見せる努力はしてても不思議じゃないよな。
これで脇毛が生えてましたなんてことになってみろ。俺が新しい扉を開くところだったぞ。
「まるで、物語のお姫様気分ね」
「随分と可愛い事言うね、どちらかと言うと女王様じゃない?」
「あら、奏は鞭で打たれたいのかしら?」
「ジャンルを間違えてるぞ」
最初はドギマギしていたけど、やってみれば大したことない。
人間の適応能力って凄いな。
「ほらほら、指と指の間もよ」
「楽しそうだな」
「だって、こんなこと心を許せる人にしか頼めないじゃない。奏と詩子にしてもらって嫌と思わないなら、そういうことでしょ?」
近づいてくる者達は美少女という外見にしか興味を示していない。まりんはその価値観のせいで、他人と自分に境界を作っていたのかもしれない。
心を許すことのできる人間とは、その境界の内側にいることを意味する。
自己の存在証明を失恋という形で否定されることで、まりんは初めて中身を評価されたと信頼することができる。
俺と詩にゃんを心許せる人だと信頼できるのは、まりんの中で裏切られた時の痛みよりも、信じて得られる喜びが優先されたからなんだろうか。
ふと、思う。
まりんは、まだ失恋をしたいのだろうか。
「じゃあ、今度は奏が胸下、詩子が胸元をお願いしようかしら?」
「リンちゃんはスケベですね」
「それはもう今さらじゃない。ここまできたら限界を攻めるわ」
今を精一杯楽しんでやろうと意気込むまりん。
まるで、いつか壊れる関係を予期して、今しか得られない幸福のために全力のようだ。
「奏、どうかしら?」
その時の俺は少し考え事をしていた。
まりんに言われたからと、まりんの胸下に手を突っ込んだ。
「――ひゅ……なかなか大胆ね、奏」
「ん、なにがだ……」
ポヨンポヨンな何かを両手で掴んでいた。
意外と重いんだな。と指に沈む肉圧に感想を抱く。
何をしてるんだろう?
恐る恐る、まりんの顔を覗くと、顔を少し赤らめて動揺していた。指が少し動くだけで、彼女の肩が微かに跳ねる。
「リンちゃん、どうしたんですか?」
まりんの後ろから、詩にゃんは様子を窺うように横から顔を出す。
詩にゃんと目が合う。目をパチパチとさせて、恥ずかしそうに口を開く。
「メェー君でも、その、胸を触りたいと思うんですね」
俺の人生経験でこんな場面の正しい解答なんて導き出せないよ。
慌てふためいて、手を離すか。それとも、何事もなく洗浄活動に戻るべきか。
俺の動揺が震わせていたせいか、まりんから、小さく声が溢れる。
「詩子も、胸元から水着の生地までお願い、ね。なんなら、水着の中もしていいわ、よ」
「水着の中は、自分でしてください」
「なら、奏に頼もうかしら?」
「やっぱり、私がしようかな!」
詩にゃんもまりんの胸を触りたいらしい。
これはチャンスだ。
「お、俺は満足したから、詩にゃんにあとは任せたよ」
そう言って、そっと手を離す。
名残惜しさが手に残っている。
「あら、まだ反対の胸が残ってるわよ?」
「わ、私、リンちゃんの胸を、下から上まで一人で洗いたい、です!」
詩にゃん、ナイスアシスト。
これ以上過激になると俺の危険アラートが鳴って、この舞台から逃げ出していたことだろう。
何事も節度は必要だ。
色々度が過ぎてると思うけど、踏み留まるという意識を持つことが大事だ。
「詩子のエッチ」
「リンちゃんに言われたくないよ」
「そうね、詩子がしたいなら仕方ないわね」
「もうっ――」
詩にゃんが後ろから手を出して、まりんの胸を掴んだ。
手のひらで持ち上げ揉むように撫で回し洗い始める。
「柔らかい、大きい……」
詩にゃんがその重みの感想を溢す。
詩にゃんは手を布の下へと入れると、目の前で洗われているまりんは耐えるように声を押さえる。
「んっ――」
目の保養……いや、目に毒だ。
視線を外しつつも、瞳孔が引き寄せられてしまう。
これが万有引力ならぬ万乳引力……
またつまらぬことを言ってしまった。
目の前の百合百合風景を眺めることしかできなくなり、目のやり場と居心地の悪さに地蔵になるしかなかった。
まりんの溢れる息と、魅惑的な悶えるまりんの姿。
「リンちゃん、気持ちいい?」
詩にゃんの挑発も相まって、脳が焼かれそうになる。
これを健全というには無理がある気がする。
詩にゃんも楽しくなってきたのか、手の動きにキレができてきたような気がする。その布を持ち上げそうな勢いだ。
「あ……」
「その、リンちゃん……ごめんね」
ラッキースケベって、この世に存在するんだね。
「詩子のエッチィ……」
恥じらいながら、まりんはズレてしまった布の位置を自ら戻した。
ほらね、ドレスコードは大事だよ。




