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Basketball Synergy  作者: 双鶴


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7/11

7話

文化祭当日。

千種寺中の校舎は、朝からざわざわと賑わっていた。

体育館の床には島民のスリッパが並び、商店街の屋台からは焼きそばと甘酒の香りが漂ってくる。

校庭では子どもたちが走り回り、町内会のじいちゃんばあちゃんが将棋盤を囲んで笑っていた。


バスケ部の体験コーナーも盛況だった。

フリースロー大会には小学生が列をなし、瞬がボールを渡すたびに「がんばれー!」と声をかけていた。

その声は、体育館の高い天井に吸い込まれていく。


美幸は、空気入れを手にしながら、ボールの感触を確かめていた。

空気圧は問題ない。けれど、何度も手のひらで押してしまう。

瞬は映像展示の係で、体育館の隅に設置されたモニターの前に立っている。

圭子と並んで、来場者に説明をしていた。


「このシーン、スロー再生になってます。美幸ちゃんのシュート、かっこいいですよね」


圭子の声に、瞬が「だろ?」と笑う。

その笑顔が、また胸の奥をざわつかせた。


美幸は、ボールを強めにドリブルした。

乾いた音が、体育館の床に響く。

誰も気づかない。けれど、自分の中では何かが揺れていた。


昼過ぎ。

一段落した体育館の裏手で、美幸はペットボトルの水を飲んでいた。

風が吹き抜け、校舎の壁に吊るされた垂れ幕が揺れている。

そのとき、圭子がやってきた。


「美幸ちゃん、ちょっといい?」


「うん、どうしたの?」


圭子は、少しだけ息を整えてから言った。


「私、瞬くんのこと…好きかもしれない」


その言葉は、風の音よりも静かに、美幸の耳に届いた。

けれど、心の奥では、何かがはっきりと音を立てて崩れた気がした。


「…そっか」


それしか言えなかった。

言葉が、うまく出てこなかった。

口の中が乾いて、喉がつまるような感覚があった。


圭子は、少しだけ笑った。


「ごめんね、なんか、言いたくなっちゃって。美幸ちゃんには、ちゃんと伝えたかったから」


「ううん、いいよ。言ってくれて、ありがとう」


2人の間に、しばらく沈黙が流れた。

風が、体育館の壁を撫でていく。

遠くで、誰かが笑っている声が聞こえた。


美幸は、瞬の姿を探した。

モニターの前で、子どもに説明している。

その笑顔は、誰にでも向けられるもの。

でも、圭子には、少しだけ違うように見えた。


その夜。

美幸は、自室の窓を開けて、潮の匂いを吸い込んだ。

隣の瞬の家からは、テレビの音がかすかに聞こえる。

その音が、いつもより遠く感じた。


「瞬、あれさぁ…」

昼間、思わず口にしかけた言葉が、また喉の奥で引っかかった。

言えばよかったのか。言わなくてよかったのか。

わからないまま、時間だけが過ぎていく。


空気入れを言い訳に部屋へ行ったあの日。

あの距離。

あの空気。

あの“当たり前”は、もう戻らないのかもしれない。


美幸は、枕に顔を埋めた。

言葉にならない感情が、胸の奥で静かに渦を巻いていた。

それは、恋ではない。

でも、確かに“何か”が始まってしまった。

そして、誰にも言えないまま、静かに続いていた。


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