赤月詩子の初めてのデート相手は大切な人である3
「今日は私の親は帰りが遅いから、詩子が帰るまで二人きりよ。ドキドキするわね」
「もう、その手に引っかからないからね」
「やーん、強がる詩子が可愛い!」
頭を撫でられながら、部屋へと案内されました。
リンちゃんのお部屋は、本棚に難しそうな本が沢山並べられて、ベッドの横には大きなクマさんのヌイグルミが置かれています。
「本とヌイグルミしかない部屋だけど、ゆっくり羽を伸ばしてて、下からグラスを持ってくるから。ベッドの匂いを堪能しててもいいからね」
そう言って部屋からリンちゃんは出ていきました。
匂いを嗅ぐなんてそんな変態チックなことはしませんよ。
人のお部屋にお邪魔するのは初めてで、少し落ち着きません。
今日は、メェー君の祝勝会の予定でした。
けど、メェー君は来れなくなって、私とリンちゃんだけで祝勝会です。
祝う人がいない祝勝会を祝勝会と呼べるのかは、少し疑問に思います。
これではただの女子会ですね。
本来なら、リンちゃんの部屋にメェー君もお邪魔してたんですね。
メェー君はリンちゃんのことを、どう思っているんでしょうか……
私とは友達になる契約を結びました。
リンちゃんとも友達になる契約を結んだんでしょうか?
そもそも、どういう接点で、仲良くなったんでしょう。
なんだか、考え出したら気になって来ちゃいました。
「そんなにモジモジ体を揺らしてどうしたの? 私の匂いに興奮しちゃった?」
「いい匂いだと、思います!」
「そう? ありがとう」
二人分のグラスを用意して、ここへ来る途中に立ち寄ったスーパーで買ったお菓子とジュースを並べます。
グラスにオレンジジュースを注いで準備完了しました。
「奏がクズスケベを詐欺契約書で打ち負かした祝勝会を、奏抜きで始めるわよ。乾杯」
「乾杯……でも、主役のいない祝勝会ってなんか変だね」
「奏の勝ちを祝う会よ。私たちだけで、盛大に祝ってあげましょう」
「そっか、それもそうだね。メェー君、すごーい!」
「奏はすごーい! 格好よかった!」
「メェー君、良い子!」
「奏は最高!」
「メェー君、クール!」
「奏は詩子が大好き!」
「メェー君は私が大好き!」
…………リンちゃんに釣られて変なこと言っちゃった。
リンちゃんが小さくガッツポーズをとっている。
また、ハメられました。
「うんうん、詩子は奏に大好きだと思われたかったのね」
「引っかけた!」
「そんな詩子が私は大好きよ!」
「好きって言えば誤魔化せると思ってるでしょ」
「そんなことないわ、例え、詩子に家族を皆殺しにされても、詩子の事が好きよ」
「そんな酷いことしないよ!」
「詩子が可愛い、よしよし」
私に抱きついて頭を撫でるリンちゃん。
「リンちゃん、私をおもちゃにしてるでしょ!」
「詩子は、私にこういうことをされるの嫌だったかしら?」
甘えるように頬と頬を擦り付けてくるリンちゃん。
柔らかい感触に甘い香り、優しく愛でるように抱きつくリンちゃん。
こんなの嫌いになれと言われる方が難しいよ。
「嫌じゃ、ない……けど」
恥ずかしい。
「恥ずかしいって思ったでしょ?」
「リンちゃん、心を読まないでください」
友達になったあの日、私の全てを見透かした人と同一人物とは思えない。
「詩子は奏が男の子として好き」
「そ、そんなことは……」
否定しきれない。
人として好き。
友達として好き。
男の子として好き。
どれか一つでも否定したら、私がメェー君を信じていないような気がした。
そんな感情を持っていても、それは好きと言えるのかな。
「嫌いなの?」
「嫌いじゃないです!」
「なら、好きでいいじゃない。否定する理由なんてないでしょ」
「それは……メェー君にとって、私は友達だよ。私がそんな感情を持っても迷惑じゃない……かな?」
メェー君にだって、きっと好きな人はいる。それが私だとは思えない。
「奏は元から『期待しない人』よ。なら、全力で期待してあげるくらいで対等よ。迷惑だと思わせるくらいがきっと丁度いいわ」
確かにメェー君は『期待しない』なのかもしれない。私がいくら声をかけても、見ようともしてくれなかった人だ。
そんな人をリンちゃんは動かした。
「リンちゃんは、どうやってメェー君と仲良くなったんですか?」
「それは……私がクズスケベから逃れるために偽の恋人を演じて貰ってたのよ。報酬として、青春作りに協力することになったの」
「私に声をかけたのも、それが理由ですか?」
「最初はそうね。でも、私が無理矢理、奏と詩子の関係を結ぼうとして、その過程で私が詩子と仲良くなりたいと思ったのよ」
たぶん、リンちゃんのことだから、無理矢理、メェー君を巻き込んだんだろう。
優しいメェー君は、それを放っておけなかったんだ。
自分から関わることはしないのに、期待されると答えようとする。
そっか、私はそんな優しいメェー君が好きなんだ。
リンちゃんはきっとそんな優しいメェー君を好きになりかけてる。
「リンちゃん、私、メェー君が好きだよ。リンちゃんはどう思ってるのかな?」
「私は……友達よ」
きっと嘘だ。
私はリンちゃんの手を、可愛くて柔らかいと言ってくれた部分に持っていく。
「本当に?」
「……わからないわ」
「リンちゃんにとって、メェー君は大事な人だよ」
「……仮にそうだとしても、私は詩子の味方よ」
リンちゃんが私から手を離そうとしているのが分かる。
もし、本当にメェー君を友達としか見ていないなら、スケベなリンちゃんのままだったと思う。
「私はリンちゃんと同じ人が好きになれて嬉しいよ」
「……そうね」
どこか悲しげに笑うリンちゃん。
私、何か酷いこと言っちゃったかな……
「えっと、ほらリンちゃんが触りたがってた可愛いお山だよ。揉まないの」
「詩子のエッチ」
「ガーン!」
「……ふふ、でもそうね。そんなに揉んで欲しいなら、両の手で堪能しようかしら?」
「ふぇ……?」
リンちゃんに押し倒されてしまいました。
元気になって良かったです。
私はいっぱい触られました。
私の初めてのデート相手は、私の大切なお友達でした。
今度はメェー君も一緒ならいいな。




