初めての友達
『ひとりぼっち症候群』
小心者で誰にも裏切られるのが嫌だから、他者との境界を明確にして、『ひとりぼっち』になることを優先する。そんな俺にぴったりな病名だ。
称号のような病名を診断したのは美少女、椿真鈴だ。
彼女の『失恋がしたい』という、常識外れな望みを聞いて、それに手を貸している。
もちろん、ただではない。
俺の本質を見抜き、俺が欲しいものを提示してきたからだ。
「私、生まれて初めて同性のお友達ができたわ。この胸の高鳴りは何かしら、もしかして恋?」
両手で己の体を抱き、体をくねくね動かしながら、マリンは『友達』が出来た事実を全身で喜んでいた。
「まだ、友達じゃありません!」
『ぼっち撲滅運動』なる慈善活動をしていた聖女から似つかわしくない言葉が出る。
そう、俺達はまだ友達ではない。
それを証明できない。
例え、どれだけ同じ時間を過ごしても、同じ想いを抱いていても、ただの肩書を友達と呼んだとしても、それは幻だ。
「ふふ、それもそうね」
八木奏にとっては幻。
椿真鈴にとっては契約。
なら、赤月詩子にとって友達とは何になる。
「私と友達になって下さい」
手を差し伸べ、頭を下げる。まるで愛の告白をしているワンシーンだ。
「覚悟はできたのかしら?」
「はい」
「そうなのね。喜んで友達になりましょう」
そう言ってマリンはその手を握った。
「はい、ありがとうございます」
赤月詩子の顔を初めて見たが気がした。
彼女は仮面なのど付けずとも、聖女と呼ぶに相応しい笑顔の持ち主だ。
「友達として一つお願いがあるんだけどいいかしら?」
「お願いですか?」
「私が出した、奏君と友達になる契約よ。それをしてくれないと、大親友と思えないわ」
対極に、椿真鈴の仮面は千変万化。
彼女の魔法でどんな形にも変化する。
まさに魔女と呼ぶに相応しい。
「八木君と……」
俺の顔をじっと見て目を丸くして、何かを隠すように顔をそらされた。
「その、八木君……私と契約してくれませんか?」
両手で口元を隠し、覗き込むように俺の顔色を伺う。
ここで、「えっ、なんだって?」なんて言ったら、俺に明日は訪れないだろう。
「契約しよう。よろしくね。詩子さん」
彼女の覚悟を無駄にしないためにも、俺は精一杯の笑顔で手を差し出す。
「よろしくです……か、かなで君」
こうして、俺達は新たな契約を結んだ。
たった一言――「友達になって下さい」
普通はそれを言うだけで成立するはずの関係だ。
仮面を剥がし丸裸にして、甘い蜜で誘惑しないと、そんな関係すら築くことができない。
全く、『ひとりぼっち症候群』は本当に難儀な病気だと、俺は思う。




