草凪ソプラはペットである、けれど俺は妹として扱う
昨夜、ソプラが原因で布団が濡れてしまい、別の物に変えた。そのせいで寝心地はイマイチだったが、温度は快適だからスヤスヤだった。
クーラーの効いた部屋で、布団に包まれるのは夏の贅沢だ。
布団の中の温もりを、クーラーからの冷気が適度に冷やしてくれるおかげで、とても快適に寝ることができる。
体内時計が朝を知らせ、目を覚ます。
俺は寝る時、変な癖がある。
布団カバーのファスナーを手でこする癖だ。
あのザラザラ感が堪らない。
いつも寝る前と起きた後に、とりあえず触る。
小さな吐息の音、腕を挟む柔らかい温もり、がファスナーのザラザラまでを阻害していた。
一瞬天ネェが頭をよぎった。何がとは言わないが、天ネェにしては小さい。
視線を向けると、穏やかな寝顔をした銀髪の美少女がいた。
普通なら大惨事なんだろう。
朝チュンだ、俺やっちゃった、等と慌てふためくのだろうが、隣でまともな格好をしてくれていることに、安心感を覚えてしまった。
ソプラは俺の腕をがっちり両腕でホールドしている。外そうとすると色々と振れることになりそうだ。
まぁ、昨日に比べれば、ハードルは低い。
ボーのせいでヨダレまみれ、水着、手首足首はガムテで縛り、鎖付きの首輪、一つずつ解決するのに相当気苦労させられたのだ。
それに、俺はソプラを女の子として意識しないと決めている。ここで下手にヘタれるのなら、意識している証拠だ。
俺の一番は詩にゃんである。
スマホの中に眠るボイスデータ――詩にゃんが歌う『愛の歌』を流す。
音量を小さくして、耳元でリピート。
『すきよかなで、スキだカナデ、スキスキダイスキ、愛してる』
我ながら気持ち悪いと思うけど、これは朝の日課だ。
詩にゃんの声には癒し効果があるから、これを聞いて自己承認欲を満たす。
昨日は、いつものボイスチャットの集まりに参加できる状況ではなかった。
詩にゃんの声を一日聞けなかった分、感動さえ覚える。
詩にゃんに会いたい。
願わくば抱きしめたい。
そんな欲求が湧き上がる事実が、詩にゃんへの恋心を再認識させてくる。
理性が本能に負けそうになる時、一筋の希望のように、勇気をくれる。
俺のホープは詩にゃんだった。
勇気を貰ったので、ソプラの腕から脱出を試みる。
起こすのも悪い。
肩を抑えて、ゆっくり抜いていく。
ソプラの流動する感触が腕に伝わる。
思春期男子には毒だ。
ブラコンな姉もいることもあり、俺は家では色々と発散できない。何をとまで言わないが、マスターできない営みだ。
つまり、刺激が強いんだよ。
ソプラはペット……、いや、そう思い込むにしても、倫理的にそれはどうなんだ?
可愛い妹ポジションなら、まだ、耐えれる。
天ネェは姉だ。あれが姉じゃないなら、百%異性として惚れていた。ソプラを妹として扱えば、問題ないのでは?
俺の心の中心は詩にゃんだ。それは揺るがない。
それでも、保険をかけるのが、石橋叩きの奏くんなのである。
腕の自由を確保して、布団から抜け出すことに成功する。
なんか普通に疲れる。
毎朝、潜り込んでくるかもしれないと思うと余計に、疲れを感じる。
下手に拒絶すれば、また、奇怪な行動してきそうで怖いから、ある程度甘やかす必要はある。
俺が慣れれば、問題はなくなるんだけどね。
ソプラの髪を優しく撫でてみる。
こうして、この子は俺の妹と思いながら、耐性をつけていこう。
思考は運命になるらしいからな。
そういえば、幼い時は、一緒にお昼寝とかよくしてた気がする。
当時の俺は、ソプラを妹のような存在だと定義していたのだろうか。
守ってあげようとは思っていたはずだ。
それがいつしか恋心に変化して、壊された。
それでも、また守ろうとするあたり、俺の心がこの子に思うのは、保護欲だけなのかもしれない。
そう思えば、少し気が楽になる。
それにしても、サラサラな髪の毛だな。
こうして、すやすや寝ている姿を見ると和む。
八木家は可愛ものが大好きだから仕方ない。
ソプラが頭を少し揺らしたと思えば、ゆっくり瞼を開く。
微睡んだ瞳で俺を見て、涼やかに微笑んだ。
「うへへぇ……」
そう呟いて、また瞼を閉じる。
チクリと胸が痛んだ気がした。
俺の選択は間違っていないはずだ。
俺の一番は詩にゃんだ。
他にも目もくれず、俺が詩にゃんを好きになる。
それがまりんの望みでもある。
ソプラは俺を愛したいだけであり、俺からの期待は望んでいない。
愛しているという実感があればいいのだから。
だから、ペットになるなんて言い出した。
俺は妹として扱うと決めた。
なら、どこにも間違いなんてないはずだ。
深く呼吸をして、酸素を脳に送る。
スマホの中のボイスデータをもう一度、耳元で響かせた。
四章はここまでです。不快に思われた方がいましたら、ごめんなさい。読んでくれている皆様ありがとうございます。
ソプラと再会、真鈴との予行練習デート、ソプラの暴走。
もし、面白かったと思ってくれたら、ブクマ・評価・感想をくれたら嬉しいです。




