八木天音は弟の努力を知っている2
奏の朝の目覚めを手伝い、朝食を終え、私達はリビングのソファに並んでアニメを見ていた。
「そう言えば、かなでは純愛系のラブコメしか見ないよね?」
「報われない努力をさせられているヒロインが不憫だから……」
地雷踏んじゃった。
「で、でも、ハーレムもの、いっぱい女の子をハブらせてるクズ主人公ものは見るよね?」
「あーあれ、ヒロイン自身も主人公の装飾品として扱われることに疑問を持ってないからね。不幸ではない分、娯楽としては楽しめるかな」
あの可愛かった奏はどこへ……
「お姉さんはかなでが好きだよ。純愛だ!」
「それは家族愛っていうんだよ」
「もし、世界がそれを許したら、お姉さんはお嫁さんかな!」
「世界が許したらね」
ふむ、世界が許せばありなのか。
本気で異世界へ行く方法探してみようかな。
「そう言えば、今朝のチャットの相手はお友達さんなんだよね。お姉さんに紹介してくれないの!」
「それは……その場に俺がいないならいいよ」
「何でさ!」
「その場がカオスになるのが目に見える。当事者は面倒だから……」
面倒と思っていても、面会は許してくれるんだ。
「そのお友達さんは、かなでにとって大事な人なの?」
「期待には応えたいと……思ってる」
許容できる範囲で言語化してるように見えた。
「いい子なんだね。お姉さんちょっと寂しい」
奏に体重を預ける。
いつもは無音を貫いている奏のスマホに着信が来た。
奏は私から離れようとしたから、咄嗟に腕にしがみつく。
「ここで電話してもお姉さん、迷惑じゃないよ」
「いや、ほら、電話相手にも聞かれたくないこととか……」
「お姉さんに言えない話をするの? そうやってお姉さんは忘れられていくんだね、お姉さん悲しい……」
観念したのか、奏はスマホの着信をとる。
『――もしもーし、奏?』
「どうしたんだよ」
『詩子が髪を下ろしたけど、凄く可愛かったわよ』
「何だと……写真はある?」
『え、写真がほしいって、詩子が嫌だって言ってたわよ。私達これからお家デートだから、また明日、学校でね』
通話が切れた。
スマホから漏れていた今の声、女の子のものだった。
「かなで! 今の『写真よろしく』って何! お姉ちゃんの自撮りは『容量の無駄』って消したのに、 その『ウタコ』って子は誰! それに声の主も女の子だったよね!」
私は奏の肩を掴んで、前後にガクガクと揺さぶる。
「……ただの冗談だよ、冗談」
冗談にしては悲しみが溢れ出てるよ。
「嘘だ! 本気で写真を欲しがってる! もうお姉ちゃん、グレちゃうからね! 奏を抱き枕にして二十四時間監禁の刑だからね!」
「それ、いつもと変わらないよね?」
「変わるもん、お風呂もトイレも一緒だもん」
「天ネェの写真を待ち受けにするから、それで勘弁してもらっていいですか?」
「本当! やったー! じゃあ、下着姿とかのほうがいい? それとまだ脱ぐ!?」
奏はスマホを向けて、パシャリと私をカメラに収めた。
「自然体の天ネェが一番可愛いよ」
昔は可愛かった奏は、今でも可愛いですけど、時々可愛くないのが、お姉さん複雑です。
「電話の女の子にも、そんな可愛くない言葉で仲良くなったのか、お姉さん心配ですね」
「……成り行きで、仲良くなったんだよ。一人は変な奴で、一人は推しだけど、大丈夫だよ」
「変な奴、推し?」
変わった人たちなのかもしれないけど、奏の表情から嫌で交友しているみたいではないようですね。
お姉さんとして、奏が他の女の子に尻尾を振るさまは見たくありませんが、トラウマを乗り越え変わろうとする弟の成長を喜ぶべきでしょう。
「今度、お家に連れてきて……もうすぐ夏休みでしょ、機会はたくさんあるからできるよね?」
「それは、二人次第だから、俺からは何とも……」
これ以上の我儘は、奏を無理させちゃうよね。
「お姉さんは別に怒ってるんじゃないからね。ただ、寂しいだけだから、お姉さんも仲間に入れてね」
「お、おう……」
奏から、初恋のアレ以外の話をしたのは、初めてかもしれない。
私は奏の努力を知らない。
でも、その変化を一番に知ることができるのは家族だけだ。




