八木奏は期待しない4
「八木ィィ! 」
「この ナルシスト!」
「赤月さんに散々歌わせて逃げんなよ!」
「空気読め、この人でなし」
青春ラブコメを茶番劇として終わらせた結果、観客を怒らせてしまった。
「いや、詩にゃんに散々歌わせてしまったから、俺も同じようにしちゃった、だけだよ」
「奏は随分と照れやね、じゃあ、私が一度口にするから、復唱してみなさい。『すきようたこ、スキだウタコ、スキスキダイスキ、愛してる』、はい」
断る理由が見当たらない。
拒否したら、言いたくないと思われてしまう。
詩にゃんを悲しませることになる。
詩にゃんを悲しませないために歌うんだ……いいな、俺。
「『すきようたこ、スキだウタコ、スキスキダイスキ、愛してる』」
元祖天ネェの『愛の歌』を毎日のように聞かされている俺の歌唱力を見よ。
詩にゃんは感動のあまり、俺の顔を眺めながら放心してる。
「ふふ、言えるじゃない。勝手に旋律を変えるなんて許さないわよ。奏はオスティナートが素敵なんだから」
「そのオスティナートってどういう意味なんだ?」
まりんが俺をオスティナートと表現することが多い。
俺は融合モンス召喚する方しか知らない。
「自分の信念を曲げない人のことよ」
まりんにとって、俺の信念とは決まってる。
『期待しない』ことだ。
「奏は人の気持ちなんて考えないで、面白おかしく場を盛り上げるのが得意じゃない。私も詩子も、それに救われてるのよ?」
まりんは恥ずかしげもなく言い切った。マジでその自信はどこから来るんだよ?
「私も、普段のかなでが素敵だと思うよ……メェー君だった、名前間違えちゃった」
「詩にゃん、間違えてはないからね。俺の名前は八木奏だから」
天ネェ直伝『愛の歌』を歌わせすぎて、詩にゃんがメェー君呼び忘れかけてる。
俺その呼び方お気に入りだから、危なかったぜ。
色々、思考を巡らせ過ぎて迷子になっていたみたいだ。
まりんの失恋相手として、俺がするべきことは『期待しない』ことだ。
それがまりんの信頼であり、詩にゃんの信頼にも繋がる。
詩にゃんを裏切ったら、友達契約の不履行で『死または結婚』だ。
詩にゃんに本気で嫌われない。それが誠意じゃないか。
「詩にゃん、もうお腹の調子は良さそうだ。心配かけてごめんね」
「お腹をさすりたかった!」
詩にゃんが積極的になったことに深い意味なんて求めない。
「そんなに、触りたいなら、触っていいよ」
「いいんですか、いきますよ。いきますからね」
「優しくしてね」
「い、痛くしないよう、頑張りゅます」
そう、期待しないから、俺は無敵だ。
最後、言葉を噛む詩にゃん、可愛いかよ!
いくら、自分を律しても本能が『こんにちは!』と、心の亀裂から顔を出してくる。
「はいはーい、そういうことは人の目のない所でやりましょう。奏の青春ラブコメ・エチュードのせいで皆が釘付けよ。そろそろ幕引きしないと、皆がご飯食べれないわ」
「それもそうだな。詩にゃんプチライブ&まりんの奏でるステージの幕閉じです。ご観覧ありがとうございました」
右手を胸に添えて、頭を下げる。
不自然かつ大袈裟な演出だと思われるだろう。
「最近、八木君、それするの好きだよね」
先週一緒に昼食をとった女子Aが言う。
「セラさんだったっけ? 詩にゃんの友達として、当然の振る舞いだよ。悲しいことに、俺はこうでもしないと何も話せないからね」
「八木君って距離感バグってるって、よく言われるでしょ」
「前に詩にゃんに言われたような気がする」
俺とセラさんが雑談してると、間を遮るように詩にゃんが割り込んできた。
「セラちゃん、私抜きでお話するのはだめぇ……君が寂しがると思うので、私達を通してください」
はい、ダメェー君です。あれ、今の俺って極度の構ってちゃんに見えてる?
「そうよ、セラちゃん。奏は私達の友達よ。こんな面白い人、そうそう渡さないから」
まりんも参加してきた。
「俺の株急上昇してるけど、崩壊しないよね!?」
そもそも俺に売る権利がない。
「安心しなさい。私は気に入ったものはいつまでも使い続ける主義よ」
「私も、メェー君と……友達ですから! 友達の手は絶対に離しませんよ」
俺達の事情を知らない奴が見れば、女の子二人に囲まれてる奴に見えることだろう。
でもね、俺達は契約で成り立っている関係だ。
俺が『期待しない』ことで、失恋相手に選ばれた
俺が『裏切らない』ことで、友達になった。
『期待しない』『裏切らない』が前提の関係である。
俺は青春を謳歌するために、この契約を結んだ。
俺が前提の契約だが、この関係の中心にはまりんがいる。
まりんが来た途端、悩んでいた事が馬鹿だったみたいにいつも通りだ。
「どのみち……まりんと詩にゃんがいないと青春なんて謳歌出来そうにないからね。全力で媚びていくから覚悟してね」
俺は期待しない。
「なら、私が抜粋した小説から、愛の言葉を熱烈に音にしてもらおうかしら?」
「はい、私はメェー君と、もっとお話したいです」
その方が息がしやすいからだ。




