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初見殺しの契約6


 俺達が用意した契約書は、学校からお知らせ配布のプリントを使っている。裏は空白だ。

 そして、空白部分にルールを書いた。


 プリントの裏面はこう記されている。


★☆

 この勝負において、この紙に書かれたルールが絶対である。それ以外は椿真鈴の侮辱と見なす。


 勝負はターン制

 先行は奏

 持ち時間は五分

 三本勝負、三本打ってターンを回す。


 自分のターンで持ち時間がゼロになっても、そのターン中は有効(まだ負けが確定してない)

 残り時間ゼロの場合、次のシュートを打ったら相手にターンを回す。


 ポイントの加算はターン終了時にされる(三本打ち切った後または時間切れでターンを回した後)


 勝ちが確定した瞬間、このゲームは終了のものとする。なお、先行が無点だとしても、後攻は最低一本打たなければ、ゲームは終了しない。

 

 ゲーム終了時、ポイントが相手より点数を取っていた方の勝ち(同点だった場合後攻の勝ち)


 勝負の勝敗は、この紙に書かれたものが、適応され、後から屁理屈や文句を言わないものとする。

 相手のプレーを直接的に妨害した場合、反則負けとする。

 八木奏と常磐誠治はこれに同意するものとする


★☆


 スケベに署名させたから、もう言い逃れは出来ない。

 したところで、駄々をこねるダサい奴だと思われるだけだ。


「鉢上先輩、小鳥遊君、このルールで審判をお願いできないかしら?タイマーも二つ用意したわ。小鳥遊君は奏を頼むわね、鉢上先輩は先輩をお願いします」


 何も知らない、小鳥遊はこの契約書を確認して、怪訝な顔をしていた。


「椿さんがそう言うなら、この小鳥遊、その任、受けてたちましょう!」


 美少女スマイルの前では鼻の下を伸ばし、簡単に引き受けてくれた。


「では、ルールに則って、この鉢上が審判を務めさせてもらう。先行は八木後輩からだ、小鳥遊後輩、ボールを渡してやってくれ」


「は、はい!」


 今頃、詩にゃんはクラスの皆と楽しく過ごしてるんだろうね。

 サイリウムを触れない悲しみを胸にしまい、自分に与えられた五分を 噛みしめることにした。


「八木、パス」


 小鳥遊からボールをキャッチできず、転がす。


「すまん、八木」


 スポーツは苦手なことが分かってくれたのか、俺を心配そうに見る小鳥遊。

 スケベを見れば、嘲笑ってやがる。


 後輩のほうが人として勝ってんだよなぁ……


 俺は転がったボールをゆっくりと拾い上げ、フリースローラインに立った。


「では、始め!」


 鉢上先輩のコールで持ち時間を告げるタイマーが動き出した。


 コート内に静寂が流れる。

 休憩を取っていた他のバスケ部達が、俺を見始めた。

 何事だと、小鳥遊が説明しているのが横目で見える。

 鉢上先輩もまりんも、俺の勝利を疑っていない。このルールを一緒に決めたんだから、ネタバレは知ってるからだ。


「どうしたんだ?打たないのなら諦めたらどうなんだ!」


 たっぷり時間を使えばいい。

 俺は素人だ。

 お前らバスケットプレイヤーの矜持やマナーなんて知らない。


「まだ、決着もついていないのに、諦めるんですか?試合は最後のゼロ秒まで分からないんですよ?」


「なら、さっさと打てばいいだろう。たったの三本だぞ」

「けれど、三本です。持ち時間以内なら、俺はいつ打ってもいいですよ?そうだ、小鳥遊、残り十秒なったらにコール頼む」

「分かった」


 俺が時間いっぱい使って三本打つことを宣言して、スケベは呆れたように笑う。


「そうやって、俺にプレッシャーを与えてるつもりか?舐められたものだな、俺は目を瞑っても入れられるんだぞ、本気で打てば百発百中だ」


