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Episode.1

 身を粉にした半年間の生活の中で、私、ティターニアの中の何かが壊れた。


 ーー私を1人にしたお父様。もう、お父様の事業を継がなくていいんじゃないかしら?全て投げ捨てて、自分の生きたいように生きるのよ。


 そうよ。そうしましょう。その為にはまず、ラルフとの婚約回避のために恋人を作ろう!

 この3年間、恋と勉強を頑張ろう!そう心に決め、2年が過ぎた。

 卒業まで残り一年を切った今、私はものすごく焦っている。


「大変……ミハイル。卒業まであと1年なのに。恋人が居ない……」

「……はぁ。ニア、アンタまだ恋人を作る気でいるの?もういいじゃない。諦めなさいよ。アタシが隣に居るのに不満なの?」


 隣で呆れ顔をしている彼はミハイル・アルバート。一応性別男の私の親友である。

 そして中性的な美しい見た目とは裏腹に、口調はお節介なお姉様。性格はお世話を焼きたがる母のよう。

 私達の出会いは入学した日の事。



 ハンカチなんて高価なものを買えなかった私は、御手洗を出て、濡れたままの手を振って水気を飛ばして歩いていた。

 そこへたまたま通りかかったミハイルの顔へ思いっきり水滴が飛び、ミハイルを怒らせた事がきっかけだ。


「アンタ……女の子なんだからハンカチの1枚や2枚持ってなさいよ!手を拭かずに出てくる淑女なんて見た事がないわ。」

「ご、ごめんなさい。」

「まぁいいわ。これ、使いなさい。美しくて優しいアタシに感謝する事ね。」


 そう言ってミハイルは、自分が持っていたハンカチを私に貸してくれた。


 ーー今のは同じクラスのミハイル・アルバートさんよね?


 公爵子息であり、その美貌。それ故にクラスの女子達が騒いでいたので何となく覚えていた。

 言動が紳士のそれとはかけ離れていたので、第一印象からのギャップもあり、強烈に覚えている。



 その翌日、私は洗ったハンカチを彼に返すため、話しかけた。


「アルバート様、昨日は申し訳ございませんでした。ハンカチもありがとうございます。あの、しっかり洗いましたので、お返しします。」

「あら。昨日の御手洗娘ね。丁寧にありがとう。アナタ名前は?」

「えっと、ティターニア・ローリングスです。」

「ティターニア、ね。ニアって呼んでいいかしら?」


 何故か彼に気に入られてしまい、学園での友達第一号ができた。

 それからミハイルは、何かと世話を焼いてくれている。

 恋人を作ろうとすると、アドバイスをくれたり、デートの日には可愛く着飾ってくれたり。


 ミハイルのおかげで、付き合う一歩手前まで上手くいく事は多々あった。

 でもみんな、お付き合いまでには至らなかった。



 そして今、本格的に焦り始めていた。今日から最終学年の三年生。残された時間は1年未満。本当にまずい。

 旧校舎の図書館の端で、お気楽なミハイルを冷めた目で見つめていた時の事だった。


 一匹の蝶がひらりと私達の前に止まる。

 その蝶は鱗粉を撒き始め、鱗粉は文字を綴った。


 “ミハイル・アルバート並びティターニア・ローリングス

 至急学園長室へ来るように。”


 私達が読み終わった頃に蝶と鱗粉は綺麗に消え去った。

 どうして呼び出されたのか、お互い心当たりがなく、顔を見合せて首を傾げる。


「どうせアンタの事だから、知らず知らずのうちに何かやらかしたんじゃないの?」

「そんなわけない!……たぶん。」


 この2年間、何かと学園を騒がせた私達。

 ある時はカラフルな薔薇を作れば売れるんじゃないかと、まだ未習得の色替え魔法を学園の庭に放ち、庭全体をカラフルに染めあげたり、またある時は校外学習で山に行った際、動物がお喋りするようになれば、面白いと森に言語を付与魔法で与えたりもした。

