初めての友達2
『詩にゃん攻略&私の失恋計画書』
その第一フェイズは、無事に成功した。
それは、赤月詩子から『友達になってほしい』と言わせることだ。
もうほぼ脅しと言っていいやり取りの末に、俺と詩にゃんは友達契約を結んだ。詩にゃんからお願いするという形で。
言い換えれば、契約に依存させた。
俺一人ではそんな契約を結ばせることはできない。
改めて、椿真鈴の異常性を痛感する。
次のフェイズは、契約の更新だ。
俺たちは裏切らないことを前提に友達になる契約を問いかけた。
赤月詩子にとって、それは甘美な蜜に見えたんだろう。
契約を結び、詩にゃんは『裏切らない』友達を手に入れた。例え、それがな肩書だけの幻だとしても、許容できるリスクとして受け入れることができた。
あとは、その先を見せればいい。人は欲張りだ。さらに甘い蜜を想像させれば、舐めてみたくなる。
危険の少ない理想の幸せだと思わせればいい。
賭け事でも、確率とリスクを天秤にかけ、妥協できるリスクなら、失う覚悟で勝負ができる。
俺達はディーラーだ。客が安心してる賭け事をできるようにしてやればいい。、
それだけだ。
だから、俺は安心して赤月詩子を友達と呼べる。
「かなで君。かな君…………かーくん?」
詩にゃんはポニーテールを揺らしながら、探偵のように頭を悩ませる。
マリンと作戦会議をしたカフェ。
儀式とも呼べるフレンド申請の後、お詫びも兼ねて、俺達はここへ来ていた。
注文を終え、俺達にとって『初めての友達』との時間。
まずは詩にゃんが俺をどう呼ぶか決める話になったのだ。
「俺のことは、『奏でる』とかでいいよ」
「それだと動詞じゃない」
的確に指摘するこの魔女は魔法でも使ったかのように、俺の脳内変換を動詞だと言い当てた。
「本当に、仲がいいです、ね」
ジトッと、詩にゃんは不満を込めたような視線を送る。ほんの数時間前までなら、こんな態度はしなかった。
「好きに呼んだらいい、決まらないなら『旦那様』とかでいいよ。一緒のお墓に入ろうね」
「ふぇ!」
からかい上手の八木さんにかかれば、詩にゃんを、翻弄することだってできるのだ。
「はいはーい、私も一緒のお墓に骨を入れてね。お友達でしょう?」
「お前、あの世まで付き纏うつもりかよ」
この八木さんでも、こいつをからかう勇気が出ない。たぶん、全部滑る。
「この関係を特別にしたいという、私のファンサのつもりよ?そんなに呼び方が、迷うなら『ぼっち君奏でるモード』とかカッコよくて素敵だと思うわね」
美少女と人気者を囲ってるからって皮肉か、それ?
「呼ぶ側も呼ばれる側も恥ずかしくね?」
「詩子を詩にゃんって呼ぶのと、どう違うの?」
「あれは、ほら詩子が猫のように感じたから詩にゃん……」
詩にゃんと目が合うと、俯くように逸らされた。
それにつられて、女の子の下の名前を不躾に呼んだことに気づいて、一度呼吸を整えた。
「そうだよな。詩にゃんは、やっぱり恥ずかしいよな。これからは詩子と呼ぼうか?」
あいも変わらず視線が合わないが、照れを隠すように、口元が不自然な動きをしていた。
「その、う、『詩にゃん』がいいです」
「甘い!すごっく甘い!」
なぜか、マリンはテーブルの上に置いてある角砂糖を食べている。
「私は気にしないで甘いのは大好物だから。頑固者の奏には『オスティナート』とか似合いそう」
「あのな、呼び名っていうのは自分で決めるから価値が有るんだぞ」
魔女を横目に詩にゃんが、小さく微笑えんだのが見えた。
「私は、親しみを込めて、メェー君って呼びます。とても名案だと思いますよ」
「ああ、それはメェー案だな」
「ふふ、バレちゃいましたね」
汚れのない笑顔を見た気がした。聖女の仮面は、この眩しすぎる笑顔を隠すために着けていたのかもしれない。
単純なハッピーエンドに見えてしまうこの光景。
横で角砂糖のおかわりを注文している魔女を振るために、この娘に好かれないといけない。その先を俺たちのハッピーエンドがあるからだ。
この時の俺達は、誰もがこの空間で、この歪な契約で結ばれた友情を本物だと思っていた。




