友達って何をするものだっけ?5
今回、まりんと詩にゃんを天ネェに紹介した後は、勉強会を開く予定だった。
だが、蓋を開ければ、青いか疑わしい青春ラブコメ臭漂う空間が出来上がっていた。
詩にゃんは青春の女神だから、この空間のレーティングを下げてくれている気がする。
「奏、私の番よ、あーん」
もう何がって、聞き返すのが面倒になってきた。
期待してることはわかるよ?
でもさ、俺にそんなことされて嬉しいかって疑うのが俺なのよ。
天ネェは俺が好き。
詩にゃんは俺を友達として好き。
じゃあ、まりんは?
義務感で好きではないと、耳たぶ甘噛みで否定した。
当然、友達として、なんだろうと思うだろう。
でもね、俺はまりんと友達じゃないんだぜ。
そんな契約は結んでいない。
いつの間にそのスタンスに収まってるんだよ。
もちろん、失恋相手として、俺はそれに応える義務がある。
だが、これは義務感で応えるべきなんだろうか。
耳たぶに残った感触が俺にそう訴えてくる。
「かなで、そんなに椿ちゃんの口の中が気になるの、お姉さんのお口には無関心なのに?」
「メェー君もスケベ!」
考え事してたら、詩にゃんからスケベ認定されていた。
「いや、まりんのお口の中が綺麗だなって……」
俺は言い訳が下手です、素直な良い子なので。
予想外の発言には詩にゃんと天ネェが黙り込む。
まりんは恥ずかしそうに口を閉じていた。
アイスバーを袋から取り出し、まりんの口に、優しく突っ込む。
「ほら、お望みのものだ」
「いじわる」
まりんは一口だけアイスを口に入れると、舐めるかのように口の中で転がし始めた。
それは歪んだ口元を誤魔化す仕草にも見える。
「何だ、恥ずかしかったのか?」
いつも後手に回って受け身状態だった。
好戦的にからかってやるのも悪くないね。
カードゲーマーは後攻で捲くり札がない時、死んだ魚のような目をして受け身でいるしかないからね。
いざ、逆転の一手が来ると水を得た魚のように高揚するもんさ。
何やら不満そうに頬を膨らませるまりん。
可愛い顔もするもんじゃないか、俺がその辺のモブじゃないから、そんなトラップには嵌まらない。
ちゃんとレッド◯ブートは手札にある。
「奏、残りを手渡して」
どうやらサレンダーを決めるらしい。
俺は勝ち誇った顔で、アイスバーの優先権をまりんへ渡す。
「奏はまだ、食べさせて……もらってなかったわよね、 どうぞ?」
食べかけのアイスバーを俺へと向ける。
カウンターを決めさせてもらおう。
「いや、俺の分あるから、それは食べなよ」
ここで無理にでも俺に食べさせようとすれば、俺に食べて欲しいと言ってるようなものだ。
「奏に食べてほしいのよ……嫌かしら?」
チェーンしてカウンターを決めてきやがった。
……もうカウンターできる札が俺にはない。
否定すれば、意識してると思われる。
肯定すれば、嫌ではない事を認めることになる。
妥協案として嫌ではないが好きとは言ってない。これしか残されていない。
いや、まだ、効果処理は始まっていない。
詩にゃん&天ネェに救いの視線を送る。
まるでラブコメのワンシーンを観るみたいに期待の眼差しを向けられていた。
「奏、あーん」
審判の時が下された。
ふぅん、潔く負けを認められるのが真のカードゲーマーだ。
俺は諦めて口を開けた。
微かに溶けているミルクアイスはとても冷たくて甘い味がした。
「その……どうかしら?」
間接キスはまりんでも恥ずかしかったのか言葉が弱々しい。
「企業努力に感謝だな……」
もう下手なことは言わないようにしよう。
全部裏目に出ている気がする。
「そう……」
暫く、沈黙が流れる。
「椿ちゃん……いえ、真鈴ちゃん!」
静寂を破ったのは天ネェだった。
抱きかかえていた詩にゃんを離すと、天ネェはまりんに抱きついた。
「お姉さんは真鈴ちゃんを気に入りました!」
「――っ!」
いつも、余裕のまりんが動揺を隠せていない。
天ネェはじゃれつく大型犬みたいにまりんに体を擦りつける。
「こんなに初々しいもの見せられて、お姉さんは感動しました」
普段から詩にゃんにセクハラをしているまりんが、慌てふためいていた。
「お姉さんの方が意地悪だったよね。でも、真鈴ちゃんのこと好きになったわ」
天ネェはそう言うと、まりんの耳たぶを口で挟んだ。
「――んっ」
まりんの肩が跳ねた。
「んはぁ、これがまりんちゃんの友好の証でしょ? これでお姉さんとも仲良しね」
まりんは顔を真っ赤にして涙目になっていた。
「そ、そうれしゅね……」
まりんの呂律が回っていない。
「耳たぶの甘噛みってくせになるわ、うふふ」
そう言うと天ネェは二度目を行う。
まりんは肩を震わせ、目を瞑る。
「や…め――っ」
天ネェを押し返そうとしている両手にも力が入っていない。
「リンちゃん……はむ……」
詩にゃんも参戦してきた。
一人の女の子を、二人の女の子が絡み合うワンシーン。
思春期の男子高校生には刺激が強い。
下手に音を立てると巻き込まれかねない。
友達って何をするものかよく知らない。
たぶん、人それぞれなんだろう。
「かな……たす……っ――」
慣れない感覚に悶えてるまりん。
俺はそっと部屋から離れることにした。
ほら、男の子に、悶えてる姿とか見られたくないでしょ。
俺の優しさだ。




