夏休みはまだ始まったばかりである1
俺が用意したパスタを食べ終えて、俺達は夏休みの宿題を始めていた。
天ネェは昨日夜更かししていたことも含め、はしゃぎ疲れたのか寝てしまった。
お互い気まずさのあまり、無言勉強会になっている。
宿題が捗ってしまう事態に……
勉強会と言う割に静かだ。
俺もまりんも詩にゃんも、ひとりぼっち勉強術が染み付いているのか、人に聞くという選択肢がないらしい。
俺達の関係は日が浅く、契約という普通とは違った繋がり方をしている。
だから、交友を深めるためのじゃれ合いから意識を逸らし、勉強という目的に切り替えると、こうも会話が続かない。
時折、二人と視線が合うと、耳たぶと唇に意識が向かうのか目を逸らされてしまう。
冷静になって、あの事態が如何にアブノーマルな交友方法だと自覚したのだろう。
集中力が切れ始め、俺はペンを持つ手を止める。
気晴らしにスマホを弄ると、グループチャットにメッセージが来ていた。
『元気か、心の友よ。今度、プールに行かね?』
クラスメイトの小鳥遊からだ。
なぜ、俺を誘う……
『お前のマネージャーにも聞いてみてくれ』
マネージャーとは何のことだ。
『お前、送る相手間違えてないか? 俺はアイドルじゃないぞ』
バスケ部エースの一件から、俺のことを友達か何かと勘違いしてるのか、時々、メッセージが飛んでくることがある。
この前なんか、赤月さんって、フリーなのか聞いてきたな。自分で聞けって返したけど。
即返信が返ってきた。
『赤月さんのことだよ。前に教室でお前と話すときは赤月さんが自分を通せって言ってたよな』
そう言えば、詩にゃんが友達独占法を打ち立ててたな。
『じゃあ、マネージャーにメッセージを送っていいかも、確認取ってからにしてもらえる?』
送信。
『チャットも駄目なのか!』
リアルタイムでやり取りしてるけど……あいつ暇してるのか?
「奏、さっきからスマホで何か打ち込んでるようだけど、浮気?」
「休憩中だよ。浮ついて気を散らしてるのって意味合いだろうけど、なんで誤解を生みそうなニュアンス含めてくるんだよ」
「私達というA5ランクを目の前に無視を決め込めるからよ」
「胃もたれしてるから休憩中だ」
友好ハムハムタイムがまだ消化できてないんだよ。
「メェー君は浮気なんてしませんよ……しませんよね?」
リアルで目のハイライト消えたと錯覚した。
他のライバーにファンを流さない時にする演出だよね?
「俺にとって詩にゃんはユニークフレンドだから安心してくれ」
「ユニークって?」
「唯一の、他にない、って意味ね。私は奏にとってどんな扱いなのかしら?」
まりんがいつもの調子で問いかける。
「まりんはビジネスパートナーだな」
「メェー君、どうしてビジネスパートナーなんですか?」
詩にゃんが不思議そうに聞いてきた。
「だって、俺の唯一の友達は詩にゃんだよ。まりんも友達だと矛盾するよね。だから、まりんは一緒に詩にゃんと友達で居続けるための相棒であり好敵手なんだよ」
「そうなんだね……」
詩にゃんは、俺とまりんを微笑ましく見ていた。
「メェー君とリンちゃんってお似合いだよね」
「詩子、それはどういう意味かしら?」
まりんの耳打ちするように、詩にゃんは何かを伝える。
まりんは少し照れたかと思うと直ぐに真剣な目つきに変わった。
「詩子……それは駄目よ」
「私は十分満足してるから大丈夫だよ」
肝心な内容は耳打ちで会話をしていて聞こえない。
二人の間で何を話してるのか俺にはわからない。
「おい、喧嘩ならこじれる前に謝ったほうが良いと思うよ」
詩にゃんはぽかーんとしている。
まりんは頭痛でもするのか右手で頭を押さえていた。
「奏……詩子は――」
「リンちゃん、しー」
俺には知られたくない内容らしい。
もしかして俺の詩にゃんに対する友好感情を疑われているのか。
確かに、軽い言葉ばかりで詩にゃんの心に刺さるようなことを言ってなかったかもしれない。
だが、言葉だけで伝わるものだろうか。
友好ハムハムでもするか?
いや。それを男からするのは下心があるようにしか見えない。
「奏、私達は女の子だってことを忘れないでね」
「見ればわかるけど……」
「わかってないから言ってるのよ……」
気持ちを察しろってことだろう。
天ネェがよく『女の子は愛されたい生き物』って言っている。
友愛を示すために必要なこと。
飾らず本心で接すること。
信頼を示すこと。
それは相手の信頼を信用すること。
「詩にゃん! 俺は覚悟を決めたよ」
「え?」
俺は詩にゃんの背後に回る。
今からすることは、友愛を示す儀式だ。
俺が詩にゃんを信頼していることを示すため。
左手で詩にゃんの右肩を掴み抱き寄せ、右手を詩にゃんのお腹に回す。
トドメに左の耳たぶにキスをした。
詩にゃんの信頼に、俺の人生をかけた最大の友愛行動だ。
「詩にゃん、俺の本気の気持ちだ」
最後の一押し。
完璧な友情を示したはずだ。




