散!
さて、話し合いが終わったところで、解散して活動開始と思いきや、ルミネが穏やかな表情のまま控えめに手を上げた。
「スペルティア様の件、報告してもよろしいでしょうか」
「おう、そういえばあの後どうなったんじゃ?」
グレイが外へ出た段階であの部屋に残っていたのは六人。
そのうちホープとクリネアがすぐに退室するのは目に見えていたので、残されたのは四人。
ジグはルミネを放って帰るわけにいかないし、バミはスペルティアを放置できないから、話し合いの末に何らかの決着を見せたはずだ。
「あの後しばらく四人で話し合いをしまして……、バミ様は仕事場を治癒室の隣に移されるそうです。これまで言われた通りやって来たので、治療の目的だとごり押して、場所を移動させる、と半ばスペルティア様に無理やり約束させられておりました」
「そりゃあいい。あんな魔窟の奥のじめじめしたところで暮らしていては、気が滅入るわ。日にあたる場所で、治癒魔法でも受けながら、死ぬまで働いたらいいんじゃ」
グレイがにやにや笑いながら言うと、ルミネも笑顔で頷く。
「バミ殿は困ったような顔をされているようでしたが、スペルティア様のことをとても大事にされているように見えました。素敵なことだと思います」
ルミネはそこでジグの方へ流し目を送る。
いわゆる朴念仁であるハップスと、小娘の恋愛について気にも留めないグレイは気づかないが、気の回るクルムと、恋愛ごとに敏感なファンファはルミネの視線にすぐに気が付いた。
何やらファンファがうずうずとし始めたのもこの辺りからである。
「私の方も、しばらくの間はジグ殿がぴったりと護衛に就いてくださることになりました。ハップス王子、ご迷惑をおかけするかと思いますが、騎士団の方をどうかよろしくお願いいたします」
「まぁ、姉上から頼まれずとも、ですが……、ええ」
ここまで言われてハップスもようやく何やら察したようで、ルミネとジグを交互に見てから曖昧に頷いた。まぁ、まさかな、と疑いつつという感じではあるが、ハップスにしてはとても察しが良い。
察せられるようにルミネがわざと仕向けている部分はありそうだが。
きっとルミネはこうして、地盤を固めていくつもりなのだろう。
そんなわけで、報告も終わったところで今度こそ会議は解散。
ハップスとルミネたちは、それぞれの仕事をするためにクルムの区画から辞すと、クルムの方は仕事の続きをするために部屋へと戻る。
そして当然のように、ファンファは後からついてきた。
部屋に戻って仕事を始めようとした瞬間、ファンファが目を輝かせてクルムに話しかけて来る。
「ルミネお姉様とジグ殿は良い仲なのかしら!?」
「ええ、何やらそのような雰囲気ですね」
「素敵ね。クルムは王位継承争いに勝てば、それを許可するの?」
「お二人の自由にされたら良いかと思っています」
クルムがペンを持ちながら答えて、顔を上げないままさらに付け足す。
「それについてはファンファお姉様とお約束した通りです。無理に婚姻関係を強要するつもりはありません」
「……そうね、いいことね」
クルムはそのまま仕事の方へ没頭してしまったが、ファンファは勝手にクルムのベッドに腰かけるとパタパタと足を動かしてご機嫌に笑う。
いつだかクルムは、ファンファの自由恋愛の約束をした。
しかしその約束は、ファンファが圧倒的に負けている状態から無理やりもぎ取ったような約束であり、本当に守られるかどうか怪しいところがある、と、ファンファ本人は勝手に考えていたのだ。
いざとなれば破られる可能性も十分にあると。
いくらクルムを姉妹として信じていると言っても、王族には本音と建前がある。
もしかしたら無理かもな、くらいには思っていた。
だがクルムは本当に恋愛に関して寛容だ。
これは本人が婚姻関係の有用性だとか、恋愛に関わる情念だとかをあまり理解していないからという部分もあるのだが、約束は約束である。
きちんと守られそうだとわかれば、その分やる気も出るというものだ。
「私もちょっと外を回って働いてこようかしら」
しばらくそうして機嫌よくクルムの仕事をする背中を見守っていたファンファだったが、やがて勢い良く立ち上がるとつかつかと歩き出して、部屋の扉の前でくるりと振り返った。
「お姉様が色々頑張ってくるから、たまには期待して待っているといいわ」
何やら妙に気合いの入っているファンファの声に、クルムは顔をあげる。
やる気に満ち溢れた表情は、クルムからはいつもと変わらない能天気なものに見えた。
「……いつも期待していますよ?」
ふざけてばかりいるように見えるファンファであるが、これで案外常に、想定しているより良い結果をもたらしてくれたり、想定外の手助けをしてくれている。
たまには、なんて謙遜をするものだとクルムは不思議に思っていた。
「……そう。そうね! ふふ、さ、行くわよ!」
ファンファは期待されないことに慣れている。
自分を後援してくれている人たちも、自分が未来にもたらす利益に期待しているだけであったことには気が付いていた。
いつかは王宮の歯車の一つとなることも覚悟してきた。
だからこそ、そうではない自分の魅力に付き従う冒険者たちを近くにおいて大事にしてきたのだ。
クルムの期待は、ファンファにとっては、実はとても嬉しいものであるのだ。
「まったく、クルムはきっといい王様になるに違いないわね」
「そうですね」
区域を出るまでのご機嫌な独り言に、付き従っている冒険者の一人であるニクスが同意する。
ファンファは今まで以上にやる気を出しつつ、クルムのために街へと繰り出すことにするのであった。




