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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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ウィクトは思慮深い

「随分と偉くなったもんじゃのう」


 さっさと座っていたグレイは、ウィクトの自己紹介を聞きながら厭味ったらしくねちっこくそんなことを言った。


「ははっ、グレイさんがいなくなったからですよ。本当はあなたの役割だったはずです」


 しかしウィクトは快活に笑ってさらりとそれを躱す。

 冒険者時代のグレイは、ウィクトが頭角を現す前から知っているが、メナスほど頻繁に話をしていたわけではない。そういえばこんな感じで、嫌味も悪口も通じない、対人関係ではほぼ無敵のタイプの男であったことを思い出す。

 誰かと比べて表現するのならば、人に気を遣えるようになった〈要塞軍〉のロブスと言ったところか。

 大層なハイスペックである。


「お前の実力じゃろ。儂と違って人から慕われておったし」

「グレイさんも慕われていましたよ? 少なくとも私は、あなたに育てられたと思っています」

「精々数度、一緒に依頼を受けただけじゃろ、言いすぎじゃ」

「その数度にグレイさんがいなかったら、私は死んでいました。壁を破るような冒険をする時は、いつだってグレイさんが背中を守ってくれていました」


 グレイは天井をじろりと睨み黙り込む。

 こうも褒められると身動きがしづらい。

 相手に悪意がないのが余計に面倒くさい。

 だからグレイとしては、ウィクトがいい奴だと知っていても、ちょっと相手にしたくないのだ。色々な意味で隙の少ない男である。


「もうその話はやめじゃ」

「そうですか? 折角だからグレイさんの活躍を王女殿下にもお聞かせしたかったのですが」

「いらんいらん」

「ふふ、照れてるな」

「黙れメナス」


 年配の三人が揃って楽しそうである。

 グレイは渋面だが、なんとなく楽しんでいるのは雰囲気で伝わってくる。


「それで、グレイさんはなぜ王宮に? 実はメナスさんから詳しく話を聞いていないのです。会った時の楽しみと言われ、じらされていまして」

「何でと言われてものう」


 グレイがちらりと視線を送ると、心得たとばかりにクルムが口を開いた。

 折角この場に来たのだから、クルムもウィクトと話しておけばよかろう、というグレイなりの無言のパスである。


「私がお招きしたのです。今の状況も含め、少しお話を聞いていただいても?」

「もちろんです。お聞かせ願います」

「ハルシ王国では、王位継承者が定められていないことはご存じですか?」

「ええ、王位継承争いが行われているのですよね。大まかには」


 流石各国に顔の利く冒険者ギルド総長である。

 話が早い。


「それに参加するためには教育係をつける必要があります。普通ですと、自陣営を後援してくれる財力や権力のある方にお願いするものなのですが、私の場合は頼れる方がいませんでした。そこで、ここにいるウェスカに、市井から人物を探してきてほしいとお願いしたのです。ウェスカは昔、ゼルト商国で冒険者をしておりまして、【青天の隠者】のことを知っていました。そのお陰で、先生のことを見つけ出すことができたのです」

「私たちが流した噂が、意外なところで役に立ったんですね」


 ウィクトが驚きながらメナスに声をかける。


「うん、そうなんだ。それが巡ってグレイとの再会に繋がったのだから、本当にいい考えだったってことになるな。……そこまで計算づくだったわけじゃないよな?」

「まさか。……それにしても、そっか。ウェスカさんはゼルト商国で冒険者をしていたんだ」


 ウィクトはじーっとウェスカの顔を観察し、「あ」と声を上げた。


「うん、ウェスカさん、私と会ったことがあるね?」

「は、はい! 実は昔に……」

「覚えているよ。確かその首から下げたロケットが盗まれて、一緒に探したんだったかな」

「よく、覚えていらっしゃいますね」

「うん。新人冒険者にしてはやたら礼儀正しかったからなんとなくね。でもそれだと……、あ、いや、いいか」


 ウィクトは何かを言おうとしたが、途中でクルムの方をちらりと見て口を閉ざした。


「何じゃ、言い淀んで」

「いえ、まぁ、大したことではないので。それよりもグレイさんは、王国へ戻ってきてから長いこと何をしていたのですか?」

「まぁ、大したことはしておらんが……」

「そんなこと言って、グレイさんなら、色々やっていたんじゃないですか?」


 グレイから言及されたウィクトは、それをさらりとかわして話を切り替えた。


 ウィクトが内心で疑問を覚えたのは、ウェスカがどうやってグレイを見つけ出したのかということだった。

 もし顔を見てピンと来たのだとするならば、それはおかしい。

 なにせウェスカが冒険者になったのは、グレイが失踪した後のことなのだ。

 いつもフードを深くかぶって顔を隠していたグレイの素顔を知る者は少ないし、もちろん絵に残されていたりもしない。

 【青天の隠者】は補助魔法の達人として知られているので、その先入観を持って見た場合、筋骨隆々のグレイの姿を想像することは難しいだろう。もし知っている者に噂を聞いたのだとしても、グレイを【青天の隠者】本人であると判断するのはやはり難しいはずだ。


 ただこれは、本当に些細なことだ。

 ウェスカは、クルムがわざわざこんな場所に連れてくるくらい、信頼を置いている相手である。

 その上あの頑固なグレイまでもが、ある程度心を許しているように見える。

 いちいち細かいことにまで言及する必要はないかと、ウィクトは判断したのであった。

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― 新着の感想 ―
物語の発端こそが最も闇深い伏線、か…
新人でやたら礼儀正しい = 若くして礼儀作法を教育されている、つまりどこぞの王族・貴族だったのでは?
初めて明かされる冒険者時代のウェスカの過去?
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