「それはそれは凄いですね。なら、素人の俺が策を講じて、戦いを挑むくらい受け入れてくださいよ」


「ふん、いいだろう。何をやってもお前の負けは決まってるからな。仮にお前が三本決めても俺が三本決めれば、ルールで俺の勝ちだな」


「そうですね、そうなればスケベの勝ちだとルールが告げますね」


「俺と余裕をこいて、話なんてしてていいのか、時間は止まってくれないぞ」


「そちらこそ、負けを受け入れる覚悟を決めたらどうです?時間は戻らないんですよ?」


 スケベが鉢上先輩に向けて放った言葉は消えないし、消せない。やってしまったことは変えられない。


「残り時間二分」


 なかなかシュートを決めない俺を心配してか、小鳥遊が時間を告げる。


 そろそろ一本目を打つか。


 バスケのフォームなんて知らない、見様見真似、現役選手が見れば、指摘しまくるだろうね。


 俺は一投目を打つ。

 ボールポストに当たり、はね返ってきた。

 

「あれだけ、威勢が良かったのに、外すんだな」

「スポーツマンって、相手を見下したりして、精神を揺さぶらないんじゃなかったてしたっけ?」


 俺はここでお前に胸ぐら掴まれたこと忘れてないからな。


 バツが悪そうに、舌打ちするスケベ。

 俺はボールを拾いスローラインまで戻る。


「スケベは鉢上先輩と付き合ってたんですよね。どうして振ったんですか?」

「お前に関係ないだろ」

「聞き方を変えましょう。本当に好きだったんですか?」


 スケベは俺を睨みつける。


「早く残りを打ったらどうだ?


「――残り一分」


 俺は二投目を投げた。次はゴールまでボールが届かなかった。

 

「お前が外す理由がわかるか。努力してないからだ」


 勝ち誇ったスケベが、したり顔で「正論」を吐く。

 スポーツマンの彼にとって、結果が出ない理由はすべて「努力不足」という便利な言葉で片付くのだろう。


「じゃぁ、鉢上先輩は努力してないから捨てられたんですね」


 先輩だって、努力したから、スケベなコレクターの目に止まったんだ。

 けど、このスケベはただのトロフィーとして、手元に置いた。

 より優れたトロフィーを見つけたら、一つしかない枠から取り除き、その役に置き換えようとする。


「違う!俺が他の女性を好きになったからだ」

「同じでしょ?鉢上先輩を好きであり続ける努力をしなかったんだから」


 お前に俺の何がわかると言わんばかりに、俺を睨みつけるスケベ。 


 本当にどうしようもない、こいつは知らないんだ。鉢上先輩が必死に自分の気持ちを押し留めて、お前の言葉を受け止めたことを。


 確かに、スケベの気持ちを確かめようと、加工した写真を見せた鉢上先輩にも非があったかもしれない。

 それでも、彼女は自分の行いを悔いていた。

 だから、引き留められなかったんだ。


「あと十秒、九……」


 小鳥遊はフリースロー対決なのに口論してる俺らに戸惑いを見せつつ、審判としての役目をこなす。


 鉢上先輩はもう吹っ切れているのか、強く芯を持った瞳で、スケベの努力を否定するそのさまを待っていた。


「――三、二、一、ゼロ」


 タイマーが音響く。これで持ち時間はゼロだ。


「お前の持ち時間はゼロだ……威勢は口だけだったな」

「あれ、ルールを忘れたんですか。タイムがゼロになっても一投は打てるんですよ……な、小鳥遊?」


 俺に言われて、小鳥遊が契約書に目を通す。


「タイムがゼロになったら、次のシュートを打って交代って書いてるな」

「……心理戦に持ち込みたかったようだが、お前が一本決めようが、三本とも俺は外さない」


 そろそろ終わらせるか、勝利条件は満たされた。


 お前に、努力が認められない敗北を教えてやるよ。


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