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赤月詩子は友達が欲しい7


「私が八木君と友達になるの?」


 詩にゃんの視線は何かを期待するような眼差しを感じた。


「そうよ。奏君なら貴方を絶対に裏切らない」

「ど、どうしてそう言い切れるの?」

「だって奏君は『ひとりぼっち症候群』だから」

「なに、それ?」

「人に裏切られることがいやだから、元から繋がりを断って、安全圏で安心してる人よ」

「それじゃ、八木君は『友達』が必要ないってこと?」


 その文脈だとそう捉えるのが普通だ。


「そうなの、奏君?」

「普通に友達は欲しいけど、最終目標は一緒に墓に入ってくれる伴侶だな」

「ほら、この通り、人に飢えているのよ」


 ピシッ、と俺を指差すマリンの表情は自信に溢れていた。

 


「でも、それでも、かなで君が私を裏切らない証明にはならないよね?」


 マリンに釣られて、無意識に俺の名前を呼ぶ。それは俺が裏切らないかもしれない。心の中で期待してるから、マリンの言葉に釣られて口にしたのだろう。


「裏切らない。信じて、彼は誰よりも人に裏切られることを嫌ってる。そんな彼が私と親密な関係になってるのは何故だと思う」


「椿さんが可愛いから?」

「誰にも期待していないからよ」


 一点の曇りなく、はっきりと断言する。


「『ひとりぼっち』になりたい病を持ちながら。誰よりも人の本質を見抜く彼なら、決して悪い結果にはならない。リスクなしで得られるものなんて、たかが知れてる」

「でも……」

「だから契約を結びましょう。八木君と友達になること。表面上でもいいわ。貴方が八木君を都合のいい代理品として使い古していい、貴方が望む友人像を全て叶えてくれる。もし、彼が貴方を裏切るようなら、結婚させる。そうすれば彼は貴方から逃げられない。もし、契約違反や結婚が生理的に無理なら私が殺す」


 いつの間にか、俺の生殺与奪の権利は椿真鈴の物になっていた。なんて理不尽極まりない。


「あー、俺は裏切らない、契約不履行でもし裏切ったら、マリンに殺されるけど、俺が詩にゃんのせいで死ぬのが嫌だってんなら、そもそも契約なんて結ばなければいい」


 そう、こんな契約に意味はない。傷つくリスクを減らす手段にすぎない。たった1%の不安すら許容できないなら、赤月詩子に本当の友達は永遠にできないのだから。


「赤月詩子さん、貴方は友達が欲しいんでしょ、かなりハードルを下げたつもりなんだけど、それでも駄目かしら?」


 優しく、それでいて語りかけるように、赤月詩子に問いかける。


 赤月詩子は極度の非現実を目の前にして、顔を真白にして思考することを放棄していた。


「詩子さん、大丈夫?」


「――はっ、大丈夫です大丈夫だよ大丈夫だぞー」


 おー、と両手を上げて自分を鼓舞する詩にゃん。

 驚いた。赤月詩子が聖女の仮面を自ら脱いだのだ。傷だらけの仮面を修復するのではなく、脱ぎ去った。


「はい、私は友達が欲しいです!」


 覚悟を決めた、そう俺らに言い聞かせているようで、己の魂に刻み込もうとしている姿は、まさに逆境に立ち向かうジャンヌ・ダルクのように思えた。

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