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獣になっても君が恋しい  作者: 礼三


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外伝 ネモフィラが咲く頃に…。4

 温泉へ繋がっている部屋へスィーリは男の寝巻きを用意した。

 リンネアはスィーリの寝室で眠っている。リンネアはかなり衰弱していたので、看病をするためにスィーリは自分の寝室で寝かせた。

 男も随分と窶れていた。今夜ばかりは気兼ねなく疲れを癒してほしいとスィーリは思った。


 だが、しばらくたっても男は戻ってこない。


 まさか…。湯船で眠ってしまったのではないだろうな…。


 風呂で寝るのは厳禁だ。健康な成人男子でも溺れて死んでしまうことがある。

 スィーリは心配したが、魔法陣で転移してもスィーリは男湯へ行けない…。

 とりあえず、テーブルの上にメモを残すことにした。


『君の連れは私が面倒をみているので気にしなくて構わない…。客室は魔法陣の部屋の右隣になる。お腹が空いているようなら、メモに添えてあるサンドイッチを食べなさい。ゆっくり休むといい…。おやすみ…』


 スィーリが部屋に戻るとリンネアが身体を起こして窓の外を眺めていた。

 先程までの嵐は静まり、窓から月明かりが差しこむ。白い月影に照らされたリンネアの横顔は儚く散っていきそうで、スィーリは思わず声をかけた。

「リンネア…。起きあがっても大丈夫か?」

 スィーリは手近にあるクッションを手に取るとリンネアの背中へ当てた。

「はい…。ありがとうございます…」

 リンネアのはっきりとした発音にスィーリは唖然とした。


 さすが、マッティが発見した温泉だけあって素晴らしい効能だ…。温泉の蒸気が喉を温めたのがら良かったのかもしれない…。


 温泉と魔素の地脈が交差している場所から湧いている湯だけあって、多くの効能が認められてきたが、喉にも潤す効果もあるらしい…。

「スィーリ様、ごめんなさい…。私を許してくださいますか?」

 唐突に、リンネアが上目遣いでスィーリへ告げた。

「何故、貴女が謝るのだ…。許しを請うのは私の方…」

 リンネアはスィーリの答えに睫毛を震わせた。


 そうか…。今日は地上の青空祭の日だったな…。


「いや…。貴女が望むのなら答えよう…。私はリンネアを許す…」

 この祭りは穢れを祓う以外にもう一つの趣旨がある。大切な人に許しを願う日でもある。

 謝られた相手は笑顔で謝罪を受けいれなければならない。実際は容認できない事柄も多くあるだろうが…。


 ネモフィラの花言葉は「あなたを許す」



 王太子ヴァイヌはリンネアが失踪した年にこの祭りの開催を国王へ提案した。ヴァイヌは密かにリンネアをずっと想っていた。彼女が産んだ息子のことも忘れたことなど片時もない。

 それは誰も知らないことだ…。

 いや、王太子妃であるソフィアは察していたかもしれない…。



「ふふ…。ありがとうございます。出来得るなら来世ではスィーリ様と親友になりたいわ…。烏滸がましいかしら?」

 鈴音を転がしたような軽やかな声音でリンネアは尋ねた。

 スィーリはベット脇へ椅子を移動させて腰をかける。近くでリンネアの顔を確かめると、心なしか肌の色艶も戻ってきたような気がした。

 温泉効果でリンネアは回復するかもしれない。

「来世などと何を言う?今この時から私と親友になれば良いではないか?」

 満面の笑みでスィーリはリンネアの手を自身の両手で包んだ。

「ありがとうございます…。これで…。思い残すことはないわ…」

 リンネアは俯すとその手へ額を乗せた。そのためスィーリはリンネアの表情が分からなかった。

「まだまだだ…。成長したトイヴォにも会ってもらわなければならぬ…」

「トイヴォ…。あの子にとって、私は…。あの子の父親もだけれど…。本当に申し訳ない親でした…。本当にヘンリック様とスィーリ様の子供として生まれてくれば…。きっと、あの子も幸せでしたでしょうに…」

「リンネア…。それは…」

 スィーリはリンネアが何を伝えたいのか本意が分からずにいた。トイヴォがヘンリックの子供であるのは間違いないのに、リンネアは何故か第三者の子であるように話している。

 きっと、リンネアは錯乱しているのだろうとスィーリは推測した。

「いいえ…。スィーリ様、私はそう思うのです…。ごめんなさい…。私…。少し疲れました…」

 リンネアが弱々しく告げる。スィーリはリンネアの頭へ腕を回してゆっくりと寝させた。

「そうだな…。無理をさせた…。眠りなさい…」

「まだ…。名残惜しいのです…。宜しければ…。私が眠りにつくまで側にいて頂けませんか?」

「ふっ…。私の親友は存外に甘えただな…」

 スィーリとリンネアを月光が優しく包みこむ。誘われるようにスィーリは空を見上げた。

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