自分勝手なルール6
――木曜日の放課後。
それは明日への希望で満ちている。
明日を乗り越えれば連休、もう少しすれば夏休み、最高だね。
俺は学生の特権を心の底から喜んだ。
この1週間は激動の日々だ。
火曜日に詩にゃんと友達の契約を結び
翌日にスケベに啖呵を切り、
今日の朝に第2回戦。
平穏な日々が懐かしい。
「すっかり忘れてました。メェー君、土曜日のクラス会来てくれますか?」
満天の空のような澄み切った笑顔で、俺の心に負荷をかける詩にゃん。今はその優しさが辛い。
三日前の俺なら、リアリティを追求する漫画家が使う断り方ができたが、今はこの笑顔が何よりも大事だ。
「……あはーは、当然行くに決まってるじゃないか、ベイビー。僕はレディの誘いを断るほど無粋じゃないさ」
「それ、金持ちの子ですね。知ってます」
えっへん、と慎ましく可愛らしい膨らみを張る。
「尊い……」
これが推しのアイドルに金を払うオタクの気持ちか。今まで馬鹿にしていたが、俺も君たちの気持ちがケーキひと欠片分、知れた気がした。
「その……今日の放課後は……暇、かな?」
「どうだろう、あのスケベ次第かな」
バスケ部エースの二年生、通称スケベ。
昼休みは教室に来なかったから諦めた、と判断するには材料が弱い。放課後も部活だってあるから俺に構う時間も少ないはずだ。
まりんの一言で、まだ俺に利用されているなんて考えていたなら、あれは同じ言葉を使う別の何かに分類される。
バスケ部エースの一途な努力家のイケメンなのに、執着質な内面がそれらを全て台無しにしている。
カタログスペックだけで競うなら、勝てる奴を見つける方が難しい。
「あの人、まるでリンちゃんのこと、芸術品のように扱っていて、なんかモヤモヤするかも、です!」
人に悪口なんて抵抗があるのか、言葉をオブラートに包んでいながら、不満があるのを隠せていない。しかも死のおまけ付き、deathって、フッ……
「詩にゃんが、誰かを否定するところ!初めて見たかもね。ヤバい、俺も罵倒されたいかも」
「罵倒されたいんですか!」
「ざーこ、ざーこって言われた日には、スマホで録音するね」
「言いませんよ、そんなひどいこと!」
いつものように詩にゃんをからかっていると、周りの視線が俺達二人に集まっていることに気づいた。
本来なら、アイドルの握手会がごとく、一人一人挨拶が確定していたのに、俺がチケット占領してるから、皆の番が回ってこないのか。
「俺はあのスケベに捕まりたくないから、まりんを連れて避難するよ。詩にゃんはどうする? まだいつもの挨拶周りが終わってないでしょ?」
「そうですね、リンちゃん、一緒に守らないと、ですもんね」
そう言うと、体操のお姉さんみたいに手を上げて。
「皆、さよなら。また、明日ね」
笑顔でそう言った。
無自覚って怖い。彼らが俺と同じ想いなら、あまりにも救われない。
皆の委員長が、こんな捻くれた奴を優先するなんて、許せるのだろうか?
でも、俺達はお互い、契約に同意して、契約通り今を過ごしているだけだ。
あの、独りよがりのスケベとは違う。
「まりんを迎えにいこう。詩にゃんの体温が恋しい頃合いだよ」
「また、揉まれたら……慣れたほうがいいですか?」
「ピーという、着信音の後にメッセージをどうぞ」
「…………ピー?」
あとでまりんに自慢しよう。詩にゃんのピーにはリラックス効果があるってね。




