お姉さんのブラコンは終わらない5
更衣室に戻りロッカーからスマホを取り出した。
チャットか電話かどちらで伝えた方がいいのだろうか。誠意を見せるなら電話だ。文字だと相手に伝わるまでにラグが発生する。
でもな、クラスメイトと女子込みで遊びに出かけたことを伝えるというのも変な話だ。
逆の立場ならモヤモヤするからという理由もあるが、それは単に俺が未熟者だからと結論づけることもできる。
それでも伝えるべきだと思う。
あの二人には誤解されたくないからだ。
俺は覚悟を決めて、まりんに電話をする。
『もしもし奏どうしたの? 私の声が恋しくなったの?』
「今日、小鳥遊と遊びに行くって言ったよな」
『そうね、それがどうしたのかしら?』
「いや、他にクラスメイトの女子が二人いるって伝えるの忘れてた気がしたから、一応伝えようと思って……」
『ふぅーん』
なんだろう、まりんの声に怒気が含まれてるような気がした。
「プールに来てるんだけど、天ネェも一緒だから大丈夫だ」
俺は一体何のフォローをしているんだろうか。
よく分からないが、まりんが不満を抱いたのは事実だ。
『プールね……奏が私たち以外で外出、しかもプールに行けるだなんて、相当舐めてたみたい。ごめんなさいね』
謝られてるのか、馬鹿にされてるのか。どっちだろう。
『つまり、私達二人の水着姿よりも先に女の子の水着を堪能してるわけね。そうなのね』
「堪能するほどガン見してないからね」
『そんなことはどうでもいいの……はぁ』
じゃあ、何が問題なんだよ。
『天音さんに変わってくれる?』
「なんでだよ」
『奏がアンポンタンだからよ』
「人の悪口はいけないと思います。俺の知ってるまりんさんはもっと可愛いです」
どうだ、悪口を言った相手から褒められるのは、罪悪感が生まれるよね。今回のことチャラにしてもいいって思うよね?
『いいから変わってちょうだい』
声が柔らかくなった気がする。褒めるって大事だね。
「ちょっと待ってくれ、今、更衣室だから」
通話を繋げたまま、外で待っている天ネェのところまで足を運ぶ。
「あ、奏もういいの?」
「まりんが天ネェと話したいって」
「まりんちゃんが?」
不思議そうにしている天ネェにスマホを渡す。
「はいはい、天音お姉さんですよ。こんにちは、まりんちゃん」
天ネェはまりんと会話中に相槌を入れていた。まりんが一方的に喋っているのだろう。
「分かったわ。プールにいる間、お姉さんがかなでを悩殺すればいいのね。頑張るわ」
何を吹き込まれたのか、天ネェが変なことを言い出した。「はい、かなで」とスマホを返されたので、耳元へ運ぶ。
『天音さんとは話をつけたわ。明日暇よね、暇じゃなかったら許さないけど、暇よね?』
明日はフリーにしろという圧を感じた。下手に忙しいなんて言ったら恨まれそうだ。
「ああ、暇だ」
『じゃあ、詩子と一緒に遊びに行くから家で待ってなさいね』
明日遊びに来るのか。俺何されちゃうわけ……
『奏が女の子も含めて遊びに出かけてることは、私から詩子に伝えてあげるから、私達のことは忘れて今日を楽しんでいいわよ。せっかく遊びに出かけてるんだから楽しまなきゃ損よ……それにあとのことは天音さんに頼んだしね。じゃあ、切るわね』
通話が切れる。
まりんのやつ、天ネェに何を頼んだんだろう。
まぁ、せっかく遊びに来たんだし楽しまなきゃ損というのは分からないでもない。
「かなで、今日はちゃんとエスコートしてね」
「いや、小鳥遊達もいるんだけど」
「見せつけちゃいましょう。お姉さんそういうの大得意!」
公衆の面前でも弟ラブは崩さない天ネェにとって、弟との交流は羞恥に分類されない。
「ほどほどにお願いね」
下手に「嫌だ、恥ずかしいよ」なんて言った日には、「恥ずかしくなくなるまで抱きつきましょう」なんて言われてしまう。
俺は天ネェの手を握って、プールサイドへ足を進める。
「かなで、手を繋ぐって少し恥ずかしいね」
天ネェは少し恥ずかしそうにしていた。いつもハグやらぱふぱふやらしてくるのに、ただの手繋ぎで動揺する意味が分からない。
「子供の頃から、よく手を繋いでると思うんだけど?」
「なんかお姉さんが子供みたいに思えない?」
何を言っているんだ、そこが長所だろう。
「エスコートといえば、腕を組むことだとお姉さんは思うの!」
「俺的にはそっちの方が恥ずかしいよ」
「かなでは、いや?」
少し悲しげに、天ネェは甘え声で聞いてきた。これで嫌なんて言えるかよ。
天ネェが腕組みを望むなら仕方ないよね。
「嫌じゃないよ」
天ネェは手を離し俺の腕に抱きついてきた。
『ぱふぱふ』と脳内で効果音が流れる。
「かなで大好きよ」
天ネェのブラコンも悪くはない。
飽きるまでそのままにしておいても良さそうだと、そう思えるくらいには心地が良かった。




