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Episode.2

「皆さん。卒業まで一年を切りましたね。今回の授業は、進路最終選考です。」


 来た。進路選択。この学園を卒業する魔法使い達には大きく4つの進路に分かれる。

 1つは、成績優秀者のみが選ばれる魔法研究所への就職。毎年定員10人なので狭き門だ。

 2つ目は王宮勤めの魔法騎士団。ある程度攻撃魔法が使え、入団試験に合格すれば入れる。

 3つ目、ガイア魔法使い派遣所。ローリングス家が営んで来た事業だ。

 外国へも広げようと商談に出かけた矢先、父は亡くなった。

 最後に、貴族達。貴族達、特に長子は家督を継ぐ為に、家業へ戻る人が多い。つまり、宝の持ち腐れという訳だ。



「ニア、アンタはどうするの?ってもガイアを継ぐ以外考えてないわね。」

「もちろん!」


 何年かかろうと、ハーベスト侯爵からガイアを取り戻す。そのためには婚約を回避しなくてはならない。


 ーーもし、ラルフと結婚してしまったら一生ガイアは取り戻せない。それに、あんな性悪と結婚だなんて、絶っっ対嫌よ。


「ニアはガイアを経営するローリングス一族だったね。でも確かガイアはハーベスト侯爵に買収されたと聞いたけど……」

「えぇ。なので買い戻せる程お金を持った人と、結婚するのが手っ取り早いかなーと、思ってはいるのですが…」


 学園にいる間は極力忘れたいのに。周りが忘れさせてくれない。

 入学して最初の頃も、ガイアの跡取り娘だと注目され、言い寄られて来た。

 しかし、ハーベスト侯爵に買収されたと世間に発表されるやいなや、みんなの態度は変わった。

 唯一変わらなかったのはミハイル。

 そんなミハイルの性格もあって親友になれたのだと思っている。


「なら、僕とかどう?」

「え?」

「オウジサマが無闇矢鱈(むやみやたら)に口説くんじゃないわよ…ニア、真に受けちゃダメよ?」


 突然の王子様スマイルで口説かれ、冗談だと分かっていても少しドキドキしてしまった。

 乙女なら誰しも一度は絵本に出てくる王子様と恋がしたい。と夢見るだろうが、実際の王族を見てしまったら神々しくて恐れ多い。

 ミハイルにも呆れたような目で見られている。


 とりあえず、ここは無難にガイア就職希望。にしておこう。


 元商家と言えどもたかが平民だ。入団試験で落ちた者たち含め、平民のほとんどはガイアに登録する。

 魔法使い派遣所と言うのは、魔法使い達みんなが皆社員で働いている訳では無い。

 社員は事務作業するために雇用しているが、魔法使い達は基本的に派遣登録をして、依頼をこなし報酬を貰うという仕組みだ。

 その中にはもちろん危険な依頼もあり、魔物討伐も含まれたりしている。

 市民からの個人依頼、騎士団からの依頼も受け付けている。



「皆さん終わりましたね。さて、騎士学園との共同実習も来週に迫って来ましたね。残りの時間は実習の際のグループ分けをします。」


 ーーもう来週なのか…全く気乗りしない。


 騎士学園には、私の苦手な婚約予定のラルフが通っている。

 会いたくない…グループ別れてますように。


「グループ分けと言っても、成績順になっているので、簡単に発表します。」


 グループは一組四人、騎士学園と合わせて八人グループでの行動らしい。

 公平を期すために、成績ごとに向かう場所は違うらしい。

 私達のグループは男爵令嬢のアマンダさんと、私、ミハイルとセドリック様の4人だ。

 騎士学園のメンツにもラルフの名前はなかった。


 ーーよかった。卒業まではなるべく会いたくない…


「頑張りましょうね。ニア。」

「うん。」


 ミハイルの鼓舞に覚悟を決め、頷いた。



 共同実習当日。今、私はものすごく窮地に陥っている。

 グループ分けの為、騎士学生も魔法学生も集まるグラウンドにて、目の前に、会いたくなかった、会わないようにしていた人物が立っていた。


「久しぶりだな。ニア。相変わらず冴えねぇツラしてやがる。」

「……ラルフ。」

()()()の癖に生意気に学校なんか通いやがって。」

「言いたいことはそれだけ?用がないなら私もう行くから。」


 ーー相変わらず性格が終わってる。ホントに嫌いだ。


 これ以上話していたくないので、私は走って逃げた。

 少し先の方にミハイルとセドリック様が立っている。ミハイルは、如何にも不機嫌です。と言いたげに腕を組み、ラルフを睨み付けていた。

 美人ってほんとに、真顔なだけでも怖いのに、敵意の表情はさらに怖い。


「ティターニア嬢、あの男知り合い?」

「うん。まぁ。そんなところです。」

「嫌な感じがするわね。余り関わらない方がいいと思うわ。」

「んー……多分それは無理かな。」


 はははと苦笑いが溢れる。二人は不思議そうに顔を見合せていたが、察してそれ以上聞いてくる事は無かった。



 合同実習はつつがなく終わり、私達は集合時間まで雑談をしていた。

 大樹の傍に大きな布を広げ、八人で囲うように座り、真ん中に菓子を広げ軽いピクニック状態だ。


