八木奏は鈴の音がないと喋れない5
まるで茶番劇。だが、その非現実的な日常は周囲の人間から言葉を奪っていた。
なぜかずっと、右腕の袖を掴んで離さないまりんを連れてその場を離れる。
少し経ってから、体育館が騒がしくなった。
明日から噂の的になること間違いなし、これであのスケベも、俺を忘れられない。
「ねぇ、どうして、あんなことしたの?」
校門を出るあたりでまりんが尋ねた。
…………どうしてだろう?
確かにあの時は、 信念のために行動した。
スケベと同じ目線の高さになる必要があった。俺の目を見て話さないと伝わらないと思ったから。
鈴の音は、鳴らすから価値がある。
「あの、スケベを怒らせたかった……悪い」
だからあの時は、俺の理性に感情が宿ったのかもしれない。
「そっか……」
それから言葉は無くなった。何を話せばいいか、分からない。
今まで、何も考えず、入力された言葉に返答するだけだった。自分から出力するにはルールがいる。それがないと俺はまともに喋れない。
まりんに恋心を味わわせて、それを受け入れない。それが契約だ。我ながら酷いことを言っている自覚はある。
だが、それを彼女が望んでいるなら、契約のために俺は動こう。
「あー、あー、あー……、暗い、暗すぎる。まだ夕日は沈みきってないんだから。そんなに暗い顔してると前が見えなくて電柱にぶつかるわよ。もしかしたらトラックに轢かれてミンチかも」
不自然にマイクテストを行うと、いつもの調子でまりんは話し出す。
「さっきまでの『奏でるモード』は惚れ惚れする程カッコよかったのに、今は無音だよ。私に『最高の恋心』を味わわせてくれるんじゃなかったの?」
「誰が『奏でるモード』だよ。詩にゃんに『奏でるモード』とか言われた日には、可愛すぎて悶絶するぞ」
「分かる! 何を喋っても可愛すぎて惚れちゃいそう」
俺は喋るのが苦手だ。
鈴は、音を鳴らしてくれる。
――俺は鈴の音がないと喋れない。
頑張ってひねり出しました。
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