赤月詩子は友達が欲しい
昨日の放課後、あのカフェで過ごした風景を、埃っぽい教室と騒がしいクラスメイトたちが日常の風景へと上書きしていく。
危うくトキメキを感じたようなあの感覚はたぶん錯覚だ。
そう、自分に言い聞かせながら、昨日練った計画を実行する。
俺と椿は、詩にゃんの観察と接触を試みることにした。そして、金曜日の放課後に最終プランを練り上げる算段だ。
詩にゃんは『ひとりぼっち』を許さない。
俺が椿が一緒にいる間は、近づいてくることがない。
他クラスの椿は此処にはいない。
『私も一緒がいい』と駄々っ子アピールがウザかくて、無駄に説得力が働いたけど。
昼休みを告げるチャイムと共に、俺以外のクラスメイトたちは各々友達と一緒になり始めていた。
不思議なくらいに孤独を感じさせないこの空間には、いつも、詩にゃんがいる。
彼らは詩ニャンを中心に繋がった輪の群衆だ。
一人一人が全ての人と仲が良くなくても、詩にゃんに繋いでもらったその手を、宝物のように大事にしているのかもしれない。
詩にゃんがいなくなったとしても、孤独になる人は一人もいない。俺という例外を除けば。
「八木君、今日は一人なんだね。仲良しの椿さんはどうしたの?」
当然のように声をかけてくる『ひとりぼっち撲滅運動』の聖女様。この教室のジャンヌ・ダルクといったところか。
「まぁ、椿にだって一人を楽しみたいときがあるからね」
「一人を楽しみたいって、八木君みたいだね」
そりゃ、俺が考えた嘘だから、俺みたいになるわな。
「そうだね、俺みたいだね」
まるで友達同士かのように会話をする、俺と詩にゃん。
でも不思議なことに俺と詩にゃんは友達ではない。
「ふふ、そうだね。それなら、お昼は一人なのかな? 今日は珍しく教室で一人だから声かけちゃった」
基本的にフリータイムはこの娘から逃げるように、捕まる前に離脱していたからね。皮肉に聞こえるのは俺の性格のせい?
「そうなんだね。それで用事って何?」
当然、お昼を誘ってくるんだろうけど、ここは俺から誘うべきではない。
「よかったら私たちとお昼を一緒にしない?」
…………私、たち?




