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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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順調な進捗と再会の酒場

 それからまた数週間が過ぎたが、相変わらず他陣営からの邪魔は入らず、いっそ不気味なくらいであった。

 〈万年祭〉の準備に関しては、もう手を出すコストとリターンを考えると、割に合わないと考えてのことなのかもしれないが、準備をしている側としては、それでも警戒せざるを得なくて、厄介な話であった。

 怪しい人物がいれば、やれどこかの陣営の関係者なのではないかと、いちいち細かく調べるのは中々手間である。


 クルムの派閥の仲間たちは、いつも通り順調に自分たちのタスクをこなしていたし、ケルンは身軽になってからは、数人のお付きの者と共に、毎日のように〈要塞軍〉の訓練に参加するようになっていた。

 クルムがケルンの祖父であるヒストルと話をして、協力を取り付けたことに関して礼を言った時も、ケルンは偉ぶったり恩に着せたりせず、ただ少し寂しそうに「そうか」と言っただけだった。


 木の葉が染まり、はらはらと地面に積もり始めた頃、王都は少しずつ〈万年祭〉への前乗りの客がやってきて、賑やかになり始めた。前のりの客、と言っても、彼らの多くは、〈万年祭〉に合わせて商売をしに来た者たちであることがほとんどで、実際の招待客というわけではない。

 彼らは野心を抱えて王都へやってきており、来年一年間をかけて商売的に成功すれば、そのまま王都に住まう気すらあった。

 そのため、あらかじめ用意した資金で、商売拠点を準備する者も多く、また建築の需要が緩やかに伸びていく。

 いつもであれば、拠点を手に入れるには金が足りず一時的に借りるものなども多くいたが、今回は人手が十分に用意されている。一括で支払ってくれるのならばという条件で、通りから少し入ったあたりに、新たに次々と建物が建っていく。

 人が増え、商売人が増え、税収が増える。

 クルムの想定していた好景気のための歯車が、少しずつ勢いを増し始めていた。


 一方で、人がたくさんやってくると、その護衛でついでにやってきた荒くれ者も増える。

 騎士団が兵士たちを連れて忙しく対応しているが、手の回らないことも多く、時には〈要塞軍〉も力を貸して、王都の治安維持に努める毎日だ。


 そんなちょっと賑やかで、物騒になった街をクルムとグレイは歩いていた。

 今日は珍しく緊張した様子のウェスカも一緒である。

 グレイはいつも通りだが、一応、クルムとウェスカは一般人に見えるような服を着ている。

 最近のクルムは外に出ることも増えたので、知っている人が見れば一目で気が付くけれど、一応『今日は公務で外にいるわけじゃないですよ』というアピールのためにも服装を変えている。

 時刻は夕暮れ。

 今日は珍しく外で夕食を食べる予定だ。


「あやつらを、呼び出せばよかろうに。偉そうに……」

「折角場所を設けてくれたんだからいいでしょう」

「お主は呼ばれておらんのに勝手についてきたんじゃろうが」

「先生に任せたら、また文句を言って行かないかもしれないですし、メナスさんは同席していいと言ってくれました」

「そりゃあ王女に向かってお前は来るなとは言わんじゃろ」

「先生は今言いましたけど」

「儂は別じゃ」


 二人の軽い言葉のキャッチボールを黙って聞いていたウェスカは、眉じりを下げると「すみません、勝手についてきてしまって……」と謝罪する。


「いえ、ウェスカは私が頼んでついてきてもらっているので、気にしなくていいのです」

「ま、毎日よく働いておる。たまには外で酒でも飲んで羽を伸ばす日があっても良いじゃろう」


 二人がはっとしたようにフォローを入れると、ウェスカは穏やかに微笑んで頭を下げる。


「ありがとうございます。お邪魔にならないようにしますので」


 グレイはウェスカがただただまっすぐに一生懸命にクルムのために働いていることを知っている。誰かのために、私欲を一切捨てて本当に命を懸けて働くことができる人間というのは、なかなかもって稀だ。

 だから横暴乱暴なグレイをして、どうしてもウェスカには多少気を遣ってしまう。


「先生が余計なこと言うから……」

「お主も言ったじゃろうが!」


 同じくクルムも、ウェスカの前では比較的良い恰好をしようとするところがある。

 ずっと支えてくれたウェスカに、かっこ悪いところは見せたくないし、心配も掛けたくないという意思が常に働いているのだ。

 立場としては決して強くないウェスカであるが、同じ場所に存在するだけで、この二人を少しばかり大人しくさせるという、極めて希少なパッシブ効果を持っていた。


 そんな話をしながら辿り着いたのは、冒険者ギルドに併設された酒場である。

 決して治安がいい場所ではないし、安酒が飲めるせいで、中ではやかましい酒盛りが行われていることもある。

 特に王都の冒険者の質は、他と比べても良いものではないから、クルムもあまり立ち寄ることのない場所であった。

 あまり静かな話をしながら飲むのには向いていない場所だが、メナスは『久しぶりに私たちが会うのならば、冒険者ギルドを置いて他にない』と言って、場所を指定してきたのだ。


「やれー、ぶっころせぇ!」


 外にいるのに、中から物騒な掛け声が聞こえてくる。

 流石にクルムやウェスカに扉をあけさせるわけにはいかないかと、グレイは一歩前へ出て扉に手をかける――。

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