八木奏は鈴の音がないと喋れない2
時は放課後。
昼休みにまりんから、ダブルデートを提案された。
俺と詩にゃん、まりんと先輩(謎)と、夏休みに遊園地へ行く計画を立てた。
俺達三人は連絡を気兼ねなく行える。
接点を持たない先輩を遊園地へと誘うとなると、まりんでは、その先輩との関係が色々拗れる予感しかしない。
ストーカーのターゲットが詩にゃんにスライドしかねないから、消去法で俺が先輩を誘うことになったのだ。
まりんが言うには、二年生のバスケ部のエース、ステータスをコレクションしてるだけの豪華な棚。人とすら扱われていない。
俺も一度会ったことがある。
校舎裏、まりんに何度も告白していたストーカーだ。
目の前で『この人が恋人です』みたいなこと言われてんのに、まだ諦めてない。
体育館は他の部活動と交代で使われている。奇遇にも今日はバスケ部が使う予定だ。
誘うにしてもいきなり『先輩、ダブルデートしましょう』なんて声をかけてみろ、喧嘩売ってるようにしか見えない。
そもそも俺に、一度顔を見ただけで人識別する機能は実行されてない。適当に声をかけていくしかなさそうだ。
体育館で練習中のバスケ部が、シュート練習をしていた。バスケで、知ってる知識はボールを持って走っちゃ駄目なのと、ゴールポストにボールを入れること、あとは俺がパス回しの達人ではないということだ。
そして今、練習中の体育館に勝手に入っていいか悩んでいる。
体育館の入り口をキョロキョロしている不審者は俺です。
「君、どうかしたの?」
突然声をかけられ、何も悪いことしてないのに、肩が跳ねた。
「……えっと、椿真鈴のストーカーっていますか?」
「……もしかして、誠治のこと?」
聞き方が分からず素直に聞いたら、答えが返ってきた。
え、共通認識なの、何で誰も止めないの?
「ほら、あの中で腹立つほど顔の整ってる人よ」
言われて指先に視線を動かす。
一人だけ纏うオーラが違う男がいた。
清潔感を感じさせ、誰よりも動き、誰よりも声を上げている。バスケ漫画で例えるなら、無口なクールキャラと絶対王者感をミックスしたような感じだ。いかにバスケ上手いですって感じる。
「まさか、まだ、ストーカーみたいなことしてるの?」
「有名なんですか?」
「まぁ……ね。あれを好きになって、泣いてる女の子たくさん知ってるから」
あー、面倒くさそう。嘘、あれがダブルデートに混ざるくらいなら、心の中の世界チャンピオンが腹痛を訴えるよ?
「えっと、参考まで聞きたいんですけど、泣いてるってのは、男女のソレですか?」
「……あの人理想が高すぎるのよ。今、交際してる彼女より優れた人が現れるとそっちに全力疾走するから、あ、勘違いしないでよ。ちゃんと誠実に謝って、関係を断ち切って、次に行ってるから」
まるで経験があるみたいな言い方に聞こえたが、深く考えるのを止めた。
「部活でも手を抜かないし、能力の低い人には、あんまり関心を持たない感じかな。努力家で一途なんだけどね」
どこか悲しそうにそう告げる。
「そろそろ戻んないとだから、彼女さん、とられる心配するくらいなら、ちゃんと手を握ってあげなよ」
普通に良い人だ。俺みたいなぼっちに偏見を持たず、今ある情報で俺を推測していた。
視線を誠治というバスケ部エースに向ける。
「……あれ、誘うのか」
最強のひとりぼっちと自負する俺に、あれと会話するのは、死ねと言ってるようなものだ。一般人でも気後れするぞ。仲間はいても、絶対友達いないだろ。
あれに付き纏われるまりんが不憫で仕方なかった。
今度、角砂糖を一袋、渡してあげよう。




