3話
寺本瞬は、校内ではとにかく自由だ。
授業中に先生の雑談に乗っかって「それ、俺の親も言ってた!」と大声で笑い、
昼休みには男子たちとくだらない話で盛り上がる。
「女子ってさ、給食の牛乳飲むとき、なんか上品ぶるよな」と言っては、
「瞬くん、また変なこと言ってる」と女子に呆れられる。
「隠してカッコつけるよりいいだろ。俺は思春期という妄想を満喫したい」
そんな瞬の名言(迷言)に、男子たちは爆笑し、女子たちは「…バカじゃないの」と苦笑する。
でも、誰も本気で怒らない。瞬は、ふざけることに全力で、誰にでも分け隔てなく接する。
男子には気さくで、女子には遠慮がない。
それが“モテない理由”だと本人も理解しているが、気にしていない。
「俺は美幸に鍛えられてるから、女子の扱いには慣れてる」
「それ、逆効果だと思う」と周囲に笑われるのも、いつものこと。
瞬の周囲には、いつも笑いがある。
でも、その笑いの輪の外で、ひとりだけ違う視線を向けている女子がいた。
小谷圭子。女子バスケ部のマネージャー。
瞬の茶目っ気に笑いながらも、どこか引っかかるような気持ちを抱えていた。
放課後、境内の練習が終わったあと。
圭子は、美幸を呼び止めた。
「ねえ、美幸ちゃん。ちょっとだけ、いい?」
美幸はタオルで汗を拭きながら振り返る。
「ん?どうしたの、圭子」
2人は境内の隅、石段に腰を下ろす。
夕暮れの光が、寺の屋根を赤く染めていた。
風が少し冷たくなってきて、境内の木々がざわめく。
「瞬くんってさ…いつもあんな感じだけど、あれって…本気でふざけてるの?」
圭子の声は、少しだけ揺れていた。
美幸は笑った。
「うん、あれは本気のふざけ。瞬は、ふざけることに全力だから」
「でもさ…あの人、バスケのときは全然違うよね。すごく真面目で、丁寧で…」
「そうだね。瞬は、バスケだけは絶対に茶化さない。そこは、私も信頼してる」
圭子は、少し黙ってから言った。
「美幸ちゃんは、瞬くんのこと…どう思ってるの?」
美幸は、タオルを膝に置いて、空を見上げた。
「うーん…なんだろ。家族みたいな感じかな。隣にいるのが当たり前すぎて、考えたことなかった」
圭子は、うなずいたような、うなずけなかったような顔をした。
「そっか…そうだよね。幼馴染だもんね」
その言葉に、美幸はふと圭子の表情を見た。
夕焼けに照らされたその横顔は、少しだけ寂しそうだった。
でも、圭子はすぐに笑ってみせた。「変なこと聞いてごめんね」
「圭子は、瞬のこと好きなの?」
美幸の問いに、圭子はすぐには答えなかった。
「…ううん。まだ、わかんない。ただ、気になるだけ。なんか、気になるの」
その答えに、美幸は「そっか」とだけ言って、また空を見上げた。
鐘の音が、遠くで鳴った。
2人の間に、言葉にならない何かが流れていた。
それは、友情でも嫉妬でも、恋でもない。
でも、確かに“揺れ”だった。
その揺れは、まだ小さな波紋。
でも、誰かの心に触れた瞬間、きっと大きく広がっていく。




