友達って何をするものだっけ?1
夏休みとは人を堕落させるものだ。
夜ふかしできるし、朝寝坊し放題。
学校から出された宿題やって、ダラダラ過ごせる至福の時間。
エアコンの効いた部屋で、何の生産性のない日々に「平和だなぁ」と感想を口にすること。
それが本来の夏休みだ。
天音お姉さん(天ネェ)に、「例の友達をお家に連れて来なさい」とご指示を受けている。
人生最大の失恋が起きるまで、自分磨きに没頭していた。
あと、天ネェのお世話もあった。
あの頃の俺が友達を作らなかった理由だ。
今は『ひとりぼっち症候群』たる病気のせいで友達を作らないでいた。
八木奏十五歳は、人生初、お友達を家に招待するという一大イベントを迎えようとしている。
契約上、友達と定義しているが、友達ラベルが貼られていることには違いない。
「あ、メェー君、こんにちは」
「5分も遅刻よ。こんな猛暑の中待たせるなんて、そんなに汗びしゃな私たちが見たかったのかしら?」
麦わら帽子を被って白いワンピースをまとう。
その可憐な笑顔は可愛いの暴力だよ、詩にゃん。
ゆったりとした青いショートデニムに、黒いホルターネック。
髪をサイドに寄せ、白いうなじが視界にちらつく。
まりんは、あれだ……目のやり場に困る。
二人とも首筋に汗を流している。
「悪い、途中コンビニ寄ってたから少し遅れた」
そう言って、コンビニで買ったお茶と、アイスバーをそれぞれ、二人に渡す。
「ここから少し歩くからな。その詫びだよ」
「ありがとうメェー君……スイカのやつだ。私これすきなんだ」
「ありがたく頂戴するわね。当然、食べさせてくれるんでしょ?」
まりんはアイスバーを取り出して、俺に向ける。
「いや、自分で食べろよ。人に食べさせたら時間かかるし、溶け出したアイスが俺の手に垂れる」
「それもそうね、この形状だと最悪地面に落としちゃうかしら。長方形のやつなら頼めたわね」
「はい! メェー君のお家に行く前に買って行こうよ。私も食べさせてもらいたいです」
「うんうん、やっぱり人に食べさせてもらうアイスは格別よ。決まりね」
女子二人で食べさせ合いが決まった。
なるほど、女の子同士でアイスバーを食べさせ合うか、無限大な可能性に満ちていて悪くないな。
「家に着いたら勝手に食べさせ合いして貰っていいよ」
「まるで他人ごとのように言うわね。奏も参加よ」
姉の乱入が容易に想像できる。
「俺のお姉さんを攻略しない限り、それは不可能だと思うけどね」
超がつくほど過保護だからな。自分の役割を簡単には渡さないだろう。
「奏のお姉さんは随分と独占欲が強そうなのね」
「メェー君のお姉さんはどんな人なんですか?」
「うーん、そうだな……、とっても素直で思ったことすぐに口にする人かな?」
「素直ってところは奏そっくりなのね。会うのが楽しみだわ」
「いや、俺は素直じゃないだろ? 結構捻くれてる自覚は持ってるよ」
何事にも裏がある。カードゲームとかやってると、裏をかくことが鍛えられるから大得意だ。
「お姉さんに気に入られれば、奏にとって不利益にならなければ、何をしてもいいって、いうことね」
「何でそうなるんだよ」
「だって、お姉さんが一緒なら、ポッキーゲームも解禁なんでしょ?」
「ハンドからマウスにいつ進化したんだよ……ハンドトゥマウスな」
「マウストゥマウスの方がドキドキすると思わないかしら? 嫌なら、食べさせ合いっこで我慢するわ」
嫌……嫌ではないがそれを素直に認めるのは癪だ。
それと同時にドア・イン・ザ・フェイスを仕掛けられて、それに乗るのも癪だ。
「それは恋人同士ですることだろ?」
妥協回答。これが俺の精一杯だ。
「詩子は私とポッキーゲームしてくれないのかしら?」
俺の回答が完璧すぎて詩にゃんから陥落して、流れでポッキーゲーム大会でも開く魂胆か。
「え……それは、うーん――」
――悩んでいる詩にゃんの耳元で、まりんは何か小言を告げる。
ポッキーゲームは同性同士でもきついはずだ、詩にゃんでも簡単には同意しないはずだ。
「私もポッキーゲームがしたい! メェー君は私とポッキーゲームするの嫌かな?」
腕を後ろで組み、体をくねらせ、恥ずかしげに上目遣いで覗き込まれる。
『あざとい』と『可愛い』が交差する時、新たな物語が始まる。
「詩にゃんがやりたいなら、友達として応援するさ」
俺に詩にゃんを悲しませる行動は取れない。
それが小悪魔の囁きで唆された結果だとしても、詩にゃんイズハッピーは絶対だ。
ポッキーゲームってチキンレースみたいなものだろ?
臆病で小心者の俺には負ける未来しかないから安全だ。
「ちなみに、敗者は勝者の言うことを聞くことね」
小悪魔から悪魔のルールが追加されてしまった。
負けたら命令される。
勝ちにいっても事故に繋がるかもしれない。
それに必死に命令したがってるようにも見える。
もしくは、キスしたがってるようにも見えてしまう。
最悪、わざと負けようものなら、女の子に命令されたい変態としても扱われかねない。
詩にゃんは思わないだろうけど、まりんなら確実に煽ってくるだろう。
「……何でも望みを言えばいいさ」
勝負を投げる俺に、まりんは三日月のような笑みを深めた。
「まだ、ゲームは始まってないわよ?」
不戦敗は無いみたいです。




