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初見殺しの契約4


 ――土曜日、正午。


 休日、学校へ足を運ぶのは初めてだ。

 

 家を出るとき、天ネェ(天音姉さん)が、心配だからついて行くと言い出した。


 常識の範囲内かつ俺が実現可能な範囲で何でも言うことを叶えるという条件で、同行を諦めてもらった。


 スケベのせいで、俺の負担がどんどん増えていく。


 校門の前で、まりんが待っていた。


「奏、女の子を待たせるなんて、どういうつもり?」

「悪いな、家を出るのに、ちょっと手間取って電車一本乗り遅れた」

「別にいいわ。奏に放置されることが、ドキドキすることだなんて思わなかったし、これが恋心なのかしら?」


 妖艶な笑みで俺を挑発する。

 まりんは俺が好意を持ってないか確認しているのだろう。

  安心しろ、俺は約束は必ず守るし、期待にはできる限り応えたいと思う男だ。


「反応がイマイチね、もしかして、私に飽き始めてない?」

「慣れって怖いね」

「それはどういう意味なのかしら?……あのスケベに対峙する奏がもうすぐ見られるし、私はすっごく楽しみよ」


 正直、もう平穏な日常に戻りたい。

 敵なんて作ったら、夜寝るとき、安眠できないんだよ。歯茎に何か詰まったような違和感みたいな感じが不愉快でね。


 俺達は今日、バスケ部エース、常磐誠治(ときわせいじ)にフリースロー対決を挑む。

 奴の自尊心を、打ち砕くために。

 それが、鉢上先輩の望みで、俺達も同じ想いだからだ。



 体育館に着くと、バスケ部の連中は休憩時間なのか、汗を拭く者、水分を取る者、休んでいる者と千差万別。


「やぁ、よく来てくれたな」

「こんにちは、鉢上先輩」

「こんにちは。クズスケベには死刑宣告してくれましたか?」

「あぁ、鬼の形相で恨み言をぶつぶつと、漏らしてたわ。八木後輩と関わってから、どんどん小物感が増してきて複雑な想いね」


 鉢上先輩はスケベの一途で努力家なところに惚れた。

 弱点や欠点を見ても、好きになった理由は変わらない。けど、駄目な部分が浮き彫りになるほど、好きになった自分が馬鹿みたいに思える。

 鉢上先輩はそう考えているのかもしれない。


「物語の主人公が強くなるのは、何故だと思いますか?」

「それは努力をするからだろ?」

「自分の弱さを乗り越えられたからです。挫折を知らない奴は、成長しない」


 俺はそれを漫画やアニメで学んでるからね。


「八木後輩は、ロマンチストってよく言われないか」

「男は皆ロマンチストなんですよ。知らなかったんですか」

「そう……かもしれないな。あのバカに現実を教えてくれるんだろ、頑張ってね!」

 

 あの日、放課後のカフェで、思いの丈を全て吐き出して、どこか清々しい印象を感じる。


 強く美しく和菓子のような味わいを期待させてくれる、そんな先輩だ。 バスケ部の中にも想いを寄せてる男子は必ずいるだろうな、主に小鳥遊とか。


「あれ、心の友、どうしたんだよ」


 噂をすれば小鳥遊が来た。


「今日、常磐誠治をフリースローで負かす」

「いや……無理だろ」

「俺以外の誰かにして欲しかったんだけどね。スポーツマンじゃ無理だから俺の作戦……」


 初見殺しの契約だ。

 スケベがスケベである限り、決して攻略不能の俺の切り札。


「小鳥遊君、クズスケベ……バスケ部の二年エースのクソストーカーをここに呼んでもらえないかしら?」


 名前を絶対に呼びたくないって意思を感じた。 


「おおぅ、椿さんって意外と口悪いんだな」


 すれ違いざま、小鳥遊が俺に呟いた。

 この程度で幻滅するなら、まりんを好きにならない方が幸せだ。

 なにせ、好きになった男に振られたいなんて言う奴だからな。


「奏、随分と彼と仲良しね。詩にゃんは遊びだったのかしら?」

「俺の一番は詩にゃんだよ。命がけで友情を守るさ」

「そういう契約だものね」


 契約だから、その言い訳はお互いにとって幸せだ。契約だから繋がって、縁が切れたら契約のせいにできる。


 まるで、制約と誓約みたいだ。


 ルールで縛り、ルールを誓う。

 例え、特別な力は得られなくても、勇気に変わる不思議な作法だ。


 俺は契約があるから、戦える。


 俺は鞄から、バインダーを取り出し、挟まれた紙の上の文字を改めて目を通す。


「これで騙せたら、俺の勝ちだな」


 勝負が終われば、俺は詐欺師として学校に名を馳せるだろうね。


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