ついでに
「……お二人はどこまで状況を把握されているのですか?」
二人のペースで話を進められ、そのまま乗せられそうになったクルムだが、一度立ち止まって問い返す。バミをはじめこの二人が好意的に接してくれていることは分かっているが、交渉事でペースを握られて良いことなどない。
この辺りのことは、〈リガルド〉から馬車で帰ってくるときに、パクスと散々話をしていて学んだことだ。
「どうやら昨晩のうちにことが大きく動いているらしいこと、ですかね。夜中に随分と動き回っていたらしいことは、スペルティア様の〈治癒室〉の護衛から聞いています。教皇が命を落としており、騎士団が教会関係者を多数捕まえているとか」
クリネアがつらつらと述べると、間を置かずホープがそれを引き継ぐ。
「ルミネ王女殿下とスペルティア様と共に、大通りを歩いていらっしゃいましたね? 昨晩からスペルティア様がお帰りになっていないそうですから、お二人もこちらにいらっしゃるのではないかな、と。正直なところ、分かっていることはそれだけです」
それだけ、というには情報をたくさん持っている。
「ということは……、本当に何かやれることがあるのではないか、という段階なわけですね」
賢い者ばかりを相手にしていると、既に状況を把握したうえで利益を求めて交渉じみたことをしてくることも多い。しかしこの情報の把握具合とごまかしのない開示を見て、ホープとクリネアが何らかの形で、本当に手を貸すために来ている可能性が高いとクルムは判断をする。
ではなぜ手を貸すのか、縁がある以外の部分の理由を考えていたところ、ほぼ間を置かずにクリネアが続ける。
「……もう少し踏み込んで申し上げますと」
クリネアがちらりとホープへ視線をやり、頷くのを確認してから続ける。
「バミ様がスペルティア様の心配をされているので、余計なおせっかいをしに来た、とも言えます」
「心配なら自分で見に来ればよかろうに」
「いやー、ほんとそうですよねー」
「私たちもそう思ってるんだけど、この間の先生との話を聞く限り、バミ様って恋愛にすっごく奥手みたいだし、仕方ないなぁって。それはそれで可愛くない? 純粋だなぁ、愛だなぁ、って私は思うけどなぁ」
グレイが突っ込みを入れると、ホープが深く頷きながら同意し、クリネアがバミのフォローをする。
「爺がうじうじしてても可愛くなどないじゃろ」
「先生は女心が分かってないなぁ。あの堅物で頭の切れるバミ様がスペルティア様の件に関してだけはあまり触れないようにしつつ、めちゃくちゃ気にしてるの、すっごくいいんだから」
「そんなもん分からんくても良い」
グレイがあきれ顔で切り捨てると、クリネアは指を組んで祈る様なポーズを取りながら語る。
「いやぁ、ずっとスペルティア様に弱みでも握られてるのかと思ってたんだけど、この間先生と話してるの聞いてピンときちゃったんだよね。これは、愛だ、って」
「良くないと思うなー、そうやって面白がるの」
「私はバミ様のこと真面目に考えてるの!」
いつの間にか三人でワイワイと騒ぎ始めたのを見て、クルムは少しばかり気が抜けてしまった。グレイの周りにいる人間は、変人ばかりだが、それでいてとても人間らしい。
クリネアはしばらく独自の理論を展開していたが、やがて咳払いをすると再び姿勢を正してきりっとした表情に戻る。
「そういった事情がございまして、昨晩何が起こったかを知るために参りました。もちろん、できる限りのお手伝いはさせていただきます」
「事情は理解いたしました。…………先生は、バミ様をスペルティア様に会わせたいのですよね?」
「うむ、どんな顔をするか拝んでやりたい」
グレイは意地悪な顔をして笑った。
「そうですか……。お二人は今日、バミ様に言われていらっしゃったのですか?」
「いえ、私たちは本日お休みをいただいておりました」
「実は私としても、今回の件でバミ様にご相談したいことがあったのです。今から直接お邪魔させていただきましょう。バミ様はどちらでお過ごしですか?」
「先日クルム王女殿下がいらしたお部屋で、今日もお仕事をされております」
クルムがにっこりと笑うと、クリネアもにっこりと微笑んで返す。
「では、申し訳ないのですが、夜が更けたらお迎えに来ていただけますか? 私一人でお二人と一緒にお部屋にお邪魔させていただきます」
「お一人でいらっしゃるのですね。では、そのようにお伝えしておきます」
「悪いなぁ……、ふふ」
ホープは一人非難するような言葉を口にしながらも、我慢しきれずに笑いを漏らす。
スペルティアは以前、バミの部屋を何度か訪れたことがあると言っていた。
しかしそのたびに部屋にはいなかったとも言っていた。
そのことからクルムは、おそらくバミが何らかの方法で、スペルティアの来訪を察知していると判断したのだ。
先に自分だけが行って、後からグレイに、スペルティアやルミネを連れてやってきてもらう。そうなるとバミは、気付いたとしても、雲隠れするためにはクルムとの話を途中で切り上げざるを得ない。
真面目なバミが王女を相手にそんなことをする可能性は非常に低い。
上手くはめて、バミとスペルティアを会わせてしまおう、という作戦である。
クルムは言い訳として、スペルティアとルミネを守るためにグレイを置いて行ったら、勝手についてきてしまった、と言えばいいだけである。
後のことはスペルティアとバミ、それにグレイで話し合ってもらえばいいだろう。
この場にいるのはグレイとその弟子だけ。
その誰もが、グレイのお節介癖と性格の悪さを多少なりとも受け継いでしまっているようであった。




