良い王女、悪い王女、やばい爺
「心当たりがあるのは、あなたの方ではありませんか?」
元々は自分とは違う陣営に属しており、そちらで何かしらの作戦を実行していた冒険者たちだ。
ここでクルムが冒険者たちを甘やかす理由はない。
ファンファが配下に欲しがっており、優秀な冒険者であるから様子を見ているけれど、本来ならば彼らの方こそがこの場を切り抜けるために、積極的に動くべきなのだ。
冒険者たちに対して放った言葉は、脅しの意味も込められているけれど、現実に起こりうる可能性は相当高いとクルムは考えている。
何もせずにこのまま冒険者たちが帰った場合、クルムは彼らが無事に本国に辿り着けるとは思っていない。
「何もないなら、こいつを抱えてとっとと帰るが良い。支払いは忘れんようにのう」
「え、あ、うわっ、何すんだ!」
グレイはまだ意識を失っている冒険者の襟首をつかむと、ポイっと残りの冒険者たちに向けて投げつける。
冒険者ならば自分で招いた危機くらい自分で何とかしろ、というのがグレイの考え方である。
ごちゃごちゃと回りくどい駆け引きをするような小賢しい連中は死んでも仕方がない、という考えでもある。
そもそも自分たちが問題を起こして、クルムたちに不利益をもたらしかけた上、偶然助けられたというのに、その上交渉しようという性根が気に食わない。
「ほうれ、帰れ帰れ。精々生きて自分の国に帰れるよう頑張るんじゃな。十秒以内に立ち去らんとぼっこぼこにして外へ放り出すぞ。ほうれ、十」
相手の事情など知ったことではない。
カウントダウンを開始したところで、冒険者は慌てた。
仲間たちの方を振り返り、素早く相談をしてから、クルムに向かって頭を下げる。
「頼む! すべて白状するから匿ってくれ、き、きっと役に立つ!」
「七、六」
「私ではなく、ファンファお姉様の指示に従う形ですけれど」
「四、三」
「それでいい何でもいい!」
冒険者たちも、グレイが相当な使い手だということを察知できる程度の実力があるから、このままカウントダウンを続けさせるわけにはいかないと必死だ。
悠長に交渉などを試みるからこうなるのである。
「二、一」
「それ、やめさせてくれ!」
グレイがこぶしを握り込み、パキパキと指で音をたてはじめたところで、冒険者は悲鳴を上げてクルムに頼み込んだ。
「先生、あの、お話がしたいそうなのですが……」
「いらんじゃろ。助けてやったのに、身の程も知らず交渉するような輩」
のしのしと歩き始めたグレイの腰に、ファンファが慌てて抱き着いて止めようとするが、そのままずるずると引きずられる。
「お爺様、私は欲しいですの!」
「知らん、馬鹿娘。お主は今日一日反省しておれ」
「先生、抑えてください。スペルティア様に対するお支払いの話も済んでいませんので、お願いします」
クルムがそういうとスペルティアがピクリと耳を動かす。
グレイは両腕を広げて前に立ちはだかったクルムを見つつ、振り返ってスペルティアが自分に注目していることを確認し、「ふんっ」と鼻を鳴らしてようやく足を止めた。
「……ガキども、あまり儂を舐めるなよ。お主らが何をしようとしてたかなど、お見通しじゃ。ここから先少しでも嘘をつこうものなら、頭と体が泣き別れすることになるぞ」
「分かってる、嘘はつかない……」
先ほど死にかけた襲撃と同じか、それ以上に精神的に摩耗した冒険者は、すっかり肩を落として元気がなくなっていた。とんでもない一日になってしまったと、ここまでの自分たちの選択に後悔し通しである。
逆にそんな中でも常に自分たちに好意的に接してくれるファンファに対しては、強い感謝の念が生まれ始めていた。
冒険者はその場に座り込むと周囲の様子を気にしてから、今回の顛末を語り始める。
始まりは、新興の勢いのある商人からの誘いだったという。
万年祭に合わせて、隣国へ行って商売をするので、その下見に行きたいと。
王都のお偉方と既にある程度交流があり、場合によっては紹介だってできると唆された。
条件も良かった。
有名な王都であるし、出費もなく収入もいい。
堅実に依頼もこなして、ある程度金や地位も手に入れたから、ここらでもう一段階ステップアップのつもりで、ご褒美のような依頼だと、喜んで引き受けたのだとか。
そうして王都に来てのんびりと過ごしていたが、商人に頼みごとをされた。
もちろん、依頼としてだ。
妙な話だとは思ったが、全て滞りなく上手くいけば、ハルシ王国の王子と会食の場を設けてくれると言われ、冒険者は詳しいことを聞かずに手を貸した。
それが、荷物運びの護衛だ。
その途中のある日ファンファと出会った冒険者たちは、『これがまさか……』と思ったらしいが、商人が紹介すると言っていたのは王女ではなく、王子である。
下手に他の王族と関わらない方がいいか、と泣く泣く別れたというのが、あの日の経緯であった。
そうして今日、大事な話があると呼び出されたのが北の貧民街付近。
そこでついてくるようにと言われ、途中で商人からは警戒するようにと忠告を受けたのであるが、既に周囲は囲まれており、逃げ出すことも難しい。様子を見ているうちに戦いが始まってしまい、あのざまだった、ということだった。
「何かとんでもないことに関わっちまったらしいことは分かってる。でも、俺たちも詳しいことはよく分かってねぇんだよ……」
完全に利用された。
それがグレイの視線におびえながら語った、この冒険者たちの言い分であった。
良い王女、悪い王女、やばい爺
これで尋問のメンバーは完璧。




