手持ち無沙汰
冒険者たちの煮え切らない態度にグレイはじれていたが、ファンファはまるで気にした様子もなくニコニコとしていた。
冒険者たちが揃って三十前後の、それなりに顔立ちの整った男たちであるからだろう。彼らが自分のものになるかもしれないと考えればご機嫌だ。
ファンファは、明らかに聞かれたくない話をしているであろう四人の方へ歩いていって、何も気づかないふりをして間に割り込む。
「何か困りごとでもありますの?」
「あ、いや……。ほら、俺たちはこの国の冒険者じゃないから、失礼のないようにな、と」
しどろもどろの言い訳は怪しい。
グレイの実力を一目で見抜く辺り、能力は高いのかもしれないけれど、交渉はあまり得意ではない可能性がある。
まぁ、王族や商人と比べた時、その身一つを頼りにやって来た冒険者の方が口が立つというのもおかしな話だ。そもそも王族を待たせてお話し合いしている時点で、十分に失礼にあたることを彼らは理解していない。
「んー、お話を聞かせてもらうだけですのに? あ、高名な冒険者さんですもの。もちろん相応の謝礼もお支払いしますわ」
「いや……」
ここまで言われて、断るとなると余程やましいことがあるか、慎み深いかのどちらかである。
ファンファは良い感じに一番表情の緩そうな相手を見つけると、改めてそちらと目を合わせた。そうして悲しそうな表情を作って尋ねる。
「駄目かしら……?」
「あ、まぁ、別に話くらいなら……」
「嬉しい、それじゃあ席に座って聞かせてもらおうかしら!」
他の三人が了承してしまった一人を睨んだが、その時にはファンファはすでに男の手を引いてカフェの席へと向かっていた。
仕方なく冒険者達もその後についていく。
一連の行動が特に楽しくもなんともなかったグレイは、口をへの字にして、付いて来ているドーンズとニクスに尋ねる。
「お主らの王女が変なのをたらし込んでおるが、あれでいいのか?」
ファンファがとられてもいいのか、という意地悪な質問だったが、二人とも澄ました顔のままで、悔しそうなそぶりはさっぱりなかった。
「あれもファンファ様のやり方ですので」
「外に向けたお顔も可愛らしいなと」
「ある意味極まっておるな、お主ら」
楽しそうな二人を見て、グレイは珍しく降参した。
こういったタイプには何を言ってもあまり効果がない。
戦って負けることはないが、嫌味や言い争いでは勝負にならないことが多い。
「それはそうと、あ奴ら、やはり目的があってやってきたようじゃな」
「そうでしょうね。冒険者で王族からの誘いを渋るなんて、かなり珍しいことです」
グレイ本人は冒険者時代であっても権力におもねるタイプでなかったが、一般的な冒険者の心理くらいは、ある程度理解している。
ドーンズが一般的な冒険者として、グレイの意見に同意した。
「実力的にはお主らより上じゃろうな」
「残念ですが、そうでしょうね。高名な冒険者、という噂は嘘ではないのでしょう」
三人で離れたところで話していると、席に着いたファンファがブンブンと手招きをしている。ついてこないのが気に食わなかったようで、子供のように頬を膨らませていた。
二人のお付きは慌てて駆けて行ったが、グレイはのんびりと歩いて近寄り、ファンファの顔が見えるような近くの別の席に腰かけた。
近くにいるとうるさいし、ファンファが冒険者の相手をしている以上、グレイの出番はない。一応ついてきてしまったので、どれ、たまにはおしゃれなカフェで食事でもと席に着いた次第である。
ウェイターがやって来たところで、本格的に食事を頼み、グレイはこの冒険者たちが何を目的に王都にとどまっているかを考える。
ファンファが表情をころころと変えながら、冒険者たちの話を聞き出していることとかは、心底どうでも良かった。
あの冒険者たちの目的は分からないが、どのような人物から依頼を受けて、あるいは命令をされて王都に滞在をしているかは大体見当がつく。
おそらく、彼らが所属している国の貴族か王族からだ。
だからこそ、王族であるファンファに声をかけられても、簡単には鞍替えできなかった。ただ観光しているだけ、と言うのは間違いなく嘘っぱちだ。
これまで聞いた話を思い出すと、そうなったときに関係してくるのは、第三子のジグラ王子だろう。
クルムによれば他国の勢力と繋がっているというから、何か事を起こす前の事前調査として入り込んでいる可能性はある。
市中でうろうろしているところで、何か良い情報が得られるとは思えないが、何か明確な目的があるというのならば話は別だ。
例えば、裏社会や貧民街、それに商会の規模感の調査とかか。
それくらいならば、あの冒険者たちにだってできる。
しかし、それだとするならば、わざわざ有名な冒険者を動かすというのもおかしな話だ。調査員が目立つ意味が分からない。
何かそれ以外にも役割があるはずだが、などとグレイが考えていると食事が届いた。
カフェなので軽食しかないが、軽食も大量に頼めば立派な食事である。
食事に集中することにしたグレイは、考えることをやめた。
ついでに、ファンファが何を喋っているかも既に完全に興味がない。
少なくとも争いになりそうな気配はない。
すなわち出番がないので、本当にどうでもいいのだ。
そのせいでグレイは、ファンファがいつの間にか会話の主導権を握り始め、いい感じに自分の困りごとに関する相談などをし始めていることには気が付いていなかった。




