両手に花、あるいは試練1
ソプラを三週間、八木家で預かることになったこと。
それを先日、拘束ドッキリの件も含めて、まりんに報告した。
「いくら私が失恋をしたいと言っても、詩子が相手じゃないと泣くからね」と、甘えるような声で言われた。
俺がどれくらい詩にゃんが好きか、電話越しにまりんに熱弁することで、まりんは納得した。
詩にゃんに伝えるべきかどうか、まりんと話し合い、伝えることにも成功している。
友達がいないロシア人のハーフの子を、俺の家で預かっている。
姉と疎遠になっていたが、最近になって、仲直りした。
俺も昔からの知り合いで、同世代の友達がいないことで自分に懐いている。
だから、詩にゃんやまりんとも仲良くしてほしい。
という形で詩にゃんには伝わっている。
何も悪いことはしていない。
それでも、伝える情報を選び、言い方まで整えてしまったことに、拭いきれない罪悪感が残っていた。
まりんと相談して決めた伝え方。
ソプラを嫉妬の種として、利用する意図もあるらしい。
詩にゃんが嫉妬してくれるのなら嬉しいのだけど、嫌な気持ちにはしたくない。
☆★
八木家でソプラを預かり、二日が経った。
適度に頭を撫でたり、添い寝をしたり、ハグしたりしているおかげで、ソプラは過激な行動は取らなくなった。
一緒にお風呂に入りたいと抗議してくるから、他の手で妥協してもらおうとした結果とも言える。
「カナデ、もっと色々触ってもいいんだよ?」
俺を背もたれにして、脚の間に収まるソプラ。
リビングのソファーに座ってアニメを見ていたら、当たり前のように、俺を背もたれにして座ってきたのだ。
ソプラは頭を肩に乗せ、すっかり体重を俺に預けていた。
ほっぺですりすり、柔らかい肌の感触が伝わり、甘い香りが漂っていた。
俺はソプラを妹として扱うと決めている。
彼女は八木家のペットとして振る舞っている。
変に意識するのは、女の子として意識していると同義だ。
だから、自然体で過ごすように、心がけているわけだ。
「色々って、頭を撫でてるだろう?」
「色々は、色々だよ、ソプラの柔らかいところとか?」
ソプラは、寄せてアピールしてきた。たしかに柔らかそうだね。
「俺はソプラの髪を撫でるのが好きだから……」
ここで、嫌と言うべきなんだろう。
けど、それで悲しまれたら、あと二週間ほど気まずくなる。家にいる以上、顔は合わせるんだ。悲しい顔されたら、俺が悪いみたいに思えてくるだろ。
「うへへぇ、なら、もっと撫でて」
距離を置こうと思っている女の子と、こんなに密着して頭を撫でているか理解に苦しむ。
平和主義者である俺が導き出した最適解が、これなのだから、きっと間違いではないはずだ。
銀色の髪の毛を撫でると、満足げに笑顔を浮かべるソプラ。
「あー! ソプラちゃんズルい! お姉さんもかなでによしよしされたい!」
呑気な姉が、だらしない寝間着の着こなしで、リビングに入ってきた。
「おはよう、天ネェ」
「Могла бы ещё поспать(もっと寝てればいいのに)……」
ソプラは他国語で何か呟いた。挨拶ではないんだろうな、きっと。
「おはよう、かなで。お姉さんもよしよしお願い」
天ネェが俺の横に来て、空いている方の俺の肩に頭を乗せてきた。
仕方ないから、肩を抱き寄せるように腕を回して、天ネェの頭を撫でる。
「お姉さん、このまま二度寝しちゃおうかしら」
「アマネ、ロシア語わかるの!?」
「お姉さん、日本語しか理解できないわよ」
「Фанатка своего брата!(このブラコン!)」
「ソプラちゃんも好きになる努力をしてるから安心して!」
「アマネは絶対、ロシア語理解してるわ」
俺に抱かれている状態で、ソプラと天ネェがコントを始める。そんな二人の頭を撫でているわけだが、そろそろ、腕が疲れてきた。
この状況下でアニメを見ていても、正直、内容が頭に入ってこない。
「俺、ちょっと、コンビニ行ってくるからさ、二人とも離れてくれない?」
少し一人になりたいから、場を離れよう。
「じゃあ、お姉さんも一緒に行くわ」
「ソプラも付いてくよ」
まぁ、何となく付いてくると、言ってくると思ってたよ。
「俺、一人で行きたいんだけど……」
「お姉さんと一緒は嫌なの?」
「ソプラは勝手についていくね。奏と一緒じゃないから首輪付けようかな」
天ネェはいつもの泣き落とし、ソプラは脅してきやがった。
「分かったよ。一緒にコンビニ行こう」
「じゃあ、お姉さんは着替えてくるわね」
天ネェは急いで自分の部屋に向かう。
「ソプラはお手々繋いで行こうね」
「え……なんで?」
「だって、迷子になったら大変じゃない。嫌なら首輪にリードをつける?」
ソプラは八木家で預かっている大切な客人だ。
たとえ、フリだとしても、迷子と称して、家に戻ってこないと八木家の信用に関わる。
「そうだな、ソプラが迷子にならないように手を繋ごう」
「Я рада♪(やったー♪)」
甘え上手のソプラさんをどうにかしないと、俺の平穏が保てそうにない。




