東の冒険者
これまで大人しく、逆らわずにやって来たお陰か、時間がたってもヘグニ王子から横やりが入ったという話は聞こえてこなかった。
クルムは黙々と仕事をこなしつつ、兄姉からの報告を聞き、数日に一度貧民街を訪ねて途中経過を聞き取りに行く。そんな風に半月ほどを過ごして、話し合いまで残りあとわずかとなったある日だった。
いつもと変わらぬ時間にファンファがやってきて、雑談ベースでぽろぽろと街の情報を落としていく。
ヘグニ王子からの横やりはないが、街は常に動きを見せており、それは冒険者たちの界隈でも同じだ。
ファンファの話によると、近頃東の方から冒険者らしき人物らが王都へとやってきているのだそうだ。らしき、という修飾語がつく理由は、彼らが一体何をしに来ているのかが今一つぴんと来ないところにある。
王都には基本的に冒険者の仕事があまりないのはよく知られていることで、隠居した冒険者が終の棲家としてやってくることはあれど、現役バリバリの冒険者が長居することはほとんどないのだ。
やってきて冒険者として活動するわけでもなく、宿でのんびり過ごしたり、街中をふらついたりして過ごしているらしい。噂によればそれなりに高ランクの冒険者らしく、金銭的に余裕があるので王都の観光を楽しんでいる、ということらしい。
そんな冒険者の姿がちらほらみられる、ということが不思議なのであるが。
半年後から始まる〈万年祭〉の先乗りにしては、少々早くやってきすぎだ。
どうせならば護衛任務をついでに引き受けてやってくればいいので、自分たちだけで先に来るのはどうにも理屈に合わない。
ちなみにグレイが冒険者活動をしていたのは西にある国であるから、今来ている冒険者たちについてはさっぱり詳しくない。文化的にも慣れ親しんでおらず、話を聞いても何か思いつくようなことはなかった。
ファンファの口からも、やれ何をしただの、どこの店に寄っただの、そんな話は出て来るが、具体的な動きに関してはよく分からないというのが現状だった。
気味が悪いがヒントがない以上様子を見るしかない。
結びつけるものがあるとすれば、ジグラ王子の外国勢力による介入だが、そう予測をつけたとしても、結局何をしているかは不明であった。
腕が立つそうなのであまり近付いて調べるわけにもいかない。
外でドーンズに訓練をつけてやっていたグレイは、部屋に戻ってきたときにそのことについてファンファがいまだぐちぐちと言っているのを聞いて呆れた顔をする。
「そんなに気になるならば直接聞けばよかろう」
「それでジグラお兄様の手先だったら困らなくて?」
「どうせ正直に答えたりせんじゃろ。どれ、儂が行って話を聞いてきてやろう」
どうせ暇だし、というのがグレイの言葉の後に見え隠れする。
基本的にクルムが引きこもって仕事をしている間、グレイは特にやることもない。
ふらりと街に出て、冒険者に声をかけて帰ってくるくらい、ちょっとした散歩のようなものだ。
相手がどんなに凄腕だろうがグレイにとっては関係のない話で、退屈しのぎができるかどうかが大事だ。むしろ凄腕の方がいいまである。
最近荒事が続いて、毎日体を鍛え直しまくっているものだから、力が有り余って仕方がないのだろう。老いてますます元気もやや行き過ぎている。
「あら、それなら私も一緒に行こうかしら?」
「問題を起こしたり、首を引っこ抜いて問題を隠蔽したりしないでくださいね」
クルムが仕事をする手元から顔を上げることもなく、念のため最低限の忠告をする。
どうせ止めても行くのだから好きにさせたほうがいい。
部屋に居たって暑苦しく筋肉を鍛えるか、茶を飲んでバリボリと菓子を食べているばかりなのだから、ついでにファンファも連れていってくれるのならば万々歳だ。
「うむ、儂も元は冒険者じゃ。冒険者の相手をするのは慣れておる」
自信たっぷりなグレイは顎鬚を撫でながら言い放ち、のしのしと外へと出かけていく。ファンファがついてくるとかついてこないとかも、グレイにとってはどうでもいい。
「私も行ってきますわ。ドーンズ、ニクス、行きますわよ!」
「はい!」
ファンファが二人の護衛冒険者を連れてグレイを追いかけると、クルムの私室にはようやく静寂が訪れた。クルムは元々静かな場所で静かに仕事をこなすことを好むタイプである。
その日の仕事は順調で、結論から言うと三日先の分まで完璧に片づけることができた。ただ、少しばかり満足感が足りないような気がしたのは、きっとクルムが最近の騒がしい私室に慣れ過ぎたせいなのだろう。
さて、ところ変わってグレイの方は、今日はいつもと違って騒がしくて注目を集めることが得意なファンファを引き連れての外出だ。
クルムと二人で歩いていると、外では必要な言葉くらいしか交わさずに目的地へ向かうことが多いのだが、ファンファはぴーちくぱーちくとさえずっている。
その大半は、新しい布が云々とか、どこの男がうんうんとか、とにかく無駄な話なのだが、時折まともな情報も混ざってくる。
ほとんど聞き流しているグレイにとっては、それがまた面倒くさい。
「それで、冒険者が今日いそうな場所はどこじゃ」
街の大通りをしばらく歩いてから、グレイは喋り散らしているファンファに尋ねると、にやーっと笑みを返された。
「案内いたしますわ!」
どうやらグレイが珍しく頼ってきたことが嬉しいらしく、足取り軽く、先頭を歩き始める。
グレイは、まるで自分までもがファンファのお付きになったような気がして癪であったが、とりあえず使えるものは使ってやろうと、その後に黙って続くのであった。




