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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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盤面返し

 クルムにファンファ、それにルミネにハップスまで、雁首揃えて渋い表情をしていた。


「何じゃ、揃いも揃って景気の悪い顔をしおって」


 そこに堂々とツッコミを入れられるのはグレイだけである。

 そして事情が分かっていないのもグレイだけである。


「実は悪い知らせがありまして」

「なんじゃい」


 クルムが腕を組んで偉そうにしているグレイに説明を始める。

 今日は、王族が集まるいつもの定例集会の日だった。

 定例集会はこれを最後に、来月の年明けからは〈万年祭〉が始まる。

 それが終わってクルムの区画に集まってくるなりこの様子であるから、よほど何かあったのだろうとグレイにもなんとなく分かる。


「王都には代替わりや、爵位の剥奪、新任の情報などが定期的に入ってくるようになっています。それが、今回の集まりで共有されました。本来、月に一度か、ふた月に一度は更新されるようなものが、意図的に先延ばしにされ、ほぼ過去一年分の重要な情報が、一斉に更新されたのです」

「それで?」

「……地方の有力な貴族が亡くなったり、廃嫡となった家にオブラ侯爵家の関係者が養子として入り込んだりしているようです。婚姻関係などももう一度辿り直したほうが良いでしょう。思ったより、頼りにできる家が少なくなりそうです」


 ヘグニの派閥とてただ黙ってクルムに好き勝手させていたわけではないということだ。

 クルムが動き出す、もうずっと前から地方の貴族まで手を回し、逆らう者を取り潰し、着々と自勢力に引き入れることを繰り返していたというわけである。しかも、ぎりぎりのところまでその動きを悟られぬよう、〈万年祭〉に向けて情報を絞ってきていた。

 クルムがこれから新たにその情報を精査し直して、どこまでの家にヘグニの手が回っており、どこの家に回っていないのかを把握するには、かなりの時間を要することになるだろう。

 〈万年祭〉が始まるまでに準備万端にできようはずもないので、味方にするべく交渉を仕掛けに行くにも毎度賭けになってくる。


「つまりなんじゃ?」

「忙しくなる、ということです。お兄様、お姉様方も、できる限りの情報収集にご協力願います。地方貴族の情報に詳しい知り合いがいるといいのですが。〈リガルド〉方面については、ラウンド様に聞けば分かるかもしれませんが……」

「分かるわけないじゃろ。どうせその辺りは全部、リゾルデの奴が把握している」

「……やはりそうでしょうか?」

「そうじゃろうな」


 ラウンドにそういった細かな情報を期待するだけ無駄だ。

 あそこは完全に役割分担されているから、あのつるつるの頭の中には貴族関係の細かい情報など絶対に入っていない。


「まぁ、この国の地方貴族も複雑じゃからのう」


 一応元は貴族の生まれであるグレイは、最低限貴族社会に関する知識はある。

 あえて無視して活動を続けた結果、忘れている部分が多くあるだけだ。


 ハルシ王国の貴族には、主に王都で活動をする法衣貴族と、地方に大きな領地を持つ地方貴族がいる。

 法衣貴族も一応王都の周囲に小さな領地を持っていたりするのだが、その世話は代官に任せていることが多く、自前の兵力などはあまり持っていない。

 一方で地方貴族は別だ。

 彼らはそれぞれの領地に領兵を持っており、ある程度独立した軍事権も持っている。王都における軍は騎士団と兵士たちのみだが、地方ではまた形が異なってくるのだ。

 彼らは基本的にハルシ王国の一員であるからして、ある程度、王からの理不尽な要求も受け入れる。代わりに王国という大きな庇護の元、他国から領土を守っているのだ。

 いざという時には王の号令によって、各地から援軍が送られるというわけである。


 つまるところ、意外と地方貴族の力は強いのだ。

 だが、王都で暮らすオブラ侯爵家は五十年にわたり、長く王家の権力を自由に使えたことにより、少しずつその地方貴族の力すらも解体し、取り込み始めている。

 ヒストルが懸念したのはまさにここなのだろう。

 いずれは王家に従う者より、オブラ侯爵家の顔色を窺う者が多くなり、そうなればハルシ王国は完全にオブラ侯爵家のものとなる。

 今が正にその瀬戸際。

 そういうところなのだろう。


 ちなみにその点で言うと、旧アルムガルド領を引き継いだラウンドは地方貴族として非常に強い立場にある。

 まず圧倒的に軍事力に優れている。

 そして周囲に配置された貴族が、〈リガルド〉に対して文句は言えど好戦的でない。

 彼らは元々、強大な辺境伯である旧アルムガルド家の監視のように配置された貴族たちであり、その頃はもっとたくさん文句を言っていたのだ。

 だが、アルムガルド家がなくなり、自身の領地に魔物の被害が増え始めたころ、ようやくそのありがたさを思い知った。

 だからこそ、今魔物を押さえている〈要塞軍〉にはぐちぐちと文句を言うくらいで、逆らうことはできない、という関係が出来上がっている。

 このような具合に、各地に強い貴族と、それを押さえるための貴族が点在しており、その強い貴族の方をクルムは〈万年祭〉の間に、積極的に取り込むつもりでいたのだ。


 状況が変わって、また調査、検討で忙しくなる毎日になってしまいそうだが、それはグレイにはあまり関係のないことであった。

 クルムが忙しく調査をする。

 それはすなわち、グレイのすることがあまりなくなる、ということだから。

 ここから数日は暇になりそうだ、と思いながら、グレイは片手で鬚をしごくのであった。

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― 新着の感想 ―
分かっても、それでも文句を言うのかあ…
いっそオブラ侯爵家という頭を直接どうにか出来れば話は早いんだけどなぁ。
オブラ侯爵家はお爺ちゃんに間接的には恩があるし、危険性もわかってるだろうから直接的に攻撃してこない分、クルムちゃんはやりにくそうかもですね。
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