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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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意外な申し出

 一カ月、そしてまた一カ月と時が過ぎて、春の草花が芽吹き始める。

 そろそろ、グレイとクルムが出会ってから一年が過ぎようとしていた。

 

 クルムは各方面と綿密に情報交換を続けながら、順調に味方集めを進めていた。

 いくつかの貴族家を寝返らせたり、寝返ったふりをして相手方に情報を提供している貴族に、適当な情報を流すなどの工作も行っている。

 もちろん、適当な情報というのは、相手に漏れても問題ないような情報であり、嘘を流しているわけではない。

 いざという時のために種をまいているような段階だ。

 夏あたりにはしっかりと根を張って、秋には相手の腹を破るように成長してくれることを祈るばかりである。


 そんな具合にうまいこと過ごしているクルムの元へ、ある日意外な使者が訪れた。

 護衛を連れた、ジグラである。


 一度目に協力を断って以来、とんと音沙汰がなかったのに、ここにきて突然やってくるのは今一つ目的が分からない。

 クルムはジグラのみを応接室に通し、いつも通りグレイと二人で面会に臨むことにした。


 ジグラの方も、クルムがどこへでもグレイを連れて現れるのを知っているのか、一瞥しただけでその存在について触れもしない。


「さてと、まずは話を聞いてくれたことに礼を言うべきかな」

「いえ、結構です。もし私の陣営に加わるという話であれば、いつでも歓迎いたします」


 ここ数カ月でさらに濃密な人とのかかわりを繰り返してきたクルムは、にっこりと笑ってまずはジャブを一発放つ。

 一度申し出を断っているのだから、わざわざ二人で話すことなどそれくらいしかないだろうという、攻撃的な入りだ。あれこれと小細工を弄そうとしても無駄だぞという牽制でもある。


「どんどん生意気になっていくね、この妹御は」


 怒りは見せなかったが気分は良くなかったのだろう。

 ふざけたふりをした返答であったが、その目は笑っていなかった。


「まぁ、あながち今回わざわざここに来たことと、関係のない話ではないけれど」


 クルムはピクリと眉を動かす。

 制御できる動きであるが、あえてそうしたのだ。

 もし、麾下に入れとでもいうのなら許さないという、小さな意思表示でもある。


「聞かせていただきましょう」

「性急だね。もう少し会話を楽しもうとは思わない?」

「何かと忙しくしておりますので」

「こそこそと動き回っているらしいね」

「兄上もご一緒にいかがですか? 今のままですと、ヘグニお兄様と正面から戦うことは難しいと思いますが」


 クルムの知る限り、ジグラはあまり積極的に貴族を味方に付けようとしていない。

 数人声をかけた相手もいるようだが、それらは特別国内で力を持っている貴族とは言えないし、今後王位継承争いを続けていく上でのキーマンとはなりえないような者たちだ。

 クルムがジグラの意図を探るべくじっとその目を見つめる。

 するとジグラは小さくため息をついて、「やれやれ……」と言いながら首を横に振った。


「妹に、そんなことを言われるようでは本当に駄目そうだね」


 何を言っているのだと、クルムは黙ってジグラの言葉に反応しない。

 ジグラはそのまま勝手に話を続けた。


「実はね、随分と前からヘグニ兄上から話をしようと言われている。もちろんずっと断り続けてきたのだけれどね。クルムのところにも話が来ていないかな?」

「以前、突然訪れてきたことはありましたが」

「じゃあそれだ。僕はそれを全て門前払いしていた。しかし……、近頃母上の実家の方々から色々と諭されてね。そうしたら、僕より先に母上の方が折れてしまってさ……。年なのかな」


 ジグラは疲れたような顔をして、ぽつりぽつりと語る。

 クルムは表情を動かさずに、「……それで?」と話の続きを促す。

 これまで散々兄弟を陥れてきたジグラが、今更何を言い出すのだとしか思わなかった。


「ほら、元々僕は、母上の強い希望でこの国の王位を目指してきたんだ。ここ一カ月ほど、頭を悩ませてばかりだった。だから、その悩みを解決するための糸口として、兄上と話をしてみようと思っているんだ」

「なるほど、諦めると。これまで、様々なことをして、しでかして、目指して来たのに、諦めると、そういうのですか」


 先ほどまで平静を装っていた瞳はギラギラと怒りに燃え、問いにはそれにふさわしい怒気が籠っていた。

 クルムの兄のうち一人は、ほぼ間違いなくジグラ陣営の謀略によって殺されている。

 ジグラが謀略によって手にかけた人は、絶対にそれだけではない。

 そんなジグラが勝手なことを言って、王位継承争いから下りようとしていることが許せなかった。

 その程度の覚悟で大事な兄が殺されたのだと考えると、どうしても怒りが抑えきれなかった。


「……まだ決めていない。でも、僕が諦めるのならそれは、クルムにも無関係ではないはずだ。僕が諦めたとすれば、クルムはヘグニ兄上と真正面からぶつからなければならなくなる」

「……そうですね」


 時間の猶予がなくなる。

 もしジグラを押していた勢力が、丸々敵に回るのならば、勝ち筋は今よりさらに低くなる。できることならば避けたい事態だが、じゃあジグラを応援するかと言えばそうはならない。


「もし、クルムが望むのなら、話し合いに一緒に参加しないかな。……勝ち筋がなくなっても戦うのは馬鹿だ。その話し合いの中で、もしクルムが、ヘグニお兄様に勝る器だと分かれば、僕は身の安全……、母上の安全のためにも、クルムの下に入ったっていい」


 衝撃的な発言であった。

 ただ、迂闊に返事をするわけにもいかず、クルムはジグラの本心を探るために、目を細めてその表情を観察するのであった。

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― 新着の感想 ―
派閥を吸収した後で拷問な
現実的な先を見据えた話になってきましたねぇ。 ジグラがコレで、ヘグニもどこかやる気が感じられない。 セルルトもこないだみたいな感じだとすると、いよいよ大きな展開が待ち受けてそうな感じがします。
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