 あの時は森が聞いた事のないイントネーションで一斉に話し出して、生徒全員パニックになったんだっけ。


 その度にミハイルが一緒に怒られてくれて。思い出すだけで申し訳なくなる。


 それでも退学にならなかったのは、一重に魔力量と成績のおかげだ。

 一応これでも私は学年2位の成績である。

 1位はミハイル。抜かしてやりたいが何故か抜かせない。



 私が上位の成績をキープしているのにはとある理由があった。

 父の行っていた事業は、魔術師の派遣業務だった。

 先祖代々続けて来たこの仕事は、国中に支店を構えるほど大きい。

 卒業して事業を継ぐ為に、成績は落とせないのだ。



 思い出している間に、ミハイルが転移魔法を使ったのか、いつの間にか学園長室の前へ着いていた。

 私は急いで身なりを整え、扉をノックする。

 中から老人の優しい声で入室を促される。

 私達は「失礼します。」と声を合わせ、扉を開けた。

 中には学園長が執務椅子に座り、もう一人、見たことの無い青年が応接のソファへ座っていた。


 ミハイルは彼を見るなり、膝を着き頭を垂れ、「王国の太陽、第三王子殿下にご挨拶致します。」と告げる。

 私もその言葉を聞き、急いで最上級の礼をして同じ言葉を続けた。


「楽にしてくれ。ミハイル。それにローリングス嬢。」


 そう言われて、私達は姿勢を正す。

 第三王子と言えば、魔法の才に優れており、更に学ぶ為数年前に隣国へ留学へ行っていた筈だ。


「王子は留学を終え、帰ってこられたのじゃ。そしてそれを機に1年だけではあるがこの学園へ通う事となってな。そこで、成績優秀者の君たち2人に学園の案内を任せたいのじゃが、良いかの?」

「はい。もちろんです。」

「お任せ下さい。」


 ーー王族の案内役……失礼がないように頑張らないと!


 ただの商家出身、庶民の私には一生関わらないであろうと思っていた王族のお世話係。

 これは責任重大である。


 そして顔合わせが終わり、第三王子を含めた私達3人は学園長室を後にした。

 無言のまま、ミハイルは前を歩き出した。そしてその後を第三王子が着いていく。

 私はどうしたらいいのか分からず、固まっていると、第三王子は優しく手を引いてくれた。



 しばらく歩くと、人気のない場所へ着いた。

 ミハイルは私達の方へ振り返ると、突然手を振り上げ、あろう事か私の手を引いてくれていた王子の手に叩き落としたのだ。

 あまりに突然の事に、思考が停止してしまう。


「アンタね!どさくさに紛れてアタシのニアに触ってんじゃないわよ!」


 ミハイルはそう言ってぷりぷりしている。


「はははっごめんごめん。ティターニア嬢が美しくてつい。あ〜ミハイルをからかうのは本当に面白いね。」


 2人のやり取りをみて、頭の中にはハテナばかりが浮かんでくる。

 意味がわからなさ過ぎる。とりあえず無理に頭を使うのをやめよう。

 あぁ。今日も空が綺麗だ。ふわふわの雲が浮かんでいて、いつかあの上に乗りたい……


「ニアが固まってるじゃないの。ほら、ちゃんと説明するから帰ってきてちょうだい。ニア、ニア〜!」

「はっ私は何を……」


 それからして2人の説明を受け軽く理解した。


「えっとつまり、2人は幼なじみで、本来はミハイルも留学へついて行く予定だったけど、大人の事情で着いて行けなくなり、ここへ通って居た。と、そして王子も留学を終え合流した。という事ですか。」

「簡潔に言えばそうね。全く、王子ったら手紙くらい寄越しなさいよ!」

「ごめんよ。改めて、セドリック・ウィリアムズだ。セドリックと呼んでくれ。」


 ミハイルってとっても美人だと思ってたけど、自己紹介をして微笑む王子様はまた違った美しさがある。


 ーーわぁ……太陽と月の神様がいるならこんな容姿なんだろうなぁ……


 二人の神々しさに当てられ、その後どう過ごしたか記憶が曖昧だった。

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