八木奏は鈴の音がないと喋れない4
「あれって噂の人?」
「椿さんの彼氏っていう」
「でも、赤月さんとも仲良かったよな?」
「何であんな奴が……」
隣にまりんが立っていなかったら、俺はこの状況に耐えられたかな?
想像してみたら、皆して「誰?」って言ってきました。やったね、俺がスパイならこれ以上に嬉しいことはない。
「君は……どこかで会ったことがあったかい?」
忘れてんな……俺も人のこと言えないけど。
「俺はまりんの露払いをしてる者ですよ」
「露払い? 君が真鈴さんの?」
言葉や仕草の端々に、俺を見下している影を感じる。
「はい……率直に言うと、迷惑してるので、消えてください」
言葉を研ぎ澄まし、音にする。
「消える?君は一年生だろう。年上に対して無礼じゃないかい?」
「面白いこと言いますね。嫌がっている1年生に、何度も告白をしている人の台詞とは思えませんね」
「……はぁ、話にならないな。部活動の邪魔だから、消えてくれる?」
スケベに少し怒気がこもる。
「先輩が、まりんの視界から永遠に消えてくれるなら、ここから消えましょう」
横からツンツンと肩を突かれる。
「奏、目的忘れてない? 遊園地に誘うのよ」
俺の耳元の小言を無視する。
「俺は、椿真鈴に最高の恋心を味わって欲しい。それにスケベは要らない!」
言葉に力が入る。
俺は冷静だ、感情的じゃない。
ただ、自分勝手に、真鈴をトロフィーのように見ているのが、気に入らないだけだ。
当初の目的は、スケベを遊園地に誘ってダブルデートを決行すること。
だが、こんな奴から学んだ恋心で、真鈴を汚したくない。
「スケ……、君は随分と失礼な奴だな。正義のナイト気取りか?身の程という言葉を知らないようだな」
「随分と、言葉が乱暴になりましたね」
「当然だ。礼儀を欠く奴にする礼儀はない」
「つまり、ルールの範疇なら、どんな嫌がらせをしてもいいってことですか?……例えば、試合中に相手の悪口を言ったりしてプレイを乱したり――」
人生初めて胸ぐらをつかまれた。
「僕を侮辱するな!」
随分と短気なことだ。こんな男に惹かれる女子は何を見てるんだろう。
今の俺は計算なんてしていない。ただ、この男を怒らせることを考えていた。
「随分と乱暴なんですね。自慢のコレクションが、こんな格下に馬鹿にされたのが悔しかったですか?」
周囲がざわめき出した。
その音がスケベに冷静さを取り戻させる。
「……っ、部活動の邪魔だ。消えてくれ」
「それもそうですね。皆様、お騒がせしました」
まるで幕切れを告げるように、俺は深く頭を下げた。




