これで四天王揃い踏み
少女が爺と、フードを深くかぶった長身の男と、杖を突いた胡散臭い紳士を連れて街を歩く。次なる目的地は、もちろん西地区のブルトンの元だ。
先ほどと同じように街中を歩き、適当にチンピラどもを威嚇して追い払い、ブルトンの所在地を調べ上げる。
そうしてブルトンがお天道様の下で、女性数人といちゃいちゃしている現場にグレイたちは乗り込むことになった。
グレイの顔を見た瞬間顔を真っ青にしたブルトンは、その横に大きな体を跳ね上げるようにして立ち上がり、逃げ出さずにまっすぐグレイに突進を仕掛けてきた。
出口がそちらにしかなかったのか、あるいは女性たちに少しでもいいところを見せようとしたのかは分からない。
低い姿勢でグレイの足を掬いにとびかかったところを、見事なアッパーカットで顔面の中心を迎撃され、数百キロはあろうかというその巨体は宙を舞った。
そのまま意識を失ったブルトンの体が、女性たちの下へ突っ込みそうなことを確認したグレイは、すぐさま駆け出しとび上がり、空中でブルトンの首根っこを掴み、誰もいない地面にたたきつける。
その衝撃で目を覚ましたらしいブルトンは「ぐえぇえ」とカエルの潰れた時のような声を上げてバウンドした。
「未熟者め」
「ど、どぼじて……」
この疑問は、なんでこの糞爺が生きているのか、という意味である。
グレイがいなくなったと聞いた時、ブルトンは生まれて初めて他者に向けて精一杯の礼の気持ちを込めて祈りをささげたくらいだ。
「もうちょっと体を絞らんかい」
「ブルトン、なんかグレイさんが話があるってよ……」
「馬鹿だよなぁ、お前は……。本当に馬鹿だよなぁ……」
ゾエが顔の凹んだブルトンに伝えると、グンナイが同情するようにしみじみと呟く。戦えば謝るよりももっとひどい目に遭わされるに決まっているのだ。
グレイは素直に自分に向かってくる奴はそれほど嫌いでもないが、だからと言って容赦したりしないのだ。
ブルトンとて無意味に戦ったわけではない。
ゾエが一緒にいて、グンナイの頬が腫れているということは、自分もしばかれる心当たりがあったので、破れかぶれに勝負を挑んだのだ。
爺だからいい加減弱っていろ、という希望も込みでの挑戦である。
あえなく惨敗したが。
しばらく静かに呻いていたブルトンであったが、やがてゆっくりと立ち上がる。
そうしてポケットからハンカチを取り出すと、「いてて」と言いながら、流れている鼻血を拭きとった。
「それで、何の用だって……」
もはや鼻はぐにゃんぐにゃんで、顔面の中心にグレイの拳の跡がついているけれど、ブルトンは首をブンブンと振ってから、しっかりと返事をしてみせた。
薬物兵にも匹敵しそうなタフさである。
かくかくしかじか、ゾエが適当に理由を説明したところで、ブルトンは納得して、従えていた女性たちを連れて、服を着替えにとぼとぼと引っ込んでいく。
すぐに戻ってきて出発となったところで一言。
「グレイの爺よぉ……、前より拳が冴えちゃいねぇか……? いつになったら老いぼれるんだよ……」
「生涯現役じゃ。いい加減目上の者への口の利き方を覚えぬと、その耳引きちぎるぞ」
「悪かった悪かった悪かった!」
喋っている途中に耳をぎゅっと摘ままれて引き下げられたことで、ブルトンは慌てて謝罪を繰り返す。グレイがやると言ったらやる爺であることは、貧民街四天王の誰もが知っていることだ。
ちなみにブルトンが余計なことを言ってサンドバッグにされるのはよくあることである。
巨漢、長身、怪しい紳士に、マッスル老人を引き連れたクルムの姿は目立つ。
できるだけ大通りを通らずに移動したが、通りすがる人が皆ぎょっとして二度見三度見をするか、やばい気配を感じて目を合わせずに避けていった。
こんな調子で街中を歩いているとあっという間に評判が悪くなりそうである。
そんなクルムの懸念はさておき、特に何事も起こらないまま、夕暮れの頃にはなんとか北のロンヌスの元までたどり着くことができた。
ロンヌスはグレイより少しばかり背が低く、短髪で、筋肉質な男だった。
それが腕を組んで、周囲に悪そうな奴らを山ほど連れて、グレイたちの方をじろりとみている。
ここまでの顔ぶれだと一番正統派に強そうだな、と思ったクルムは、グレイのせいですっかり度胸が据わってしまったのだろう。
周囲にいる者たちが威嚇をするように前に出てきたところで、木箱に座っていたロンヌスが何かをぼそぼそっと呟いた。
するとすぐ近くにいる帽子を深くかぶった女の子が一人、全員に聞こえるように大きな声を上げる。
「やめろってさ!」
全員が戸惑った顔で振り返ったところで、ロンヌスがまた何かをぼそぼそと言うと、女の子がまた声を張る。
「大事な話があるからみんなどっか行けって!」
ガラの悪い連中は互いに顔を見合わすと、「ロンヌスさんが言うなら……」と言いながら、そのまま四方八方へと散っていく。
そうして誰もいなくなったところでロンヌスがまた何かを喋った。
「お久しぶりです皆さん、何もないところですがどうぞおかけください、だって」
「……お前、自分で聞こえるように喋れって。今日は大事な話があるから、そこの娘も外してもらうぞ」
ゾエが呆れたように言うと、ロンヌスはむっとした顔をしてからまた小さな声で女の子に何かを伝える。
すると女の子はその広間の端の方へ行って、壁の方を向いたままぎゅっと耳を塞いだ。
なるほど、最後の人はこういう感じか、と、クルムはなんとなく納得してロンヌスの変な部分をあっさりと受け入れるのであった。




