両手に花、あるいは試練2
カンカンと照りつける日差しの中、俺の左手はソプラの柔らかい手の中にあった。
「カナデ、あついね」
「……当たり前だろ、夏なんだから」
迷子になられては困るから、ソプラと指を絡めているだけで、下心はない。
保護者が子供の手を握ると一緒だ。
反対側では、天ネェが俺の二の腕を抱きかかえるようにして、「アイス……ガリガリしたやつ食べたい……」と、溶けた飴のようにぐったりと体重を預けてきた。
すれ違う中学生の集団が、俺を親の仇か何かのような目で見てくる。
美人でスタイルのよいお姉さん。
小柄だが、銀髪碧眼白い肌の美少女。
その二人に挟まれてる、冴えない男。
羨む気持ちはわからないでもない。
暑い中、ベタベタと密着されて、さらに暑く感じる今を、可哀想だと思って欲しいくらいだ。そう思えるほどの余裕がないから、彼らの隣には女の子がいないのだろう。
敵視されたから、マウントを取ってみた。
「カナデ、ソプラと歩けて嬉しい?」
「普通かな」
「ソプラはうれしいよ」
他愛もない会話をする。
変に意識するようなことではない。
「お姉さんもかなでとお散歩できて嬉しいよ」
「天ネェと散歩できて、俺も嬉しいね」
左手に絡みつくソプラの細い指に力がこもる。熱もこもっているから、できれば手を離したい。
「ソプラもうれしいよ」
迷子になったら大変だから、その手を握るしかない。
右腕には天ネェの、柔らかくも重量感のある感触。
両サイドから挟まれた俺の体感温度は、もはやサウナのそれだった。
熱中症で倒れないように気をつけないと……
★☆
冷房の効いたコンビニまであと少し、オーバーヒート寸前の体を冷やせると期待していた。
俺の汗と、両サイドの人たちの汗で、もう、気持ち悪い。だが、俺は紳士だから女の子の汗を気持ち悪いとは言えない。
なんで、今日はこんなに暑いんだよ。
そんな太陽に憎しみを抱きながら、歩いていた。
突然、犬でも見つけたかのように、天ネェが腕から離れた。
「詩子ちゃんだ!」
ちょうど、前から歩いていた二人組の一人に抱きついた。
あまりの暑さのせいで、一瞬、天ネェがおかしくなったと錯覚する。
「天音さん!」
「姉ちゃんでいいよ!」
汗だくお姉さんに汗を擦り付けられている詩にゃんが、そこに立っていた。
ちょっと驚いて、そっと甘えるかのようにハグを返す詩にゃん。
それを見て、俺は「可愛い」と口から言葉を漏らしていた。
「Сопра милее……(ソプラの方が可愛いし……)」
ソプラに握られた左手が、ぐっと強く握られた。
何か呟いていたが、日本語ではない。
「どうしたんだ?」
「別に何でもないよ」
ぷいっと、顔をそらされた。
俺、機嫌損ねるようなことしたか?
「あら、随分とラブラブね。もしかして、私と詩子は要らなかったかしら?」
二人組のもう一人は、まりんだ。
二人とも気合の入った服装だった。
詩にゃんはノースリーブの白いワンピースに、麦わら帽子スタイル。とても涼しそうな格好だ。
まりんは、肩とへそを露出した白い半袖のブラウスに、デニムのショートパンツ、首元には巻いてあるチョーカーには見覚えのある鈴をつけていた。
「俺は今、二人に会えてすごく嬉しい」
天ネェから解放されて少し涼やかになった。
あとはソプラから解放されれば、熱中症の不安も軽減できるだろう。
「奏、嬉しいって感情は言葉ではなくて、行動で示すものと思うわ」
まりんの視線の先に、なぜか詩にゃんの匂いを楽しんでいる天ネェがいた。
めっちゃんこ羨ましい。くそ、俺が女の子だったら、気兼ねなく詩にゃんにハグで来ていたのに残念だ。
「天音、お、お姉ちゃん、匂い嗅がないでぇ」
「いい匂いだよ詩子ちゃん」
詩にゃんの首筋あたりに鼻を近づける天ネェ。
嫌がっている割には、我慢して嗅がれているような詩にゃん。
これを見て、平和だなと思うのは、間違っているだろうか。
「つまり、まりんは嗅がれたいのか?」
「……そこまでは、求めてないわよ」
なぜか、目をそらされた。
嬉しいなら行動で示す、言葉にすると簡単だが、行動するとなると難しい。
天ネェは特別だ。天ネェがお気に入りの子にハグしても不自然じゃない。俺が詩にゃんやまりんにハグするのは不自然だろう。
……別に嫌というわけではないが、きっと不自然だ。
「二人は、何でここら辺にいるんだ?」
俺の家からそう遠くないコンビニの近場、でも、彼女たちにとっては、明らかに最寄りの場所ではない。
「今から奏のお家に遊びに行くからよ」
「聞いてないんだけど」
「言ってないからね」
なるほど、それなら、近所で遭遇しても不思議じゃない。




