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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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楽しいお出かけ

 クルムたちが忙しい毎日を過ごす中、当たり前のようにグレイは暇をしていた。

 テーブルをピカピカに磨いてみたり、クルムがいざという時に走って逃げられるように鍛えたり、自身の筋肉をいつも以上に鍛えあげてみたり、スペルティアと一緒にいるバミを見てにやにやとしてからかったりする毎日だ。

 実に退屈である。


 そんな実に退屈な毎日を過ごしているグレイの下に、久々にクルムから外出の話が舞い込んだ。


 退屈していたグレイは二つ返事でそれを受け入れ、青天の本日、一般庶民的な服をまとったクルムと共に、貧民街へと足を伸ばすことになった。

 今回のクルムは王宮で準備した自前の服を着用せず、パクス商店で、用意しておいてもらった庶民の服に着替えて出かける。

 汚れが目立たぬよう全体的に暗い色で染められた、丈夫で長持ちする素材で作られた服を身にまとうクルム。

 それでも顔立ちのせいか、立ち居振る舞いのせいなのか、どうしてもお忍びのお嬢様感は否めないが、初めてグレイの元を訪れた時よりは、街に馴染んでいるようであった。


 ちなみにグレイはいつものローブを纏うだけで、あっという間に貧民街に溶け込むことができる。むしろ王宮で常に浮いているのを何とかした方がいい。


 グレイは貧民街へ入る前に、いつもの油まみれの芋を焼いたものを複数個購入。

 そして当たり前のようにそのうち一つをクルムに手渡して、歩き食いをはじめた。

 古びた油にたっぷりの塩をまぶした芋は、間違いなく不健康の元であるが、クルムはこれが癖になるうまさをしていることをすでに知っている。

 あたりに漂う香ばしい匂いを嗅いだ時点で、不思議と腹が減っていたのだ。

 クルムは行儀悪く、貰った芋にかぶりつく。


 そのまましばらく無言でもぐもぐと芋を咀嚼したのち、クルムはグレイの真似をして、指についた塩をぺろりと舐めてから、行儀が悪かったとハンカチを取り出した。


「先生はよく間食をしているのに太りませんね」


 自分もウェスカに秘密のおやつを食べたくせに、そんな態度はおくびにも出さず、黙々と芋を食べているグレイに尋ねる。


「うむ。見て分かる通り、儂はお主より体が大きい。力を出すことのできるからだというのは、その分栄養を消費するのだ。むしろ食わねば餓死してしまう」

「まさか、普通に食事をしていて餓死なんて……」

「するぞ。健康な体は健康な食生活によって養われる。力の出る体を作りたいのならば、しっかりと動いて肉を食らう。体に栄養を巡らすなら……、とまぁ、色々あるんじゃ。あまり重視しないものも多いようじゃがな」


 真面目に語られてクルムは目をぱちぱちと瞬かせる。

 そうしてそういえばグレイに育てられた人物たちは、みなやけに発育が良くしっかりとした体つきをして、肌艶も良いことを思い出す。

 パクスに関してはほぼ全身覆われているのでよく分からないけれど。


「それは……スペルティア様の知識ですか?」

「ふむ……、まぁ、そんなところじゃな。子供はよく寝てよく食べよく動くべきじゃ。基本的に王宮の食事はよく考えて作られているから口出しはせんが」

「……先生って、妙なことに詳しいですね」

「役に立っておるじゃろうが」


 これでもグレイは、王都に戻ってきてから子供を預かるようになって、色々と考えたのだ。昔の知識を思い出しつつ、探り探りで栄養失調気味な子供たちに、食べ物を与えて育ててきた。

 実は料理もしっかりとできると知ればクルムは驚きそうなものだが、それを披露する機会は今のところ訪れていない。


 ついでに付け足すのならば、グレイの超人的な肉体が作り上げられたのも、この世界に存在する魔法的要素と、グレイが元々持っていた肉体改造の知識が合わさって築き上げられた結果である。

 世界が変われば常識も変わるものだが、肉体改造についてはある程度応用が利いたのは、グレイにとって幸いなことであった。


 さて、貧民街に入り込んでもクルムは一切の動揺を見せなかった。

 モーリスを連れてきたときの緊張した様子を思えば、クルムがどれだけ度胸の据わった少女であるかが分かる。

 もちろんそこには、グレイに対する信頼なども含まれているのだが。


「今日はどこを見せてくださるのですか?」

「時間もあることだし、ぐるりと回ってみるかのう。〈万年祭〉開催期間だけでも、貧民街が目立たぬようにしたいのであろう?」

「そうなりますね。まとめ役がいれば話が早いのですが」

「まぁ、おらんこともない」

「……そうですか」


 クルムはちらっとグレイを見上げ、それだけにとどめた。

 紹介するかどうかはグレイの気分次第であるし、必要と思えば勝手にやるだろう。

 そうしてくれた時に礼を言えばいい。

 先に伝えるとへそを曲げて妙なことをしかねないことはお見通しだ。


 しばらくの間うろうろと貧民街を探索していると、時折様子を窺うような視線を感じることがある。クルムがちらりと目を向けると、逆にじわりじわりと近づいてくるのが、貧民街の気味の悪いところだ。


「貧民街にもさまざまな住民がおってのう」


 しかしグレイはまるで気にした様子もなくクルムに話しかける。


「街中で暮らすには金が足りず、仕方なく危険を承知で暮らしている者。それから、貧民街で生まれた、親もろくに知らぬような者。よそから流れてきて王都に馴染めなかった者から、街中の争いに負けて逃げ出して来た者。有用な者もいるが、どうしようもない者もいる。ま、言うなれば負け犬の模範市じゃな」


 最後の一言をひときわ大きな声で述べると、その中の負け犬の一人であるグレイは、振り返って挑発的に、しかしやや自虐的に笑いながら言った。


「のう、そう思わんか、負け犬ども」



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クルムがいざという時に走って逃げられるように鍛えたり、自身の筋肉をいつも以上に鍛えあげてみたり、スペルティアと一緒にいるバミを見てにやにやとしてからかったりする毎日だ。  実に退屈である。 退屈…
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