ホワイト来襲
「二日かけて怪しい場所を調べ尽くした。どうやら薬の話は、報告としてきちんと私まで上がっていなかったようだ。グレイ殿が薬を扱っている組織を重点的に襲撃していたこともはっきりした。騎士以外の者が勝手に争うことは好ましくないが、正義に基づいて動いていたことは理解できた」
グレイと殴り合ってから、怪我を治してそのまま街の薬を取り扱っている場所を襲撃して回っていたらしい。ジグが昨日の時点でそれを把握していないということは、その結果通報もしなければ、悪人をとらえてもいないのだろう。
目的のためにただ襲撃し、情報を収集する。
あちらからすれば辻斬り同然の、訳の分からない騎士団長の押し入りである。
この世界には捜査令状なんてものはないので、完全に個人による勝手な大暴れだ。
場合によっては関係ないところまで襲撃されている可能性すらあると考えれば、正義の暴走状態である。
「やるではないか」
実際に動いて情報を収集してきたので、グレイとしても好感触。
ホワイトの方からも、グレイの方からも少し気持ちが歩み寄った形である。
「それを伝えるために、こんな夜更けに?」
そんな粗暴者たちの心温まるコミュニケーションはともかく、クルムにとってはこんな夜更けにホワイトが何をしに来たのかが重要である。
「薬を生産している場所がわかった。ジグに勝手に動いていることがばれる前に襲撃する。王女殿下も興味があるのではないかと、声をかけに来た次第だ」
「行きましょう」
「……そうか。……王女殿下はそういう方か」
間髪を入れずに答えたクルムを見て、ホワイトはぽつりとつぶやいた。
随分と口の立つ王女だとは思っていたが、それだけではなく、非常識である(と、一応ホワイトも認識している)来訪者の情報の真偽を即座に判断し、必要とあらばその情報に身をゆだねるだけの勇気がある。
ハップスがクルムに王位継承争いを任せた理由の一端を垣間見た形だ。
「では行こう」
ホワイトが背を向けて廊下を戻っていく。
その足にしがみついていた兵士に向けて、クルムは通り際に声をかける。
「対応ありがとうございます。私はこれから外へ出ますが、出かけたことは内密に願います。ウェスカ辺りは気づいているかもしれませんが、説明は帰ってからします。引き続きよろしくお願いします」
いつもは穏やかで少し抜けているようにも見えるクルムが、きりっとした表情で伝えて外へ出かけていくのを見て、いつも門番をしている若い兵士はぽかんとするしかなかった。
騎士団長相手に一切の物怖じもせず、その後を追いかけて出かけていくクルム。
どちらが本物なのだろう、と思いながら、兵士はよろりと立ち上がって、自分の持ち場へと戻っていくのであった。
ホワイトは適当なところで廊下から外れて庭へ降りると、そのまま直進。
王宮の壁まで歩いて近づくと、少し助走をつけて常人ではありえない高さまで飛びあがった。そうして壁の上に手を突き、そのまま力ずくで更に体を押し上げ、壁の向こうへと消えていった。
鎧を着ているとは思えない身軽さである。
残されたクルムが唖然としていると、グレイがクルムの腰に手を回した。
「え?」
「追うぞ」
グレイはクルムの意見など全く聞かず、そのまま三歩ほど加速し、地面を蹴って、ホワイト同様人ではありえない高さまで飛びあがり、そのまま壁の向こうに着地した。
つまりホワイトよりグレイの方が高くまで飛んだという結果になる。
勝ち誇った顔で待っていたホワイトを見るグレイであったが、ホワイトはそれを一瞥しただけで「行くぞ」と言って走り出す。
甲冑を着ている割に音はほとんど鳴らさず、そして早い。
深夜の街なんて出歩いているものは殆んどいない。
鎧の騎士が走っていようと、少女を小脇に抱えた爺が走っていようと、誰も見咎めたりはしない。もしいたとしても、こんな夜中に出歩いている時点で悪人である可能性は非常に高く、余計なことを言えば口封じされるだけであろう。
何せこの不良騎士団長と、化け物老人は、殺るときはちゃんと殺るタイプのやばい奴らである。
「薬はどこで作っておる」
「街の外れ、貧民街付近の孤児施設で薬草を育てている場所がある。おそらくそこを含むいくつかの場所で育てて、今から向かう西の貧民街の一角で作っている。教会と接続している場所だから、黒幕は教会だろう」
「お主、怪しい教会も襲撃したじゃろ?」
「した。悪さをしているのならどんな施設だろうが関係ない」
「儂も核心的な情報に迫るためにしてやろうかと思っておったんじゃが、流石にクルムが困ると思ってのう。騎士団長のやることならだれも文句言わんよなぁ」
「悪党どもより司祭の方が口が軽かった。不届き者どもが」
明らかにまずいことをやっているホワイトの言葉に、グレイはほっほっほ、と走りながら妖怪じみた高笑いをする。いわゆる糞と思っているところを、ホワイトがきちんと襲撃した上に痛い目を合わせてきたことに大変ご機嫌のようだ。
「全員ぶちのめして一気に黒幕まで叩くぞ!」
「そのつもりだ」
グレイの気合いが入った言葉に、ホワイトが同意する。
もはや王都においてこの二人を止められるものはいないだろう。
クルムには言いたいことが山ほどあった。
だが、馬車に乗っている時よりもひどい揺れ様に、今喋ったら間違いなく舌をかむと思い、その全てを飲み込む。
とにかく、二人のとんでもない会話を聞き逃さないようにするだけで精いっぱいであった。




