バミは吐き出させる
ホワイトは腕を組んで黙っているだけである。
実際にホワイトの父であるトルメンがいた頃の騎士団は、酷い混迷期であった。
大きな分裂も、決定的な崩壊もさせずに乗り越えさせた立役者の一人は、ジグであったと聞いているし、ホワイト自身もそう感じている。
互いの派閥で情報もろくに行き交わない状況下で、中継役として最低限必要な情報を橋渡しし、現場で指揮を取りつつ治安を何とか守り続けた功績は大きい。
前騎士団長と、ホワイトの父である前騎士副団長トルメンの仲違いの件も、別に特別ジグが煽り立てたわけではない。むしろ、ジグが仲裁を控えるようになったからこそ、関係の悪化が顕著になっただけだ。
その頃にはすでにホワイトが騎士団に入っており、めきめきと頭角を現していた時期だった。決定的に二人の関係に亀裂が入った原因だって、実はジグではなくホワイトにある。
ホワイトの活躍を許せず、何かといちゃもんをつける前団長と、それを庇うトルメン。
互いの罪を探り合い、互いの憎しみ合いは激化。
やがて一触即発の殺し合い寸前まで至る。
騎士団の今後のためにと、過半数以上の騎士の同意の下、問題を表面化させてどちらをも引退に追い込んだのもジグである。
その際、トップの二人が引退し、数名の騎士が巻き込まれて退職。
騎士団自体が弱体化したことは否めない。
流れからして当然ジグが団長に収まるべきところを、ジグは力不足だと言って、ホワイトを新たな騎士団長に推薦。
自分はそれを支えると言って副団長の地位に落ち着いたのだ。
それからもジグは堅実にホワイトのことを支えた。
最初はホワイトの団長就任に不満を覚えていた者たちも、その実力を知るにつれて少しずつ言うことを聞くようになっていった。
ただ、その結果を出すことができたのも、ホワイトが自由に動くために、ジグが組織を腐らせぬよう見てくれていたおかげである。
その全てを、ホワイトは頭の片隅で理解していた。
理解していたからこそ、これだけ迷っているのだ。
改めて考える時間を設けられると、改めて重たい事実ばかりがホワイトの判断を鈍らせようとする。
全てを剣で解決してきたつもりのホワイトであるが、それでも協力者はいた。
ジグが支え、バミが手を貸してくれたおかげで、今の騎士団長ホワイトがあるのは間違いないのだった。
「……ジグ、正直に答えろ」
ホワイトはバミではなく、唇を噛んでいるジグの方を向いて尋ねる。
「自身で団長にならず、私を団長に推した理由はなんだ。私がそれほど役立たずに見えたか? 私が騎士団を衰退させ、教皇にとって有利に導く存在に見えたからか?」
ジグはすぐに答えない。
しかしホワイトは辛抱強くジグの答えを待った。
「そうかもしれんのう。お主は好き勝手ばかりやるから、なんかやらかすと思ったんじゃろうな」
「黙れ馬鹿」
沈黙に耐えられなくなったグレイが余計な茶々を入れると、バミが即座にグレイを罵り、反論する隙も与えずに続ける。
「答えられぬなら、私が想像で語ることになるが、どうする」
「信じていただけぬかもしれませんが、正直に申し上げます」
ジグもグレイに話を引っ掻き回されたくなかったのだろう、覚悟した顔で語り出す。
グレイは不満顔で、クルムはそんなグレイの態度を少しばかり恥ずかしそうにしている。身内が馬鹿をすると恥ずかしいあれである。
「傍から見れば、ホワイト団長は粗削りで、いかにも問題を起こしそうに見えたでしょう。騎士団の全体的な戦力は低下し、私としてもそのために問題を起こさせたと、教皇に言い訳をすることができた。私が支えるのをやめれば、騎士団は自壊する。実際そのような時期があったことも確かであり、教皇たちは私への信頼度を上げました。具体的にどのような動きをするのか、何を守るべきなのか、情報を共有するようになりました。計画の全貌が見えるようになったのです」
ジグは真っすぐにホワイトを見つめ返しながら話を続ける。
「実際は……、私は団長に賭けていた部分があります。頭が二つあるばらばらの状態の騎士団は弱かった。そしてお二人とも相手に上げ足を取られまいと、自主性に乏しかった。あれではルミネ様を助けるきっかけを作ることができません。しかし団長であれば違います。団長の強さと行動力は申し分ない。初めのうちこそ騎士団はバラバラでしたが、結果が出るよう支えているうちに、皆が団長のことを認め、騎士たちの団結を感じるようになっていきました。それにつれて他所と密かに繋がっている者のあぶり出しもできるようになった。団長は私の期待に応えてくれました。団長のお陰でルミネ様を助け出すことができました。私がいなくなって、一時的に混乱が起こるとしても、騎士団はいずれ団長を中心にさらにまとまっていくはずです。裏切っておいて何ですが、長年調整をしてきた私が言うのだから間違いありません。だから、団長は細かいことなど気にせず、あなたらしく、あなたの思うままに判断していただきたい。これで私を罰さないなど! 迷うなど! あなたらしくない!」
語るうちに心の奥底にあったものが漏れ出してきたのだろう。
ジグは気づけばクルムとの約束などすっかり放り出して、自らを罰するように催促をしていた。
ルミネを守りたいと思う気持ちが嘘であるのではなく、ホワイトという男の生き方に惚れてもいたのだろう。そしてそれを裏切り続けてきたことを、ずっと心苦しく思っていたのだろう。
「……ただ、団長。ルミネ様の身の安全だけは、どうかお願いいたします」
ホワイトは腕を組み、眉間に皺を寄せ黙り込んだ。
「…………分かった」
十数秒後、ホワイトはそう言いながら重々しく頷いた。




