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八木奏は鈴の音がないと喋れない


 詩にゃんと友達になるための儀式も終え、あの青春劇が行われた教室には、いつもの平穏が訪れていた。


 誰も思わないだろう。ここで皆の聖女様を普通の女の子にするための儀式が行われていたことを。


「第一フェイズはクリアネイル」


 その成功を、爪を整えたかのように表現する彼女の名前は椿真鈴(つばきまりん)、心の変換入力はマリンだ。いや、まりんの、ほうが可愛いな。


「そうだな。で、第二フェイズはどうするんだ?」

「そうね、詩子と奏の距離を縮めるのも有りなんだけど質のいい失恋をするためには、私がかなでに恋愛感情を抱かなきゃならないでしょ? そのために、情報収集ね」


 この『失恋こそ至高の恋』なんてスローガンを誇りに思う変態が、恋する乙女に進化するために必要なもの。

 

「恋人に突撃インタビューでもするか?」


「ち、ち、ち、私は完璧な美少女よ。誰より恋心に近い存在よ。分かってないわね」


 指を振りながらマウントを取る。 繰り出された技は自爆かな?


「その恋心を今から作ろうとする奴が、何言ってるんだろうね」


「鼻で笑ってて大丈夫なのかしら?私は誰よりも恋心を握りつぶしてきた乙女よ。獲物は向こうからやって来るわ。きっとね」


 乾いた笑みで、どう復讐してやろうか、そんな思惑が、そこにはあった。


「お前、いつか刺されるぞ」

「その何でもお見通しな感じは、好感を持てるわね」

 

 まりんが、時折見せる、屈託ない笑顔の破壊力は凄まじい。まぁ、俺は悪タイプだから、効果はないんだけどね。


「メェー君、リンちゃん、おはよう」


 元聖女様、赤月詩子(あかつきうたこ)

 皆の聖女様を止め、優しく包むように微笑みかける笑顔は、妖精のような可憐さが加わっていて、悪タイプの俺には効果抜群だった。


「詩にゃん、さっきのおはよう、モーニングコールに使いたいからもう一回」


 スマホを取り出す。


「もう、からかわないでよ。メェー君の意地悪」

「そりゃ、俺は悪タイプだから意地悪だよ」


 俺の『いたずらごころ』が効かないのは悪タイプだけだ。

 よし、さっき一瞬思考がバグりかけたような気がしたけど、修正できたみたいだ。ノイズは冷静な判断を狂わせるからな。


「それで、何をお話してたのか、好奇心を抑えられなくて来ちゃいました」


 寂しがり屋な女の子。仮面を被っても隠しきれなかった本物は、枷が無くなった今、とんでもない破壊力を秘めている。


「そうね、私達がもっと濃厚な絡み合いをするための作戦会議をしていたのよ」

 「濃厚……ゴクリ」


 食い入るように、寂しがり屋センサーか反応していた。


「聞きたいかしら?」

「興味は、あるかもしれません」

「今度、私たちでダブルデートをしまょう」


 なぜか今、世界の外側の波が大きく揺れた気がした。

 まりんの爆弾発言に、周囲がざわつき始める。


 全く、盗み聞きなんて、どいつもこいつも、俺たちの人生は見世物ではないんだぞ?


「ダ、ダブルデートって……メェー君の相手は誰になるんですか?」

 行くこと前提で会話は加速する。


「もちろん詩子よ。私の相手はもう決めてあるの」

「誰ですか」


 思わぬ恋バナに目を光らせる妖精さん。


「私が心底嫌悪感を抱く先輩よ」

「うぇ?」


 純粋無垢な妖精さんに魔女の一言を理解するのが難しかったのか、目を瞬きさせていた。

 まりんは苦虫を噛んだ後のような吐きそうな顔をしている。


 俺達にまともな恋バナなんて、できるはずもない。


「嫌いな相手とデートをするんですか?」

「デートじゃないわよ、ダブルデートよ。男女の関係性に特別な意味を周囲からカモフラージュするための方便よ?」

「それはただのお出かけじゃ駄目なんですか?」

「ただのお出かけを特別な物なんだって誤認させるための言い訳ね。それに……」


 そこまで言って、まりんは詩にゃんの耳元で何かを囁く。

 それを聞いて、明らかに動揺する詩にゃん。


「そういう、意図が合ったんですね。ダブルデート最高ですね!」

「そうだね、生贄が二人もいるけどね」


 自分を殺して、相手を殺す。まさにダブルサイクロンだ。


「生贄って、何ですかメェー君?」

「まりんの相手は嫌いな人だよ」

「チェンジは可能ですか!リンちゃん先生!」


 元気に手を挙げ、詩にゃんはまりんに聞く。


「その人、あまりにも粘着質で諦めないから、これを最期の思い出にしてほしいのよ。それを条件に出すわ」


 相変わらず言葉のナイフが鋭い。最期って……


「誘って気があるって勘違いさせたら、まりんの執着が強くならないか?」


 俺はレベルゼロだけど、その幻想を殺す術を持ち合わせていない。


「私達って特別な関係でしょう。私と詩子と奏君、この時間を、君が守るのよ」


 無力な俺に何を期待してるのか、理解に苦しむ。


「まりんは俺を過大評価し過ぎだと思うよ?」

「そんなことはないわよ。だって、私に詩子って最高の友達を作ってくれたじゃない」


 そう言って、まりんは詩にゃんに抱きつく。大切な宝物を箱の中へ入れた、そんな気がした。


 失恋よりも先に見つけてしまった友達。


 他者からの目に厳しく、中身の評価に対する信憑性に自信を持てない、そんな女の子が箱の中に大切だと思う物を入れる意味。

 それは、期待をしてるんだろう。それを確信するだけの何かを見つけた証拠かもしれない

 

 まりんが自分の力で掴み取った物だから信じる勇気を持てたのか。


 ――俺は何もしていない。


 だってはそれは、まりんが詩にゃんに真剣に向き合った結果だから、俺はそれを近くから見ていただけ。


 それでもまだ、俺に期待をしている。

 その期待を裏切らない。

 改めて心の中で誓いを立てた。


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