喋れロンヌス!
「そうは言えども……、これ程若い王女が、第一王子に勝てるとは思えん……」
ある程度王位継承争いについて知っているらしいグンナイが、グレイを横目で見ながら呟く。クルムが何とかするのならば、その背後では当然グレイが暴れるのだろうと思っているのだ。
それはすなわち、その確証がなくばクルムに味方したいとは思えない、ということでもある。
「大事なのはそこじゃねぇと思うんだよな」
「どういうことだ、はっきり言いやがれ」
ゾエのもったいぶるような言い方に、ブルトンがイラついたように地面を殴る。
実際にイラついているというよりは、自分が話の先が見えないので、さっさと進めてほしいのだろう。乱暴なくらいの喋り方こそが、ブルトンの当たり前なので仕方がない。
「俺たちにとって大事なことは、来月の集まりとやらで、クルム王女殿下の意見を通すことだろ? でないと貧民街が燃やされちまうってんだから」
「そもそもその情報が正しいのか……? この王女殿下の言葉を、私たちが四人雁首揃えてまともに受け止めるというのか……?」
グンナイの懸念は、本当はスラム街が燃やされるなんて事実がないのに、クルムが危険を煽って、自分たちを味方につけようとしているのではないか、ということだ。
クルムが王位継承争いに勝てる可能性は非常に低い、というのがグンナイの見解であるから、それはすなわち、クルムの悪あがきに自分たちが巻き込まれようとしているのではないか、ということでもある。
「下手に信じて王女殿下の味方をすれば……、負けたあかつきにはそれこそ……、貧民街が燃やし尽くされることになるのでは」
「ま、そんな危険性もあるわな。結局のところ、王女殿下の仰るありがたい言葉を信じるか、ペテンだと笑い飛ばすか、どっちにするんだって話になるわけだ」
身内で喋っているからか、ゾエの言葉もだんだんと雑味を帯びてきて、クルムの目の前だというのに嫌みたっぷりな言い回しだ。
「よぉ、俺はてめぇらほど頭が回らねぇからよく分からねぇがよ……。お偉方がよ、俺たちのことなんかいちいちそんな気にすんのか?」
先ほどまで地面を殴っていたはずのブルトンが、真面目な顔をしてゾエとグンナイに尋ねる。
珍しいことであったためか、二人ともがうまくその言葉の意味をくみ取れず黙り込むと、ブルトンはさらに続ける。
「もしこの王女様の味方して、王女様が最終的に負けたとするぜ? その時俺たちが王女様の味方してたから潰す、とか、してなかったから潰さねぇとか、お偉方が考えんのかよって話だ」
「なるほど……、その話続けてみてください……」
話が見えてきたグンナイが、続きを促すと、ブルトンは得意になって口を開く。
「今、王女様を手伝えば燃やされねぇかもしれねぇ。手伝わなきゃ燃やされるかもしれねぇ。王女様が負けた後は、手伝ってても燃やされるかもしれねぇし、手伝わなくたって燃やされるかもしれねぇ。ってぇことは、手伝った方がいいんじゃねぇのか?」
自分の推論を都合よくとらえたあまり賢くない判断であるが、ゾエやグンナイは、ブルトンの喋る言葉に一つだけ気が付いたことがあった。
「何よりこの王女様は、わざわざ俺たちに会いに来たぜ?」
そう、二人は、ブルトンがなんだかよくわからないけれど、クルムにほだされているということに気が付いたのだ。
単純な奴だと思う一方で、ブルトンの言うことにも一理ある。
他の王族で貧民街の住人に対して好意的に面会してくれるのなんて、精々教会の顔であるルミネくらいなものだ。そしてそのルミネだって、こんな風に危険を冒して自ら何かの交渉をしに来たりはしない。
クルムは、貧民街のまとめ役たちに何かを命令しに来たのではなく、話をして、協力を求めに来たのだ。つまるところそれは、対等に会話をするべき人間として認めているということであった。
直感的であるブルトンだからこそ、先ほどの一連のやり取りで、素早くそのことに気が付いたのかもしれない。
「グンナイ。俺が聞いたところによると、クルム王女殿下は、ルミネ王女、ハップス王子、それにファンファ王女を味方につけてるらしいぜ。それに、パクス商会や、あのロブスのいる〈要塞軍〉までな」
経過を見守っていたゾエが、ついにグンナイの説得に乗り出した。
どう転ぶかはともかく、いったんクルムの提案を聞いてみるところまで進めたくなったのだ。どうせ恥も誇りもない貧民街の住人なのだから、その内容によっては意見を翻したっていい。
「ロブスだぁ?」
「パクス商会……、ですか……」
それぞれの人物に何か関係性があるのか、ブルトンとグンナイが反応を示す。
クルムとしては、ゾエがようやく情報を漏らしてくれたことにほっとしていた。
それらの周辺情報は、できれば自分の口からは言いたくなかったのだ。
ゾエみたいな計算高いタイプは、カードを切ることによって利害を考えて前向きにとらえてくれるのだが、ブルトンのようなタイプの場合、他人のふんどしで相撲を取る様な言動を好まない場合が多い。
ようは、威張り散らしているように見られたくなかったのだ。
その点、周辺情報がゾエの口から出ると、威張っているような印象はかなり薄れて、ただの事実として素直に飲み込みやすくなる。
クルムがとにかく慎重になっているのは、それぞれ別のタイプの人物であることに加えて、全然まともに喋ろうとしないロンヌスの人物像がさっぱり見えてこないことにあった。
多弁より沈黙の方が面倒くさい。
彼らの中で議論が交わされるのを聞きながら、クルムは身をもってそれを学んでいるところであった。




