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失恋こそ至高の恋、学校一の美少女は失恋したい!振られるために【ぼっち】の俺の恋人作りに協力している――失恋青春計画  作者: アリティエ
3章・水着回

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八木奏はドレスコードが大事だと常々思う4


 俺は自宅の脱衣所で水着に着替えていた。

 今から女の子とお風呂に入るからだ。

 別にエロいことなんて何もない。

 ただ、入るだけだ。

 水着を着た者同士、同じ湯船に浸かるだけ、レジャー施設でも温水プールとかあるじゃん、それの自宅バージョンだ。


「着替えたよ」


 脱衣所の扉の前で待機している二人に声をかける

 スライド式の扉が開かれ、水着姿の少女二人が脱衣所へ足を進める。


「お楽しみタイムの始まりね」


 まりんは自分が水着姿でいることに、恥ずかしさを感じていないようだ。人様の家で水着姿になろうと策略するくらいだもんね。


「そんなにまじまじ見てるけど、私のプロポーションに見とれてるのかしら?」


「目の保養にする程度には、心の余裕が今の俺にはある」


「詩子、奏が見惚れてるみたいよ、やったわね」


 いやいや、小動物とか芸術品を眺める感じの保養だよ。 


「リンちゃんに見惚れてるんだよ、私はリンちゃんみたいにスタイル良くないもん」

「詩子が可愛い! 抱きしめる」


 まりんは詩にゃんに抱きつく。

 浴室一歩手前でこのテンション。不安しかない、俺は風呂場で何をさせられるんだよ……


「ほら、奏、詩子は可愛いわよね」

「何言ってんだ、詩にゃんは超可愛いんだよ俺も抱きしめたいね」

「なら、抱きしめればいいじゃない」

「詩にゃんにお願いされたらそうするさ」


 軽口を叩くのはもはや俺のルーティンになっているな。


「私は……メェー君になら抱きしめられても、いいよ?」


 期待を込められた眼差しがむず痒い。

 詩にゃんが甘えたいとご所望なら、俺に否定する理由はない。


 否定する理由はないんだけど、どう返答すればいいのか言葉が出ない。

 詩にゃんは俺の沈黙を否定と捉えたのか、ちょっと表情が暗くなり始める。

 

「じょ、冗談ですよ。引っかかりましたね……ははは」


 詩にゃんは冗談が慣れていない。最後には声が乾いていた。

 まりんが俺を睨んでいる。

 分かっているよ、勇気を出して甘えたのに期待した返答を貰えなかったんだ。ショックに決まっている。


 勇気には勇気で応えるのが礼儀だ。


 俺は詩にゃんの背中から左腕を回して肩を抱き、右手で腰を寄せる。


 前回は後ろから抱擁したが、今回は正面からだ。詩にゃんの顔が真横に来る。


 下着姿と同義の男女がゼロ距離で密着している。

 どう見ても異常事態だ。


 ほぼダイレクトに感じる詩にゃんの肌の感触と体温。詩にゃんの心臓の鼓動も肌で感じて、不思議な感覚だ。


 悪くないな。


「メェー君、お腹に何か当たってますよ?」


 思春期には刺激が強いことには変わりないんだけどね。

 

「本能だから気にしないでくれると助かる」

「本能?」


 詩にゃんは本当に理解していないのか、声が「ご飯まだ?」と拍子抜けするほど日常的なものだった。


「詩子が好きってことよ」

「その通りなんだけど、あんまり触れないでくれると助かるよ」

「私としては、もっと弄っていきたいのだけど」

「ねぇ、わざとそういう言い方してるよね。品性を忘れないで、最近乱れすぎてますよ」

「失礼ね、いやらしいと思うからいやらしく感じるのよ。詩子もそう思うでしょ?」


 腕の中で大人しくしている詩にゃんは、俺を抱きしめてきた。


「はい、思います。でも、リンちゃんはスケベだと思います」

「スケベって、二人にしかしないわよ。私をスケベって言うけど、触られて喜んでる詩子も同類よ」

「いやらしく思うから、いやらしく感じるってリンちゃんが言ったんですよ?」


 まりんの使った言い訳が、まりんに綺麗なカウンターを決める。

 詩にゃんにとって、俺への抱擁はいやらしくない。立派な友好行動であり下心はない。

 対して俺はどうだ。

 生物としての本能が機能している。そればかりは仕方のないことだ。生物として正常なんだから、そこが機能しないとある種の病気だ。

 否定しない。俺は詩にゃんに抱きついて興奮している。 

 あくまでも感情の高まりが体に出ているだけだ。


 童貞の血しか好まないヴァンパイアとか、一対一の殺し合いでしか興奮しないハンターとかと同じ類いだ。皆そういうの否定はしないだろ、それは理解できなくても共感しているからだ。愛は人それぞれだって。

 

「私はスケベじゃないわ。詩子と奏が好きなだけよ」


 まりんにとっての愛情表現もその類いなのかもしれない。


「……ほら、イチャつくのはお風呂に入ってからにしましょう。奏が慣れ始めたわ」

「何を企んでんだよ」

「それは入ってからのお楽しみよ。二人ばかり楽しんでて、ずるいわ。早く入りましょう」


 俺を使って何を楽しむつもりなのか。だいぶ耐性がついた俺を簡単に翻弄できると思うなよ。


 さて、詩にゃんを離さなきゃならないんだよね。もう一度抱きつきたいときはお願いしたらいいのかな。


 抱擁を挨拶代わりにできるようになってからが、一人前のデュエリストの証だ。


 欧米でもハグやチークキスを挨拶としてやってるくらいだし、価値観を更新していけばいいだけだよね。


 名残惜しさを残しつつ俺の腕から詩にゃんを解放したが、詩にゃんが俺を手放さない。


「詩にゃん、お風呂入るから手を離そうね」


 子供をあやすように頭を撫でると、一瞬強く抱きしめた後、詩にゃんは俺から手を離す。


 凄く満足そうな笑顔をしているから、嫌ではなかったようで何よりだ。



 

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