 そんな中、話しながら気付いたことが一つある。

 それは、騎士学生の内二人から溢れ出す幸せオーラ。と言うか、対面に座っている二人の近すぎる距離。あれは後ろで手を繋いでいる。

 恋人を作ることを目標にしている私にとって、付き合った過程など是非とも聞きたいものである。

 が、私には自然に恋愛話を始めるテクニックなどない。

 こんな時は頭を使わず、直球に。


「あの、みなさんって恋人とかいらっしゃるんですか?」

「急だね…」

「えへへ。皆さんかっこいいから、気になっちゃって。ミハイルなんてこの美貌なのに、恋人はおろか婚約者もいませんからね!」

「へぇ〜そうなんだ!意外だね。」


 ーーよし、みんな食いついた。作戦成功だ。


 心の中でガッツポーズをする。ミハイルから時計回りに、これまでの恋愛遍歴を軽く話す流れへと持ってきた。

 のはいいのだが、このまま行くと最後に話すのは私になってしまう。

 最後は嫌だと思ったが始めたのは私だ。これも運命として受け入れるしかないのだろう。


「アタシは今絶賛初恋中よ。以上。」

「えぇ〜!?そうなの?誰?男?女?」


 初めて聞いた。まさかあのミハイルが恋をしていたなんて。

 私からすれば口煩い親戚のおばさんの様なので、ミハイルに恋のイメージは持っていなかった。

 驚きのあまり彼の肩を掴み、揺さぶってしまう。

 騎士学生の人たちも意外だったようで、目が点になっている。


「意外です。小さい頃からたくさんの方に好意を向けられていたので、てっきり一通りは済ませてるかと…」

「ちょっと失礼ね。正真正銘、初恋中よ。相手は…秘密。」


 貴族出身の騎士学生に向けて、ミハイルは未だかつて見たことの無い色気を振りまき、唇に人差し指を当て、ウィンクをする。

 免疫のあるセドリック様と私以外みんな喰らってしまった。


「でも、ミハイルって学園では全く好意を寄せられていないそうだよ。」

「え!?」


 セドリック様が即座に話を繋ぐ。

 ミハイルモテない発言を聞き、騎士学生達は声を揃えて驚いた。もちろん私も。

 魔法学生側からの、知らなかったのかよと言いたげな視線を浴びる。


「だって顔はいいから、黙ってれば…ねぇ?」

「ふふふっティターニアさん、それがそうでも無いんですよ。」


 笑いながら話してくれたのは、ずっと静かに話を聞いているだけだったアマンダさんだった。

 アマンダさん曰く、ミハイルは四六時中私と行動を共にし、よく失恋する私の事を慰めたりお世話をしてくれているため、すっかりティターニアの母と言う印象が着いたのだそう。



「えぇ…それは、なんかごめんね。せっかく意中の人が居るのに…」

「別に今更よ。そんなの関係なく、振り向かせてあげるんだから。」


 この2年、振り返れば確かにミハイルは私のお世話ばかり。

 本当に申し訳なく思った。


「次は殿下ですが…あの、大丈夫なのでしょうか?無理にお話されずとも。」

「ん?あぁ。気にしないでいいよ。僕は婚約者はいない。第三王子という事もあり自由にさせてもらってるよ。」


 飲んでいた紅茶を静かに置き、笑顔で答える。

 洗礼された所作はとても美しく、みな釘付けになっている。


「じゃ、じゃあ!好きな人や!?気になる人は!?」


 キャー聞いちゃった!!!これって不敬罪になる!?大丈夫!?

 内心ドキドキしながら殿下を見つめる。

 王族の恋愛事情。ここでしか聞けない秘密が聞けちゃうかも!!と期待に胸を高鳴らせる。


「まぁ、正直言うと気になる人はいる、かな?とても可愛い子だよ。」

「何よそれアタシ聞いてないけど?」

「初めて言ったからね?親友のミハイルには後で特別に教えてあげるよ?」


 そう言って蕩けるような笑みを見せたかと思うと、余裕そうな顔をしてミハイルへ向けてウィンクをする。

 ミハイルだけ特別!?私達も気になる〜。

 なんて思いながら、殿下の気になる人。が気になってみんな紅茶はなかなか進まない。


「じゃあ最後に、ティターニアさん!」


 騎士科の紅一点が笑顔で私を指名する。

 私はティーカップを置き、何処まで話すか一瞬考える。

 考えて出た結論は話の流れに任せるだった。


「一応、婚約者候補は居ます。卒業したら婚約予定なんですけど…正直言って、私その人が昔から苦手で…なので、卒業するまでに恋人を作ってその恋人と婚約出来ればなぁって思ってます!」


 魔法科の方ではみんなが知っている話だが、騎士科の人達は初耳だからなのか、少し気まずそうな顔をして、お互いの顔を見合せていた。

 そして一人が意を決したように、先程の和やかな雰囲気とはうってかわり、神妙な面持ちで話し始めた。


「ティターニアさん、ラルフ様の事ご存知ですよね?」

「え、えぇ。」

「その、ラルフ様からお聞きしていた話と、今ティターニアさんから聞いた話が違うと言うか……」

「ねぇ、ティターニアとそのラルフって男、なにか関係あるのかしら?」

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