表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Basketball Synergy  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

10話

島の空気は、少しずつ秋の匂いを帯び始めていた。

朝の港には、長袖姿の住民が増え、校庭の木々も色づき始めている。

文化祭、試合、観戦と続いた日々が過ぎ、学校はいつもの静けさを取り戻していた。


美幸は、体育館での練習に集中しようとしていた。

でも、瞬の様子が気になってしまう。

最近、彼はよく空を見ていた。

ボールを回しながら、ふと窓の外に目を向ける。

その視線の先に、何があるのかはわからなかった。


圭子は、部活のあともすぐには帰らず、校舎の裏でひとりノートを開いていた。

ページの隅に、何度も書いては消した言葉が並んでいる。

「ありがとう」「ごめんね」「好きでした」

どれも、まだ誰にも渡していない。


父親から転勤の話を聞いたのは、数日前だった。

「来月には引っ越すことになる。東京の学校に転校だ」

圭子は、何も言えなかった。

ただ、部屋のカーテンの隙間から、隣の家の灯りを見つめていた。


瞬の部屋の明かり。

美幸の笑い声。

それらが、少しずつ遠くなっていく気がした。


翌日。

瞬は、いつも通り部活に来ていた。

仲間のミスをカバーし、笑っていた。

でも、美幸にはわかった。

その笑顔が、ほんの少しだけ、届いていないこと。


「瞬、最近ちょっと…変じゃない?」


「そう?…疲れてるだけかも」


美幸は、それ以上聞けなかった。

でも、胸の奥がざわついていた。


圭子は、2人の距離が少しずつ変わっていくのを感じていた。

美幸の視線が、瞬を追っていること。

瞬の言葉が、美幸にだけ柔らかくなること。

それを見ている自分の心が、静かに痛むこと。


でも、何も言えなかった。

言えば、何かが壊れてしまう気がした。


その夜。

圭子は、2通の手紙を書いた。

ひとつは美幸へ。

もうひとつは瞬へ。


便箋には、丁寧な字で綴られた言葉が並んでいた。

「ありがとう」「一緒に過ごせてよかった」「これからも、バスケ、がんばってね」

そして、最後に小さく「好きでした」と書かれていた。


翌朝。

圭子は、制服のポケットに2通の手紙を入れて、港へ向かった。

ポストの前で立ち止まり、深呼吸をする。

風が、髪を揺らした。


圭子は、そっと手紙を投函した。

赤いポストの口が、静かにそれを飲み込んだ。


この島での時間が、終わる。

だけど、あの2人の時間は、きっとまだ続いていく。


そう思えたことが、少しだけ救いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